20話 中間テスト

 中間テスト当日。

 俺は、玄関の扉の前で、深呼吸をした。


「ふう…。よし」


 俺はそう呟くと、ドアノブをひねって外に出た。


 すると同時に隣の部屋の扉が開いた。


 俺は、どこか既視感を感じた。

 いや、実際にあったな。1ヶ月と少し前に。


「よう、朱音」

「おはよう、海斗君」


 俺たちは以前とは違った挨拶をする。

 思えば、あのときから、俺たちは間違ったスタートを切ってしまっていたのだ。

 気づかなければ、また同じところですれ違っていたかもしれない。


 でも、今は違う。

 もうすれ違わない。


 少なくとも、俺はそれに気が付いた。


「テスト、負けないからね?」

「いいや、悪いが俺が勝つ」


 互いに挑戦的な表情をする。

 負けられない。というよりかは、負けたくない。

 そんな勝負。


 勝っても負けても、俺はデートに誘うつもりだった。

 でも、もし負けたら今回は保留にすることを決めた。


 だって、そんな生半可な気持ちで勝てるような相手じゃないからだ。


俺たちは並んで学校へと向かった。




 学校に着くと、数多の生徒に見られた。

 当たり前だが、すごく噂になった。

 だが、もう気にしない。


 噂ならいくらでもしてくれていい。

 いずれ、真実にするのだから。



 俺は最後の悪あがきとして、教科書を開けた。




 テストが終わり、一週間がたった。

 今日はテスト結果の発表日。


 あれからずっと俺と朱音の噂は消えなかった。

 まぁ、他に噂がなかったこともあるだろうが。


「おはよう、海斗君」

「あぁ、おはよう、朱音」


 俺たちはいつしかぶりに一緒にテストの結果を見に行った。


 上位50人しか張り出されないのだが、まぁ、俺たちが入っていないわけがない。

 というか、首席か次席という訳だ。


 紙が張り出されているところに着くと、俺たちは迷わずに一番端を見た。


「……」

「……」


 そして、俺たちは黙った。

 まさかの展開だ。


「同点……か」

「そう…だね」

「497ってことは、たぶん俺1問だ」

「私も。多分1問だと思う」


 俺たちは同率で1位になっていた。

 しかし、何問間違いかは分からない。


 ただ、俺たちは互いに1問間違えたような気がしていた。

 そして、その通りの点数だった。

 つまり、そう言うことだ。


「じゃぁ、どうしようか…」

「そうだね…」


 そう。ここで1つ問題が生じる。


 勝敗が決まらない、ということだ。


 このままではどうしようもないので、俺はある提案をすることにした。


「あのさ、同点だったんだからさ、いっそのこと両方にその権利を与えるってのはどうだ?」

「なるほど…。確かに、それならどっちも勝ちってことになるもんね」

「あぁ。だから、不公平が起こらないように、メールで同時に送信するってのはどうだ?」


 正直俺がデートに誘いたかったからそう提案したのだが、朱音も快く承諾してくれた。


 俺は、朱音の承諾を得ると、さっそくメールに文章を打った。

 内容はこうだ。


━今週の日曜日。

ちょっと買いたいものがあって、それのアドバイスをしてほしいいから、それをお願いしたい。


簡単なものだが、嘘はついていない。

実際、デートは程遠いが、数学の参考書を買うのに、朱音のアドバイスが欲しいと思っていた。

まぁ、そんなことは別に直接見なくてもできたことだ。しかし、それを一緒に見て決めてもらうと言う口実で、少しづつ近づければと思っていた。


「準備できたか?」

「う、うん。大丈夫」

「じゃぁ、行くぞ。せーの」


『『ピロンッ』』


 掛け声と同時に、俺たちの携帯が鳴った。


 俺はすぐに届いたメールの内容を確認した。



━今週の日曜日。

 買いたいものがたくさんあるから、荷物持ちをお願いしたいです。



(被ったー)


 まさかと言えばまさかだし、何となく予想ができたと言えばそうともいえる。

 しかし…日程までぴったりと合ってしまうとは…。


「被ったね…」

「そうだな。まぁ、あれだ。俺が荷物持ちをするとして、おれは選ぶのを手伝ってもらう…て感じでいいか?」

「そうだね。それがいいね」


 そうして、俺たちは軽く日曜日のことを取り決めた。




 学校が終わり、家に帰った俺は、ベッドに寝転がって、少し考え事をしていた。


 今週の日曜日。

 俺と朱音は少し遠くにあるショッピングモールに出かける。

 理由は、行ったことのないところの方が心機一転できるからだった。


 何といっても、今回のお出かけの真の狙いは、新しく始めることだ。

 今までと同じことでは意味がない。


 だから、遠くのショッピングモールにした。



 そして、何よりも考えといけないこと。それは、朱音はどう思っているかだ。


 俺のように、心機一転を考えてくれているのなら、もしかすると近いうちに俺たちは再び結ばれることができるかもしれない。

 まぁ、俺はいつでもいいんだけど、正直フラれることだけは避けたい。

 今お隣さんで、ようやく一つの壁を乗り越えられた気がしたから。


 だからこそ、これからは慎重に動かなくてはならない。

 今回のような勘違いでの行動はNG。

 言質を取っていないものは証拠としない。これは肝に銘じておこう。


「俺の悪いところは思い込みだ」


 俺はそう口にして、自分に言い聞かせた。

 そう簡単に治る癖ではないと理解しながら、それでも俺は意識を改めた。

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