エピローグ 元カノと元カレはどちらも似ている

 4月18日土曜日。今日は友人の泉ちゃんと遊ぶ約束をしている。


「お待たせ。泉ちゃん」


 私は少し着替えに手間取ってしまい、結果的に泉ちゃんを待たせることになってしまった。


「いいよいいよ。私もさっき来たところだから」


 そう言う泉ちゃんだが、恐らく結構待っていてくれたのだろう。


「それじゃぁ、そろそろ行こっか」

「うん。そうだね」


 優しく言ってくれる泉ちゃんに、私はうなずいた。



「ここはやっぱり広いね」

「そうだね。やっぱり広いよね」


 どこに行こうかと言う話になって、結局少し遠くの大型ショッピングセンターに行くことになった。

 私も泉ちゃんも、「どこどこに行きたい」と言った願望があるタイプの人間ではなくて、ただただお喋りをしながら色々な物を見て回したいだけだった。


「私、ここにあるカフェに一度行ってみたかったんだ~」

「そうなんだ。私も気になるな」


 泉ちゃんが行きたいお店って、どんなところなのか、気になる。私たちはまだ出会って2週間程度しか経っていない。それなのにとても仲が良くなった。

 気が合うのかもしれないし、もしかしたら泉ちゃんが気をつかってくれているだけなのかもしれない。まぁ、それなら少し残念だけど…。


「あ、朱音ちゃん。あそこのお店、いい服があるよ」

「ほんとに?じゃぁ、行こ!」


 私たちはそう言って、お店に入った。



「やっぱり、服って見ていて面白いよね」

「そうだね。見てるだけで楽しくなるよね」


 服はそんなに安いものではないので、そうやすやすと買えるものではないから、見るだけしかできないけれど、それがまた楽しい。


 泉ちゃんとお話をしながら試着して楽しんだり、この服を着てデートすれば海斗君はイチコロだとか、そんな感じの話をする。とっても楽しい。

 好きな男の子と遊びに行くのとはまた違った楽しさ。これが女の子同士で遊ぶということなのだと思う。


「楽しいね。泉ちゃん」


 私は思わず口に出してしまった。


「そうだね、楽しいね。朱音ちゃん」


 泉ちゃんは、そんな私に笑顔を向けて、そう答えてくれた。




「そろそろお昼だね」

「そうだね」


 私たちはお腹が空いてきたので、時刻を見ると、もう1時になっていた。

 だから、私たちは、近くにあったハンバーグのお店に入った。



「色々あるね」

「そうだね。どれにしようか迷っちゃうね」


 そこそこ有名なお店なので、やっぱりどれもおいしそうな物ばかりだった。


「どれもおいしそうだね」

「そうだね」


 私たちは少しの間悩んだ後、それぞれおいしそうだと思ったものを頼んだ。



「お待たせしました。チーズハンバーグと和風おろしハンバーグです」

「「ありがとうございます」」

「朱音ちゃんのハンバーグ、おいしそうだね!」

「そう?ありがとう。泉ちゃんのハンバーグもおいしそうだよ?」

「そうだね。どっちもおいしそうだね」


 私が頼んだのは、ハンバーグの上に大根おろしが乗せられている、和風のハンバーグだ。

 大葉との相性が抜群で、ハンバーグをより引き立たせてくれている。ご飯ととても合う最高の一品だ。


 泉ちゃんが頼んだのは、チーズがハンバーグの上に乗っているタイプのチーズハンバーグで、溶けすぎていない固形のチーズが、ハンバーグの肉汁によってきらきら光っているその様は、見ているだけでご飯を食べることができるほどだった。


