3話 カラオケでダブルデートは何が起こるかわかりません
今日は土曜日。
俺にとって、久々となる朱音とのデートの日だ。
まぁ、ダブルデートスタイルだけど…。
「よお、海斗」
「おう。やけに早いな、秀真」
俺に手を上げながら近づいて来たのは、今日のもう片方のペアの男で、現在俺が唯一友達と呼べる存在だ。
「お前こそ早いじゃねぇか」
「まぁ、俺の場合はそれなりにいつも早いだろ」
「そうだな」
俺たちは、こんな感じでしばらくの間話をした。
「それにしても、女子チームは遅いな…」
「合コンみたいな言い方するな」
「ある意味合コンみたいなもんだろ」
「間違ってはいないが…」
俺は、どこか腑に落ちなかったが、気にしないことにした。
それよりも、朱音と春川の2人が、遅刻とは珍しいなと思った。
春川に聞いた話では、朱音が他の男に絡まれるのが嫌だがら、早い時間に登校して、かつ春川と登校することでリスクを限りなくゼロに近づけていたらしい。
だから、1時間前登校をするような2人が、遅刻とは珍しいと思った。
そんなことを考えていると、駅の方から声が聞こえてきた。
「おまたせ!」
「遅れてごめんなさい」
「お、噂をすれば」
そう言いながら、手を振ってこちらに小走りで駆け寄ってくる2人の美少女は、志水朱音と春川泉だった。
「まぁ気にすんな。俺たちもさっき来たところだし」
「まぁな。海斗が集合場所間違えたからな」
「おい…」
俺は、まるで俺がミスをしたみたいな言い方をしてきた秀真にイラついたが、グッとこらえた。
てか、俺らは普通に現地集合だろ!何でそんな嘘つけるんだよ!
「じゃ、こんなところで立ち話もなんだし、そろそろ行くか」
「そうだね」
「うん」
「そうだな」
秀真の合図と共に、俺たちは一緒にカラオケ店へと向かった。
「久々だわ、カラオケとか」
「そうだよね、昔は私たちも行ってたもんね」
「そうだな」
カラオケ店に着くと、秀真と春川は、懐かしいと言ったことを言い出した。
なんか、二人とも良い感じだな。
俺は、そんなことを思いながら、ふと思った。
あれ?俺たちってもしかして初めてじゃね?
そうだ。俺は少なくとも初めてだ。つまり、一緒に来たことは無い。
そう思い、そのことについて朱音に話そうとした。
「そう言えば……」
俺は言いかけて、辞めた。やめたと言うか、言葉が出なかった。
「……」
朱音の顔を見ると、彼女も何か言おうとしたのか、口が開いていた。
「……」
「……」
どちらも何も話さないまま、少し沈黙が続いた。
そして、二人の間に微妙な空気が流れる。
(まずい…何故だか分からないけど、朱音に話せない……)
俺は、原因の解明を急ぎつつ、その空気のまま席に着いた。
席順は、俺と秀真が隣に座り、机をはさんで対面に朱音と春川が座った。
「じゃぁ、さっそく歌おうぜ」
「そうだな。でも、俺何気に初めてなんだよ、カラオケ」
「え、そうなの?高原君ってもっと遊んでたんだと思ってた」
「遊ぶときは大体運動だったんだよ」
「なるほどな。海斗らしい」
あれ?普通に話せた。
どういうことだ?さっきは言えなかったのに、今は言えた…。
「志水はどうなんだ?」
「私はあるよ」
「そうなのか。なら、初心者の海斗以外の3人の誰かから歌うか」
「じゃぁ、私がまずは歌うよ」
「お、泉か。泉は歌上手いからな」
「ちょっと秀真!あんまりハードル上げないでよ」
「大丈夫だって。泉はほんとに歌上手いんだから」
「もう!」
そう言って、春川はタッチパネルを操作して曲を入れると、マイクを持って立ち上がった。
なんか、春川って秀真に気があったりするんじゃねぇのか?と思ってしまうな。
「疲れたー」
