21話 元カレのお願い
5月31日日曜日。
俺は目的地の最寄りの駅に来ていた。
「まだ来てないみたいだな」
俺が待ち合わせをしているのは、言うまでもなく朱音である。
何故、部屋が隣である朱音と待ち合わせをこんなところでしているかと言うと、単純にデートと言えば待ち合わせだと考えたからだ。
いや、まぁデートではないんだけどね。
俺はデートに近いものだと考えているが、それは考えであって事実ではない。
俺は今日のプランを簡単に考えながら、気長に朱音を待つことにした。
しばらくして、朱音は駆け足で現れた。
「ごめんね、海斗君。遅れちゃった」
「いや、遅れてないよ。それに、俺も今来たところだし」
「ほんと?そうだったんだ」
そうして、俺たちは少し話すと、ゆっくりとショッピングモールへと向かった。
「広いねー」
「そうだな…これは想像以上だ」
日本で言えば、10本の指には入る。
そんなショッピングモールだが、家から1時間程電車に揺られてこなくてはならないので、そう頻繁に来ることはできない。
そして、ここにないものはないともいえる。
映画館、ゲームセンター、飲食店はもちろん、本屋やアクセサリーショップ、服屋なんかも一通りあった。
俺も一度きたことがあるのだが、さすがに日曜日なこともあり、すごく混んでいた。
人ごみとはまさにこのことだと思った。
「すごい人だな」
「うん、そうだね…」
朱音は、この人ごみを見て、少し驚愕していた。
ここで、俺はあることに気が付いた。
「はぐれたら危ないし、手、繋がないか?」
俺は、自分の手を差し出しながら、そう聞いた。
そんな俺に、朱音は少し背けて、返事をした。
「う、うん……」
そう言って、朱音は俺の手を取った。
いつ振りか、少し遡りたくなったが、俺は過去の思い出に今浸るのはタブーだと考え、思考をやめる。
「じゃぁ行くか」
「うん!」
そうして、俺たちは歩きだした。
「海斗君は、どこに行きたいの?」
「ん?俺か?俺はな…行きたいところと言われたらそこそこあるけど、目的地は1つだ」
「じゃぁ、目的地を聞いてもいい?」
「あぁ、俺が行きたいのは本屋だ」
「…本屋さん?」
「そう、本屋だ」
俺の以外な目的地に、朱音は少し驚いていた。
それもそうだろう。こんなところにまで来て、要件があるのは本屋さんだと言うのだから。
そして、俺たちは道中に気になった店に寄り道をしつつ、本屋へと向かった。
「それで、海斗君の私に聞いてほしいお願いは何なの?」
「あぁ、それなんだけどな…」
俺は、朱音の手を軽く引きながら、参考書のエリアまでつれてきた。
「もしかして、コレ?」
「そう、参考書だ」
「確かにここの本屋さんは貯蔵量がおおいから、種類も豊富だけど、まさか参考書だったなんて」
「はは。まぁ、そうだよな」
俺は、朱音と二人で出かけられれば理由は何であれ良かったのだ。
とは、どうにもまだ言えそうにはない。
「それで、数学の参考書が欲しいんだけど、いいのがないかなって思ってな」
「なるほど。たしかに、高校に入ってから、最も難しくなったのは数学だもんね」
「あぁ。他のやつは別に今まで通りにやればそれなりにできると思うから」
「うーん…」
俺たちは、壁一面に広がる本棚に入れられている参考書を眺めながらしばらくの間思考を凝らした。
そして、ほぼ同時にすべての数学の参考書を見終え、俺たちは一言放った。
「コレかな」
「コレだな」
そうして、指さしたのは偶然にも同じ……とはいかず、見事に別れた。
「なるほど。朱音チョイスはそれか」
「うん。残念だけど別れちゃったね。どうするの?」
「ん?そんなの決まってるだろ。どっちも買う」
「え?」
朱音は、俺の意外な決断に、驚いたと言った表情をした。
しかし、俺からしてみれば、大した決断でもなく、端からそうしようと決めていた。
「俺のチョイスはいつも通り。で、朱音のチョイスは俺とは違う視点からの解法を教えてくれるはずだ。だから、2つやっておけば問題ないだろ」
「海斗君…テスト後の学生とは思えないくらい勉強のこと考えてるんだね…。さすがだね」
「まぁ、さすがに終わった日は勉強してないけどな」
「休息になってるのかな?わかんないや」
「まぁ、今のところ体調も悪くないし、大丈夫だ」
「うん。無理しないでね」
「おうよ」
そうして、俺は参考書を2冊もって、レジへと向かった。
参考書を買うと、俺たちはまたウロチョロし始めた。
「ここ、ちょっと寄ってもいい?」
「あぁ…」
そうして、朱音にそう言われてたちよったのは、眼鏡屋だった。
「ん?朱音って、眼鏡かけてたか?」
「うんうん。普段はね、コンタクトもしてないんだけど、家で勉強をするときはかけてるんだ」
「そうなのか」
家で眼鏡をかけて机に向かっている朱音を想像する。
うん、可愛い。
俺は思わずニヤケそうになった頬を必死に抑えて、朱音を見た。
すると、朱音は俺の予想通りの格好をしていた。
「ど、どうかな?」
「ッ…!」
上目づかいで、少し恥ずかしそうにきいてくる眼鏡美女。
美少女にメガネは相性抜群だと聞いたことはあったが、まさにその通りだった。
「へ、変だった?」
俺が、朱音に見とれすぎて、返事をしなかったため、朱音がだんだん不安になってしまっていた。
俺は、意識を強引にこちら側に戻し、深呼吸をしてたから感想を言った。
「似合ってると……思う」
「そ、そっか。ありがと…」
お互い気恥ずかしくなり、俯いてしまう。
しばらくの間、そんな時間が過ぎたが、程なくして朱音が言葉を発した。
「じゃあ、コレ買ってくるね」
「おう。じゃあ外で待ってるわ」
「うん」
そして、俺は逃げるようにその場を離れた。
「アレはヤバすぎるだろ…」
破壊力抜群の朱音のメガネ姿に、俺はそう呟かずにはいられなかった。
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