5話 元カレはハイスペックです
4月25日土曜日。
今日、私はカラオケに行く。
一人でじゃなくて、四人で。
「あ、朱音ちゃんだ!やっほー」
「泉ちゃん!やっほー」
私たちは、謎の挨拶をした。
ここは赤谷高校の最寄りの駅で、私の家の最寄りの駅でもある、赤谷駅。
私たちは、一度ここで待ち合わせをして、それから残りの二人との待ち合わせ場所へと向かうことにしていた。
「それにしても、いつも来てもらってばっかりでごめんね?」
「いいよいいよ。私も一人で行くのは心ぼそいし」
「そっか。ありがとう」
私たちは、次に来た電車に乗って、目的地へと向かった。
「それにしても、秀真から誘われたときは、びっくりしたよ」
「え?泉ちゃんは平川くんから誘われたの?」
「え、うん。てことは、朱音ちゃんは高原君からってこと?」
「そう!」
私たちは、二人で乗り込んだ電車で、そんな話をしていた。
ちなみに、何故乗り換えたのかと言うと、特急に乗った方が早くつくからだった。
それにしても、驚いた。
これは、海斗君が提案してるのかとも思っていたけど、泉ちゃんを誘ったのは平川くんだった。
ということは、もしかしてダブルデートって説が本当に濃厚になってきた?
私は、そんなはやる気持ちを抑えながら、泉ちゃんに話しかけた。
「でも、それなら二人で計画したのかな?」
「そうなんじゃない?多分、秀真がカラオケ行こうぜって感じで誘ったんだと思う」
「なるほど…。でも、何でわざわざ…」
私は、少し疑問に思ったことを口にした。
平川くんが海斗君に誘ったなら、何でわざわざ私たちを誘ったんだろ…。
私は、その真意が分からず、少し考え込んでいると、優しい声で名前を呼ばれた。
「朱音ちゃん!」
「は、はい!」
「あ、やっと気づいた。さっきから話しかけてたのに」
「ご、ごめんね…ちょっと考えこんじゃった」
「いいよ、全然。そっか、それで、何考えてたの?」
「あ、えっと、どうして私たちまで誘ったのかなーって…」
私がそう言うと、泉ちゃんはフフっと少し不気味な笑いをして、電車の仲なので控えめに自信満々な声で言った。
「そんなの決まってるじゃん!」
「え、えーと…」
「男女じゃないと、カラオケなんて楽しくないから!!」
「は、はぁ…」
泉ちゃんは、とんでもないことを言い出した。
カラオケは、男女じゃないと楽しくない、と。
公衆の面前で、堂々と、それはもう堂々と。
「そうでしょ?」
泉ちゃんは、当たり前だよね?といった様子で私に肯定を求めてきた。
いや、ごめんね泉ちゃん。私、結構お友達と遊びに行ったりしてたけど、男の子と遊びに行くのって、海斗君だけだったんだけど…。
え?これって普通じゃない?普通だよね?
