19話 親友と親友

〈平川秀真〉


 俺は、病院へと走って向かう志水を見ながら、深く考えていた。


 何か、ミスを犯したのだろう、と。


 俺は、昔からよくあったのだ。

 俺が何かの選択肢をミスると、必ず周りに何かしらの被害が出る。

 当たり前なのかもしれないが、それでも俺はそれを意識しだしてから、自分の選択は慎重にするようになっていた。

 でも、やっぱり何かしらやらかしたらしい。


「なんだ…」

「どうしたの?」


 俺がそう呟くと、隣で歩く泉が頭に?を浮かべてそう聞いてきた。


「いや、何でもねぇ。ちょっとな」

「ふーん。まぁいっか」


 俺がそう言うと、泉は腑に落ちない様子だったが、納得してくれた。


「まぁ、そんなことより、今は海斗だな」

「うん、そうだね」


 俺たちは、気持ちは急ぎつつ、志水とできるだけ距離ができるようにしながら歩いた。




「高原さんは、607です」

「分かりました。ありがとうございます」

「あの…高原君の病状はどうなんですか?」


 俺が病室を聞くと、泉は海斗の病状を受付の人に尋ねた。


「はい。高原さんの病状は…現在良好です。倒れた原因は体調不良とのことです」

「…ありがとうございます」


 そして、受付の人に礼を言うと、俺たちはすぐに病室へと向かった。


「それにしても、まさか体調不良とはな…」

「そうだね。でも、無事でよかったね」

「そうだな」


 俺たちは、そうんな会話をしながら、六階までエレベーターを使って上がってきた。

 そして、エレベーターホールで、志水が返ってくるのを待つことにした。


 理由は、少し話しておきたいことがあったからだ。


「これを機に、また仲が戻ってくれればいいんだが…」

「そうだね。でも、たぶん、私たちも、少し軽率だったかもね…」

「あぁ。泉も気づいてたのか」

「うん。私は秀真の行動で。だから、たぶん秀真は私の行動で、よね」

「あぁ。でも、それで俺の行動を振り返ったんだが、いまいちピンとかないんだよ」

「そうだね。私もまだ来てない。けど、事の発端は多分…いや、私が言うことじゃないか」

「そうだな」


 そうして、俺はいすからたちあがった。


「俺はそろそろ行くわ」

「私は秀真の後にする」

「了解」


 そうして、俺は一人で海斗の元へと向かった。



 向かっている途中、志水とすれ違ったのだが…


「……」

「え?」


 志水は泣いていた。

 正直驚いた。


 泣いていたこともだが、それよりも一体何があったのかが気になった。


 俺は早歩きで病室の前まで行き、扉を開けて中に入った。


「よぉ、海斗。元気か?」

「あぁ、元気だよ、今はな」


 俺は海斗の姿をとらえると、声をかけた。

 いつも通り、とはいいがたい雰囲気だった。目を逸らしながら話している。


 俺は、とりあえず容態は安全と判断し、さっそく疑問をぶつけることにした。


「そう言えばよ、さっき泣きながら帰る志水を見かけたんだが、何かあったのか?」

「ッ…!」


 俺がそう聞くと、海斗はバツが悪そうな顔をした。

 そして、少し強めの口調で、海斗は俺に話してきた。


「お前、朱音とまた一緒に居たんだろ……」


 そして、それを聞いた瞬間、2つの疑問が浮かび上がってきた。


 1つは、何故志水と一緒に居たことを知っているのかだ。

 しかし、これは少し考えれば分かる。

 俺が来たタイミングもそうだが、それよりも志水が直接言ったのだろう。


