2話 元カレは手料理を食べるためなら荷物持ちでも何でもします
6月6日土曜日。
今日は、少し離れた某会員制倉庫ショッピングセンターへと来ていた。
どうしてこんなところに来たのか。それは勿論食料などを買いに来たのだが、わざわざこんな遠いと頃まで来たかと言うと、それは昨日の俺の一言が原因だった。
6月5日金曜日、放課後。
毎度毎度おなじみの面白くない授業が終わり、明日から休日である事もあってか少し浮かれ気味な生徒たちがそそくさと下校を始める中、俺はいつも通り校門で朱音と待ち合わせをしていた。
「ごめんね!お待たせ!」
「いいよ全然。さっき着いたところだったから」
そんないつも通りなやり取りをして、俺たちは帰路へと着いた。
今日は家スーパーへは行かない。理由はまだ買ってある食料が残っているからだ。
「今日はなににししようかな~」
「どうしたんだ?今日はやけにテンションが高いな」
そんな帰り道、朱音は鼻歌が聞こえそうなテンションでウキウキと今日の献立を考えていた。
だから、俺は朱音に理由を尋ねた。
「え、そう?やっぱり明日から休みだからかな?」
「あー。確かに最近授業が忙しいもんな」
「そうなんだよね…。予習復習が忙しくてしんどいんだよね」
「だな」
何を隠そう超秀才な朱音は、テストが終わったとしても予習復習を怠らない。
まぁ、俺も別に怠ってはないが、さすがにテスト前程はやっていない。というか、少しだけ少なくなったかもしれない。
「海斗君はいつも通りだよね」
「まぁ、いつも通りと言えばいつも通りだが、どちらかと言うと最近ずっと調子がいいって感じだな」
「どうして?」
「うーん…何だろ。朱音と毎日晩御飯を食いだしてからな気がするから、もしかしたらそれのおかげかもな」
「そ、そう?それなら嬉しいな」
「おう、ありがとな」
俺はそう朱音に感謝を述べた。
しばらくして、朱音はふと思いついたように話し始めた。
「そうだ!」
「どうしたんだ?」
「明日はお休みだよね!」
「おう、そうだな」
「じゃぁさ、ちょっと遠くにある会員制倉庫ショッピングセンターに行かない?」
「え、別に構わないけどどうしてだ?」
「あそこなら、安い値段でたくさんの物を買えるからお得なんだよね」
「まぁな」
「それに、今まで作ってこなかった物とかにも挑戦できそうだし」
「そうだな」
「後、楽しいんだよね」
「それなら決まりだな。よし、明日はそこに行くか」
「うん!」
そう言って、本当に楽しみだと言う表情をする朱音。
ただ、食料を買いに行くのが楽しみって言ってる辺りが、少し高校生としてどうなのかとは思うが…。
なんてことは心の中だけで呟き、自宅へ続く道を歩いた。
なんてことがあって、今俺たちは某会員制倉庫ショッピングセンターへと来ていたのだ。
「やっぱり大きいねー」
「だな。やっぱり倉庫型って言うだけのことはあるな」
「今日は一杯…って程は買わないけど、必要なものをしっかりと買って帰らないとね!」
「そうだな。荷物持ちは俺がするから」
「ありがとう、海斗君」
朱音はそう言うと、迷子になるのではないかと思う調子でサクサクと進んでいく。
「ほんと、こういう変なところでテンション上がるのが朱音だよな…」
俺はそう呟くと、朱音と離れないように駆け足で追いかけた。
「やっぱりココと言えばサーモンだよね」
「そうだな。確かに美味いからな」
「そうなんだよね~。脂の乗り具合が最高で、お刺身で食べると舌がとろけるんだよね」
「あーその表現すげー分かるわ」
「でしょ!」
何とも素晴らしい語彙力だ。俺なんておいしいとしか言えないのに。
これが料理をする人とそうでない人との違いかな…。
なんて感じで俺は少々自分の情けなさに落ち込みながら朱音の後を追った。
「それにしても、ここってほんとに何でも売ってるね」
「そうだなー。食料、衣服、文房具に玩具…。正直、朱音が楽しくなる気持ちも分かるかもしれん」
「でしょでしょ!やっぱりいろんな物を見るのは楽しいんだよ!」
「だな」
「それにもしいいのがあっても手が届く範囲って言うのもいいよね」
「あーそれ確かに分かるわ」
ショッピングモールとかでは、数万円もするものがざらにある。
でも、ここでは数千円の規模で収まるのだ。ちなみに、俺の家はそんなにお金に余裕があるわけではないので小遣いは少ないが、朱音の家はそこそこ裕福な方なので、お小遣いは俺の二倍程だと聞いた。それでも食費は割り勘にしてもらっている。いや、普通は俺の方が出さないといけないので、やっぱり朱音に負担をかけ過ぎだな…。今度何かお礼をしよう。
なんてことを決意しつつ、俺たちは談笑をしながら店を回った。
結局俺たちは三時間程滞在して家に帰った。
まぁ、一時頃に家を出て、電車で一時間の道のりなので、帰ってきたころには夕方だった。
「ただいまー。って、ここ朱音の家だけど…」
「ただいま。最近は家に帰ってくるときは私の家が多いもんね」
「なんかすまんな」
「いいよ全然。じゃぁ、ちょっと料理するから待ってて」
「おう、ありがとう」
俺はそう言っていつも通りソファーに座った。
が、相変わらずなれない…。
最近毎日のように、当たり前のように部屋に入れてもらっているが、普通に考えておかしい。何か、いつまでたってもドキドキするのは、俺が朱音のことを好きだからなのだろうか。
てか、朱音は普通にふるまってたけど、恥ずかしいとかないのかな?慣れたのか…はたまた意識していないのか……いや、ネガティブは良くないな。ここは慣れたと思っておこう。
なんてことを考えながら、朱音が料理を作り終えるのを黙ってテレビを見ながら待った。
「今日もありがとう」
「いえいえ。私も一人で食べるよりも楽しくていいから」
「ありがとな」
「うん。それに、今日は私の買い物に付き合ってくれてありがとう」
「いやいいよ。朱音の買い物って言うよりかは俺も関係あるし」
「確かに、関係あると言えばあるね」
「それに俺も楽しかったから」
「ほんと?それなら良かった」
「おう。また行こうな」
「うん。また行こうね!」
「じゃぁ、おやすみ」
「うん、おやすみなさい」
そう言って俺たちは解散した。
今日は朱音のおかげで新たな楽しさを知ることができて、良かったと思った。
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