「い、いや…。私、男の子とカラオケ行くのって初めてなんだけど……」
「え、そうなの?」
「う、うん」
私がそう言うと、泉ちゃんは信じられないものを見たと言った表情になった。
「そ、そっか…。朱音ちゃんって、もっと遊んでると思ってた……いや、確かによく考えてみたら、朱音ちゃんは男子が苦手だったね」
「あ、えっと、うん。まぁ…」
「そうだったね。でも、きっと今日でその良さに気づけるよ!」
「そ、そうかな?ありがとう」
私はそう言って、笑った。
ただ、男の子が苦手になったのは、海斗君と別れてからなんだけどね…。
「おまたせ!」
「遅れてごめんなさい」
私たちは、普通に遅刻してしまった。
理由はない。
ただ、時間配分を間違ってしまっただけだ。
私たちは、小走りで二人の元へと向かった。
「まぁ気にすんな。俺たちもさっき来たところだし」
「まぁな。海斗が集合場所間違えたからな」
「おい…」
私たちが二人の元へ着くと、海斗君と平川君が、決まり文句を言ってくれた。
「じゃ、こんなところで立ち話もなんだし、そろそろ行くか」
「そうだね」
「うん」
「そうだな」
そう言って、平川君と海斗君が歩き出したので、私たちは二人について行った。
「久々だわ、カラオケとか」
「そうだよね、昔は私たちも行ってたもんね」
「そうだな」
カラオケ店に着くと、泉ちゃんと平川くんは、久しぶりのカラオケに盛り上がっていた。
私たちは、二人で一度も来たことが無かったので、そのことについて、話そうとしたとき、海斗君が私に話しかけてくれた。
「そう言えば……」
「……」
しかし、海斗君は何か言いかけて、辞めてしまった。
私は、開いた口を閉じた。
「……」
「……」
海斗君は、その後も何も言わなかった。というよりかは、何も言えないと言った様子に見えた。
二人の間に微妙な空気が流れる。
私は、やっぱりまだ二人だけの時以外は、変に意識してしまうんだなと思った。
昔のことはもう乗り越えたつもりだったけど、やっぱり、別れ方が喧嘩別れだったからかな…。どうしてもまだむかしのようには戻れない…。
私は、この先どんなことをすればいいのか考えながら、席に座った。
「じゃぁ、さっそく歌おうぜ」
席に着くと、さっそく平川君が、仕切ってくれた。
「そうだな。でも、俺何気に初めてなんだよ、カラオケ」
「え、そうなの?高原君ってもっと遊んでたんだと思ってた」
「遊ぶときは大体運動だったんだよ」
「なるほどな。海斗らしい」
私も正直意外だった。
海斗君は、女の子にも誘われてたし、男友達も多かった。
だから、経験があるものだとばかり思っていた。
「志水はどうなんだ?」
「私はあるよ」
平川くんは、海斗君のこともあったからか、私にも経験の有無を聞いてくれた。
もちろん私は来たことがあったので、あると答えた。
「そうなのか。なら、初心者の海斗以外の3人の誰かから歌うか」
「じゃぁ、私がまずは歌うよ」
「お、泉か。泉は歌上手いからな」
「ちょっと秀真!あんまりハードル上げないでよ」
「大丈夫だって。泉はほんとに歌上手いんだから」
「もう!」
そんなことを言いながらマイクを持って立ち上がる泉ちゃん。
果たして、どんな歌が聞けるんだろ?
「ふぅ。疲れた…」
私は、歌い終えて、マイクを置いた。
私の点数は91点だった。
世間的には少し高いかもしれないけど、ここに居るふたりはもっとすごかった。
最初に歌った、平川くんのお墨付きの泉ちゃんは、97点。平川君は94点だった。
二人は昔から勝負をしていたみたいで、今日も勝負をしていたらしい。二人とも、本当に上手で、驚かされた。
「お疲れ様」
「うん、朱音ちゃんらしい可愛い感じだったね」
「もう、恥ずかしいよ」
「いや、朱音もうまいな……」
「そうだよね、普通に上手かったよね」
「確かに、引きずり込まれたわ」
「そ、そう?ありがとう…」
私は、みんなに褒められて、少しだけ恥ずかしくなった。
でも、嬉しかった。
「じゃ、次は海斗だな」
「あぁ、初カラオケ、頑張ってみるわ」
「頑張れ!」
「ファイト!」
こうして、みんなに背中を押されて、海斗君は人生初カラオケの準備に取り掛かった。
そして、マイクを手に取って立ち上がり、目を瞑った。
「「「……」」」
「疲れた……」
海斗君は、歌い終わると、そっと目を開けた。
私たちは、ただただ黙る事しかできなかった。
少しして、ようやく平川くんと泉ちゃんが口を開いた。
「お前、勉強できるからとは思っていたけど…」
「まさか、そこまでだったなんて…」
「海斗君……」
私たちが、言葉にならない言葉を発すると、海斗君は、心配そうな表情になった。
そして、海斗君が結果画面に目をやった時、ちょうど採点中から採点終了になった。
「お、ついに結果出るのか」
海斗君が、不安交じりにそう言うと、結果が画面に映し出された。
そして、その画面を見た瞬間、海斗君が、驚きの声を上げた。
「嘘だろ?」
「「「…」」」
私たちは、予想通りの結果だったが、それでも少し驚いた、
「100…点…」
海斗君は、現実であることを確かめるかのように、自分の点数を読み上げた。
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