 それよりも、気になるのはもう1つの方だ。


「また?」

「あぁ、そうだよ。お前、あの時も一緒に居たじゃねぇかよ。朱音と、二人で、ファミレスに」


 それを聞いた瞬間、背筋が凍り付いた。


 あぁ、少し考えれば分ったじゃないか。

 俺がとった軽率な行動。

 それは、どう考えても1つだった。コレだ。


 でも、俺は気が付かなかった。

 行動している本人よりも、意外と第三者の方がおかしな点に気が付きやすいとはよく聞くが、まさにそれだった。


 俺は、他の言葉は何もいらないと思い、ただただ誠意を見せるために深く頭を下げた。


「悪い、海斗!あれは俺の失態だ」

「…え?」

「あの日、お前と志水の昔の話を聞かせてほしいってたのんだのは俺なんだ」

「……は?」

「女に興味を示さないお前が、唯一興味を示した志水との関係が、どんなものだったのか興味があったんだ。だから、悪い…」

「秀真……」


 ただ、真実を述べるだけ。

 俺にはそんなことしかできなかった。


 それでも、どうにか誤解を解きたかった。

 俺がどれだけ悪く思われても仕方がない。でも、志水は被害者だ。


 二人の仲がうまく進展しなくなった事の発端は、俺だった。

 なるほど。泉はそれに気づいていたという訳か。


 そして、俺は泉の分の誤解も解いておこうと、話した。


「それと、今日は俺と志水と泉との三人で集まってたんだ」

「は?」

「志水が泉の家に中学の時のアルバムを持って来るって言っててさ、だから俺も一緒に見せてくれって言ってさ、それで一緒に見てたんだ」

「はぁ…」

「それで、泉が言うには、初めて海斗と一緒にデートへ行った服装できてくれって頼んだらしいんだ」

「あぁ……」


 俺がそう言い切ると、海斗はしばらく沈黙した。

 そして、何かを考え終えると「クソッ!」とつぶやき、自分が患者であることも忘れて病室を飛び出した。


「すまねぇ…」


 俺は姿が見えなくなった海斗に、そう呟いた。




 海斗が飛び場してすぐに医者が入ってきた。


「あれ?高原さんはいらっしゃらないのですか?」

「はい…少し急用ができたみたいで。すぐ戻ってきます」

「そうですか…。あなたは、高原さんのお友達さんですか?」

「はい、そうですね。少なくとも俺はそう思ってます」


 正直、今回の件で絶交されても文句は言えないと思っている。

 俺は、海斗の気持ちを知りながら、まったくもって配慮ができていなかったからだ。


 そんな俺に、医者は少し考えてから話し出した。


「彼には、体調不良とは伝えていないんです」

「へ?」


 俺は思わず間抜けな声が出た。


 1番重要なところを患者に伝えていないと言うのは、あり得ないのではないかと思った。


「いえ、倒れた原因は睡眠不足やストレスと伝えてはいるんですよ」

「はぁ」

「でも、体調不良とは伝えていません」

「そうなんですか。それは、どうしてですか?」

「…。彼が倒れた原因は、食事バランスが悪かったこと、睡眠不足、そして過度なストレス。この3つ以外にも、色々絡んでいると思われます。生活面で何らかの乱れが生じ、体があまりよろしくない状態にある中で、過度なストレスが決定打を打ったと考えられます」

「それは分りました。しかし、どうしてそれを伝えないんですか?」

「簡単な話ですが、彼はそれに気づいていないわけではありません。しかし、それを私が伝え、注意するようにと促すと、それだけでもしかするとストレスになるかもしれないと考えているからです」