「お疲れ」
「お疲れさま、泉ちゃん」
「お疲れ、春川さん。それにしても、スゲー上手いな」
「ありがとう。そんなに上手くないよ。ちょっとだけ得意ってくらいだし」
「いや、なんていうか、カラオケバトルに出れるレベルではうまいと思うぞ?」
「ありがとう、高原君」
そうやって謙虚な春川だが、実際98点と、化け物じみた点数を出していた。
……って、ほんとにすごいな、春川。
「じゃぁ、次はだれが歌う?」
「秀真でいいんじゃねぇか?」
「え…」
「そうだね。秀真がいいよ」
「私も平川くんでいいと思うよ」
「な…」
俺たちが秀真を推薦すると、秀真は嫌そうな顔をしていた。
「どうしたんだ?」
「い、いや……」
俺がそう聞いても、秀真は微妙な顔をするだけだった。
「よし」
少し経って、気合を入れたような声を出した秀真は、マイクを持って立ち上がった。
「……」
「え、普通に上手くね?」
「だよね。平川くん、そんなに渋るほどじゃないと思ったけど…」
秀真の点数は、94点。まぁ、普通に考えて、上手い。上手いのだ。
しかし、秀真の顔は、微妙な表情だった。
「いや、まぁ、ありがと」
「フフッ」
「…クッ」
「「ん?」」
秀真と春川の謎の掛け合いの後、俺と朱音は、疑問の声を上げた。
「私の勝ち!」
「またか……」
「「あ、なるほど」」
俺と朱音は、またもや声がそろった。デジャブだな。
なるほどな、秀真が歌いたがらなかったのが分かる気がする…。
「まただね~」
「うーん。今回は勝ったかと思ったんだけどな」
「またの挑戦を待ってるよ」
「くそー」
「お前、そう言う理由だったのか」
「あぁ、そうなんだよ。毎回勝負してるからな」
「ちなみに戦績は?」
「全敗だ」
「おい」
俺は少し期待したんだが、どうやら残念だったようだ。
「じゃぁ、次は志水かな」
「そうだな、朱音だな」
「朱音ちゃんの歌、楽しみだな」
「そ、そんなに期待しないでよ」
「まぁ、歌が楽しみなんだから、気にしないで」
「ファイト、朱音」
「志水、頑張れ!」
「う、うん……」
そう言って、朱音はマイクを手に取った。
「ふぅ。疲れた…」
「お疲れ様」
「うん、朱音ちゃんらしい可愛い感じだったね」
「もう、恥ずかしいよ」
「いや、朱音もうまいな……」
「そうだよね、普通に上手かったよね」
「確かに、引きずり込まれたわ」
「そ、そう?ありがとう…」
俺は素直な感想を言った。
点数は91点。春川と秀真が高レベルなだけで、普通に上手かった。
しかも、春川もそうだったが、引き込まれる上手さがあった。
「じゃ、次は海斗だな」
「あぁ、初カラオケ、頑張ってみるわ」
「頑張れ!」
「ファイト!」
そして、俺はマイクを手に取って立ち上がり、目を瞑った。
「「「……」」」
「疲れた……」
俺が歌い終わり、目を開くと、みんなは唖然とした表情で固まっていた。
そして、ようやくの思い出秀真が口を動かしだした。
「お前、勉強できるからとは思っていたけど…」
「まさか、そこまでだったなんて…」
続いて、春川と朱音も口を開ける。
「海斗君……」
え?何その反応?そんなに俺の歌、ダメだった?
俺は不安になり、採点中と出ていた結果の場所に目をやる。
すると、採点中から採点終了に変わっていた。
「お、ついに結果出るのか」
俺は不安になっていたので、そう言った。
そして、点数を見る。
「嘘だろ?」
「「「…」」」
俺を含め、全員が驚愕した。いや、俺以外は分っていたって感じだった。
「100…点…」
俺の点数は100点だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます