22話 元カノのお願い
私は、眼鏡を買った後、店を出て海斗君に合流した。
「ごめんね。じゃあ、行こっか」
「おう、そうだな」
そう言って、海斗君は私の手を取ってくれる。
はぐれないためだとは分かっている。でも、嬉しくて、顔が熱くなってしまう。
「ここからは基本的に朱音の件だな」
「そうだね。でも、私にはそんな明確な目的地は無いんだけどね」
「まぁ、朱音の場合はそうだな」
私たちは、そんな風にこの広いショッピングモールの中を歩いた。
しばらくすると、私たちは共通の悩みを抱えることとなった。
「お腹空いたな」
「うん。私もお腹空いてきた」
「どこで食う?」
「あんまり高くないところがいいなー。私、今から色々買うから」
「ん、なら学生の味方のファミレスでいいか」
「うん、そうしよ!」
そうして、海斗君が提案してくれたお店に、私たちは歩みを進めた。
「うん。さすが、コスパが最強だな、この店は」
「そうだね。味が良くて、価格も安くて、食事に適した環境で…ほんとに、学生の味方だね」
「あぁ。間違いなく学生の最強の味方だな」
私たちは、注文した料理がそろったところでいただきますをした。
そして、談笑をしながら小一時間そのお店に滞在した。
「うん。うまかったな」
「そうだね。やっぱり久しぶりに行ったけど、安定の美味しさだったね」
私たちは、ファミレスを出た後も、その前と変わらずショッピングモールの中をぶらぶらしていた。
もしろん、はぐれないように手を繋いで。
「それにしてもさ。まだ何にも買ってない子ど大丈夫なのか?」
「え?う、うん。重くなっちゃうだろうから、最後にしようかなって」
実際、私が持つ場合でも、最後にしていた。
なのに、人に持たせると言うのだ。絶対に最後にするべきだ。
「いや、なんか結局買えませんでした、みたいになったら俺だけ何もしてないことになっちゃうし、それに、時間は有限だ。もしかしたらすごく悩むかもしれないし、先に行った方がいいんじゃないか?」
「え、でも…」
「俺のことは気にしなくていい。確かに筋肉質ではないけど、筋肉がないわけではないからな」
そう言って、海斗君は力こぶを作ってアピールしてきた。
ここまで言われては、むしろ断る方が失礼だと判断した私は、お願いすることにした。
服屋さんに着くと、私はさっそく服を探すことにした。
ここのお店は、私が事前に調べていたお店のうちの1つなので、ある程度目星をつけていた。
だけど、海斗君の言う通り、急がなくていいとなると、他の物も見たくなった。
そして、四着ほどの絞ると、試着のために試着室に入った。
試着を終えると、私は前で待ってくれている海斗君に聞いた。
「どうかな?」
「うん。いいんじゃないか?朱音のスタイルにちょうどあってると思う」
少し照れながらも、そう言ってくれる海斗君。
私も、少し顔が熱くなるのを感じて、すぐに試着室に戻った。
(うぅ…。海斗君、恥ずかしいならそんなにストレートに言わないでよ…嬉しいけど)
お互い少し気まずかったので、私は少しゆっくり着替えた。
一件目のお店では、結局最初に着た一着だけを買った。
「分かってはいたけど、やっぱり朱音は何でも似合うな…」
「え?どうしたの?」
「あ、いや。ちょっとな」
海斗君は、たまに独り言を言うので、きっと今回もそう言うことなのだろう。
私は特に気にせず、歩くことにした。
私は最終的に4つのお店を回って、合計5着の服を買った。
「付き合ってくれてありがとう、海斗君」
「いや。そういう約束だしな。それに、俺も楽しかったし」
海斗君は、そう言って爽やかに微笑んだ。
こんな顔を見ていると、モテる理由が分かる。
「とられたくない…」
私は、気が付いたらそんなことを口にしていた。
「ん?」
「あ、何でもないよ。ちょっと疲れたかなーって」
「あぁ、確かに、ずっと動きっぱなしだもんな。その辺のカフェにでも入るか」
「うん」
私は咄嗟にもっともらしい言い訳をいて、その場を免れた。
カフェは、そんなに人がおらず、少しピークを過ぎた後の印象があった。
「ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください。それでは、ごゆっくりどうぞ」
店員さんは、そういうとどこかへ行ってしまった。
「どうする?」
「私は…カフェオレにしようかな。海斗君は?」
「俺は、オリジナルブレンドのアイスコーヒーにするわ」
「海斗君、コーヒー好きだったっけ?」
「まぁ、嫌いじゃないな。熱いのは苦手だけど」
「そこは変わらないんだ」
そんな会話をしながら、私たちは店員さんを呼んで注文をした。
その後も、私たちは色々なお店を見て回った。
何かを買ったという訳ではないけど、とても楽しい時間だった。
「それにしても、楽しかったな」
「そうだね。私、実際に行ったのは初めてだったから、びっくりしすぎたよ」
「俺も、1回しか言ったことが無かったからな。めちゃくちゃ面白かった」
私たちは、最寄りの駅から歩いてマンションへと向かっていた。
もう、離れる可能性なんてないのに、まだ手を繋いだまま。
私は、マンションが近づいてくるにつれて、少し寂しい気持ちになっていった。
そんな私に、海斗君が、こんなことを言ってくれた。
「また、行こうな」
私は、この言葉を聞いて、寂しさが少し和らいだ。
これで終わりじゃない。そう、思えたから。
だから、私も返事をする。
「うん!また行こうね!」
この時の私がどんな顔をしていたのか、それはきっと、海斗君しか知りえないことだ。
部屋の前に着いた私たちは、ここでお別れをした。
「じゃぁ、また明日な」
「うん。また明日ね」
そう言って、海斗君は自分の部屋へと向かった。
私も、すぐに部屋に入った。
部屋に入った私は、ベッドに腰かけて少し考え事をした。
一度終わった関係を、修復するのは難しい。
でも、新しく始めるのであれば、その難易度は人と同じである。
私はそれをしなかった。
何故なら、思い出を消してしまうような…そんな気がしたからだ。
でも、違った。
どのみち、同じような展開にしかならない。
例え、今度は受験校について触れないでおこうと考えたとしても。
海斗君は、果たして私と同じように考えてくれているのだろうか。
もし、そうならば……嬉しいな。
「海斗君…。あなたはどうですか?」
私は、隣に聞こえない程度の声で、海斗君の部屋に向かって問いかけた。
………………………………………
これにて二章完結です。
二章は、少しもやっとした方も多かったと思いますが、どうしてもここで一度軌道修正の章を入れたかったのです。
どう感じられたか、コメントで教えていただけるとありがたいです。
読者様がいまだにたくさんいてくださっているので、もちろん三章の方も書いていこうと考えています。
ですので、一週間ほどの休載の後、また投稿していけたらと考えております。
それでは、またこの物語でお会いしましょう。
もし、面白いと思っていただけたのなら、フォローやレビュー、感想の方、よろしくお願いいたします。
これからも、『美人で噂のお隣さんが俺の元カノでした』を、よろしくお願いいたします。
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