 そう言う医者の目は、不思議なものを見たというものだった。


「どういうことですか?」

「彼のストレスの原因は、恐らく体調不良の原因の何かに関わっていると考えられます。恐らく、そのストレスを感じるものから避けたために、体調不良になったのでしょう」


 医者の話を聞いて、俺はすごいなと感心した。

 おそらく過度なストレスの原因は俺のせいで起きたものだ。


 だから、志水から距離を置くために食事を避けた。

 よって、変な食生活になった。


 つながる。本当にすごい。


「ですので、あなたに1つだけお願いがあります」

「はい。何でしょうか」

「彼が落ち着いたら、生活習慣を改めるよう、助言してあげてください」

「…分かりました。いずれ伝えます」

「よろしくお願いします」


 それだけ言うと、医者は病室を後にした。




〈春川泉〉


 お医者さんが病室から出てきた後、少しして秀真も出てきた。


「海斗君のこと、聞いたんだ」

「あぁ、泉も聞いたんだろ?」

「うん。それで、私の失態は今日のことだってわかった」

「そうか。俺は海斗と話して、一週間前のことだと分かった」


 私たちは、しばらく沈黙した。


「なぁ、泉」

「ん?」

「あの2人に関わるのは、一度辞めにしよう」

「…そうだね」


 私の考えていたことと同じことを、秀真は言った。


「正直、いらないことを俺たちがしすぎたと思うんだよ」

「そうだね。正直、今回私たちが一切かかわっていなかったら、何事もなくことが進んでたもんね」


 いや、少し違う。

 正直、もしこのまま進んでいても、いずれこの時が来ていたのは多分事実だと思う。

 今回唯一収穫にできたのは、│やり直し《コンティニュー》じゃなくて、│初めから《リスタート》に変えられたことだと思う。


 ただ、こんな危険を冒してまですることだったかと言われれば、そうではないと思う。


「まぁ、とりあえずしばらくはしっかりと傍観者を務めよう」

「そうだね」


 私たちは、今後の方針を、改めて決定した。


━ピロンッ


 そんなとき、私の携帯に一件のメールが来た。


 その相手は朱音ちゃんで、内容は「テスト勝負をすることになった」というものだった。


 何があったのかは分からないけど、あの二人なりの解決をしたのだろうと悟った。


 私は詳しく話を聞くために、朱音ちゃんに電話をすることにした。

 そのために一度外に出なくてはならない。


 秀真はもう帰るそうなので、一緒に降りることにした。




 朱音ちゃんから聞いた情報によると、二人は中間テストで勝負をして、勝った方が相手に言うことを聞かせられると言うものらしい。

 なんともシンプルなものだ。


 私は電話を終えると、すぐに病室へと向かった。




 お医者さんと入れ違いで、私は高原君の病室に入った。


「大丈夫?高原君」

「あぁ、身体的にはな…脳みそが少しどうかしているみたいだが」

「大丈夫だよ!高原君はもともとどこかぬけてたから」

「へ?」


 私は少し明るくなった高原君を見て、どうやら朱音ちゃんとは分かり合えたのだと思った。


「いや、確かに患者が急に走って病室を抜け出すってのはおかしいとは思うけど……」

「それも確かにそうだね。でも、それ以外にもね…」

「え?なんだよ、それ」

「今はまだ、教えられないかな。少なくとも退院するまでは、ね」


 体調不良で入院してるんだよと言いたかったけど、生憎お医者さんに止められてるので言えなかった。


「それにしても、朱音ちゃんとテスト勝負するんだよね?」

「え?あぁ、見てたのか?」

「まぁ、遠くからこっそりと」

「なんか微妙に恥ずかしいな…」


 さりげなく嘘をついてしまった。

 ほんとは電話で朱音ちゃんから聞いたのに…。


「でも、高原君が勝ったら何を言うの?」

「あぁ、それはな…」


 高原君は、少し間を開けてから言った。


「ちょっとばかし前から続いてる、すべてのすれ違いに区切りをつける機会をもらおうと思ってる」

「へー。要するに、デートに誘うんだ」

「ま、まぁな。よくわかったな…」

「高原君は、私とよく似てるからね…」

「へ?」


 私が思わずこぼしてしまった本音を、海斗君は聞き逃さなかった。

 だから、何とか話題をかえることにした。


「うんうん。何でもないよ。でも、本当に大丈夫なの?入院もあるし、それに朱音ちゃん、赤谷高校の主席だよ?」

「あぁ、それなら安心しろ」


 そう言って、一度溜める高原君。

 そして、自信満々にこう言った。


「なんてったって、俺は赤谷高校の主席だ」


 私は、そんな高原君を見て、やっぱり確信をした。



 やっぱり彼ならもしかしたら…と。

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