第二章
1話 有名人に噂はつきものだそうです
「あの首席と、天使が、付き合っているらしい…」
朱音の誕生日が終わった後の月曜日、こんな噂が学校に広がっていた。
「お前、いつの間に泉と付き合い始めたんだよ…」
「…は?なんのことだ?」
わざとらしく悲しい素振りをする秀真に、俺は何のことか分からないと言った表情でそう答えた。
「お前、知らないのか?あの噂」
「噂?何だ?また何かあるのか?」
「あぁ、またまたお前の噂だ」
「まぁ、だよな。俺と春川の話なんだろ?」
「その通りだ」
そう言って、深刻な顔になる秀真。
「お、おい。その噂って……」
「あぁ、お前と泉が付き合っているってやつだ」
「……いや想像通りだな!」
俺は、あまりにも深刻に言う秀真に、思わず突っ込んでしまった。
俺が突っ込むと、秀真は笑いながら、謝ってきた。
「悪い悪い。ちょっと嫉妬してた」
「ま、まぁ、それなら仕方ないよな…」
嫉妬と言う言葉が、妙に俺の心に刺さった。
そして、すごい罪悪感にさいなまれた。
「まぁ、あくまで噂だからな」
「ま、まぁな…」
「それにしても、また何で泉と海斗が付き合ってるって噂が広まったんだ?」
「あぁ、それなら心当たりがあるぞ?」
俺は、間違いなくあれを見られたのだろうと思っていたので、そう言った。
「なんだ?今度は泉と一緒に登校でもしてきたのか?」
秀真は、冗談めかしてそんなことを言った。
だから、俺も普通に言うことにした。
「ちげーよ。普通に、金曜日にデートしたからじゃないか?」
「…………………………は?」
俺が何気ない事のように言うと、秀真は顔から表情を消して、立ち止まった。
「おい、どうしたんだよ秀真。急に止まったりして」
「どうしたもこうしたもあるか!」
俺が心配して秀真に問いかけると、秀真はかなり大きめな声で、突っ込んできた。
「ほんとにどうしたんだよ、秀真」
「あのな、海斗」
「は、はい…」
秀真のあまりの迫力に、俺はびっくりして、敬語になってしまった。
「泉とデートしたら、そりゃ噂になるわ」
「いや、だから心当たりがあるって…」
「あのな…噂になるってことは、志水の耳にも入るってことだぞ」
「それなら大丈夫だ、朱音はもう既にそのことを知ってるから」
「……はぁ」
秀真の説明に、俺がそう答えると、秀真はため息をついた。
「お前、本気で志水とより戻す気あるのか?」
「当たり前だろ」
当たり前の質問をしてきたので、当たり前だろと言った口調でそう答えた。
「あのな、それなら何で泉とデートなんて行ってんだよ」
「必然的に?」
「そんな必然あったまるか!」
俺がそう言うと、ここに来て一番の激しいツッコミを秀真が入れた。いや、確かに今のは俺の説明不足だったかも…。
だから、俺は仕方なく本当のことを話すことにした。
「そうだな。金曜日は朱音の誕生日だったんだ」
「おう」
「だから、誕生日プレゼントを買いに行くために、一緒についてきてもらってたんだ」
「……なるほどな」
俺がそう説明すると、秀真はあることを聞いてきた。
「で?成果はどうなんだ?」
「成果って?」
「成果だよ。ほら、進捗があったのかって事」
「あぁ、それなら、連絡先を交換した」
「分かった。ツッコミたいことは山々だ。しかし、ここはあえて全てにおいて突っ込まない」
「お、おう?分かった」
俺は、秀真が訳の分からないことを言い出したので、ついに壊れたのだと思った。
「それだけか?」
「あぁ、それだけだけど」
「だったらさ、海斗」
「なんだ?」
俺がそう言うと、秀真はある計画を持ち掛けてきた。
「今週の土曜日、4人でカラオケに行かないか?」
「4人?」
「あぁ、俺と海斗。あと、志水と泉だ」
「なるほどな。俺もお前も共に狙いの相手と遊べるからってことか」
「まぁ、そうだな。それに、泉なら、お前も仲いいみたいだし、俺もやり取りできるから、ちょうどいいと思ったってのもある」
「なるほど、確かに賢い考え方だな」
「まぁな。首席様ほどではないけど」
「茶化すな」
俺はそんなことを言いながら、携帯の連絡先を見た。
「春川さんにはお前が連絡するのか?」
「あぁ、そうだな。どっちでもいいぞ?」
「だったら自分でやってくれ」
「了解」
そうして、俺は携帯の連絡先から朱音を選択し、メールを送ることにした。
━朱音へ
今週の土曜日だけど、空いてるか?
もし空いてたら、出かけないか?
そう送ると、少しして返信が返ってきた。
━それって二人で?
あ、言葉足らずだった。
しかし、それを聞いてくると言うことは、すなわち……
二人なら行かないと言うことなのか?
まぁ、それもそうか。
確かに、仲は戻ってきたかもしれない。
しかしそれは、あくまで一般レベルまで、だ。
勘違いしてはいけない。俺はまだ、スタートラインに立てただけに過ぎないのだ。決して、昔の関係まで戻れたわけではないのだ。
━悪い。言い忘れてた。
俺と朱音、それから春川さんと秀真の4人でだ。
俺がそう送ると、『分かった。大丈夫だよ』との返信が来た。
「はぁ…」
俺は思わず溜息をついてしまった。
「どうしたんだ?海。もしかして、志水に断られたのか?」
「いや、そうじゃないんだけどな。ただ、脈なしかな…と思っただけだ」
冗談めかしてそう聞いてきた秀真に、俺はあからさまに気を落として返事をしてしまった。
「ん?どうしたんだよ、海斗。急にそんなに弱気になって」
「いや、まぁ、何でもねぇよ…」
「…そうか?まぁ、それならいいけど」
俺は言えなかった。
もしかしたら、秀真が来るから来たのかも知らないと思ってしまったなんて…。
「じゃぁな、海斗」
「もう、また明日」
俺たちは駅まで来ると、立ち話をせずに、そのまま別れた。
俺は、秀真を見送ると、一人でスーパーに向かって歩いた。
「先は思わず口に出してしまったが、あくまでもそれは仮説…」
俺は、自分に言い聞かせるようにそう言った。
ネガティブ思考になるのは、俺の悪い癖でもある。
考えすぎるがゆえに、自分の思い当たったことを信じ込んでしまうと言うか、確証してしまうと言うか…。
まず、思い出すんだ。俺が誕生日プレゼントをあげたとき、朱音は喜んでいた。
それに、連絡先の交換を申請してきたのも朱音だ。
それなら、別に問題はないはずだ。
俺のことを、少しは他の男と別ものとして考えているはずだ。
「ほんと、男のネガティブ思考とか、気持ち悪いにもほどがあるよな」
俺はそう呟いて、スーパーへと向かった。
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