「さすが、知名度のあるお店ってだけあるね」

「そうだね。やっぱり専門店だと味の質が違うよね」

「ハンバーグなんて、食べるの一年ぶりくらいかな?」

「私もそれくらい」

「また来たいね」

「そうだね」


 私たちは、笑い合いながら話した。




「最後に、何か映画でも見て帰る?」

「そうだね……」


 時計を見ると、時刻は3時30分だった。

 今から映画を見て帰ると、ちょうど6時頃に家に着く。

 私たちは、特に目的があった訳ではないけど、二人で映画館まで行った。


「何見よっか」

「そうだね……私は恋愛ものがいいかな~」


 私は昔から恋愛ものは好きだった。

 ドラマ、漫画、小説、時にはアニメ系のものなども見ていた。

 私は基本的にアニメについての知識はほとんどなくて、とても面白いなと思った漫画などのアニメを、ビデオをレンタルして見ていた程度だ。


「朱音ちゃんも恋愛系好きなんだ!ちょっと意外だったかも」

「そう?でも、『も』ってことは、泉ちゃんも好きなんだ?」

「うん!じゃぁ、最近はやりのやつを見よっか」

「そうだね!」


 私たちは、高校生のチケットを二枚を買い、映画館に早めに入場して、広告を眺めながらしばし雑談をしていた。

 そして、劇場内が暗くなり映画が始まった。


 この映画の内容は、母親が死に、引きこもりになってしまった少年が主人公で、その少年を救う謎の少女とのお話だった。


 まったく名前も知らないその少女だったが、少年と少しずつ仲を深め、ついには学校に登校させるところまで進展させた。

 しかしある日、その少女が姿を消す。さよならの一言もなく、本当に突然姿を消した。


 そして、テンプレがごとくその少年は少女を探すために、夏休みの間の一ヶ月の間旅に出かける。

 しかし、なかなか見つからず、途方に暮れていた時、駅のホームに一人の綺麗な少女を見つける。それが主人公を救った少女であった。


 少年が、彼女のことを好きになっていたことは必然で、少年は思い切って思いを口にする。

 自分に優しくしてくれる少女。その優しさ惚れてしまっていた少年。


 どうして突然現れたのか。


 どうして自分なんかを救ってくれたのか。


 そんなことは今はどうでもよかったという感じで、彼女の返事を待つ。


 そして、その少女は何かを決意したような顔で衝撃の一言を放つ。



「私は……君の実の母親なんだ」



 驚いた少年。それよりも理解が追いついていなかった。

 死んだはずの母親。

 そして、自分と同い年か少し年上かというほどの若い女性。

 この二人が同一人物。そんなことを、そう簡単には信じることができなかった。

 しかし、その少女は自分の名前を名乗り、今まで名乗らなかった理由も伝えた。


「私は君が心配で、どうにか助けられないか、一人でも強く生きられるようになれないかと言う思いから生まれた存在。だから、真実を伝えると消えてしまう。でも、もう心残りは無い。最後にまた、息子の笑顔を見られたのだから……」



 今までの謎がすべて解決していく。

 突然現れた理由も、自分を救ってくれた理由も。

 少年は、最後に「ありがとう」を伝え、その場を後にした。消える母親を、初恋の相手を、見届けるのが怖かったから。もう迷いたくなかったから。



 強く生きると誓ったから…



 と言う感じだった。

 何だかどちらかと言うと泣き要素が多い作品だった。

 泉ちゃんも、涙を流したと言っていた。



「楽しかったね」

「そうだね」

「映画の方は感動しちゃったしね」

「そうだよね。何だかあるあるなんだけど、やっぱりそう言うのにはちょっと弱いかも」

「私も」


 私たちは、最後にカフェによって話をしていた。


「あ、そうだ。朱音ちゃん」

「どうしたの?」

「はいこれ。誕生日プレゼント。ほんとは昨日渡そうと思ってたんだけど、色々あって遅くなっちゃった」


 そう言って、泉ちゃんは私に綺麗に包装された薄いものを渡してくれた。

 昨日渡せなかったのは私のせいだということは、昨日の海斗君と話でしっかりと理解していた。


「ありがとう泉ちゃん。開けてもいい?」

「うん。いいよ」


 私は昨日と同様に丁寧に包装を外し、中身を取り出した。


「可愛い服だ!」

「そう?よかった。私とお揃いで買ったんだけど……」

「そうなの?それじゃぁ今度はこれ着てお出かけしよっか」

「うん。そうだね」


 私たちはそう約束した。




「それじゃぁ、私はここだから」

「うん。またね、朱音ちゃん」

「うん。またね」


 そう言って私は電車を降りた。

 改札を出て、帰路に就いた私は、少し考え事をしていた。


 やっぱり、海斗君の言っていたことは本当だったみたいだし、もしかしたら本当にまだチャンスがあるのかもしれないね。


「諦めるのはまだ早いってことかな」


 私は携帯を見る。

 昨日、交換した海斗君の連絡先を見つめて、改めて昨日のことを思い出す。


 逃げた私に気づいて、全力疾走で追いかけてきてくれた海斗君。

 プレゼントも渡してくれた。

 「おめでとう」も言ってくれた。


「やっぱり、確実に進歩してる気がするな」


 私は考える。

 あとどれくらい近づけば、もう一度付き合えるのだろうか。時間は無い。いつ、誰に取られるかなんて分からない。

 迷ている暇はない。自分から行動しないと、相手は振り向いてくれない。


 マンションに着いた私はエレベーターに乗り、自室に向かう。


「「あ」」


 5階に付くと、階段で昇ってきていた海斗君と会った。手にスーパーの袋をぶら下げているところを見ると、おそらく買い物の帰りだろう。


「夕飯の買い物?海斗君」

「あぁ。朱音は春川さんとお出かけか?」

「うん」


 私たちはお互い顔を見て話す。


「それじゃ、俺は隣だから」

「うん。また明後日ね」

「おう。また明後日な」


 そう言って、海斗君は部屋に入っていった。



 海斗君のことを忘れるために始めた一人暮らしが、海斗君と近づくことができるようになるなんて、あの時は思ってもみなかった。


 きっと、ようやく他の人と同じスタートラインに戻ってこれた程度だと思う。

 けれど、それでも十分な進展だった。

 「またね」なんて、最初のうちは言えなかった。もう、二度と言えないと思っていた。

 でも、変わった。「またね」が言える関係まで戻ってきた。


「ここからが、0からの勝負か……」


 私は、これから現れるかもしれないライバルたちとも戦っていくことを決意した。

 例えそれが、どんなにも辛い、苦しい戦いになったとしても。

 

 私はそう言って、部屋に入り、ドアのカギをそっとしめた。



………………………………………

これにて一章完結です。


人気次第では続編も書こうと思っていましたが、自分の想像以上の読者様に読んでいただけましたので、次話から二章を開始したいと思います。

本当にありがとうございました!


では、明日の20:03。またこの物語でお会いしましょう。


もし、面白いと思っていただけたのなら、フォローやレビュー、感想の方、よろしくお願いいたします。

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