12話 元カレは再起します

 気が付くと、そこは本当に見慣れない天井だった。


「うっ……」


 体を起こそうとしたが、頭がボーっとして身動きが取れない。


 ふと窓の方を見ると、オレンジに染まり始めた光が差し込んでいた。


「どこだ、ここ…」


 俺は何とか動かせる頭を振って、辺りを見回した。

 白いガーテンに、白い布団。白を基調としたこの部屋は、何の部屋なのか知っていた。


「病院…か?」


 そう、ここは明らかに病院の病室だった。


「何でこんな所にいるんだ?」


 俺は冴えない頭で必死に考えた。


 どうして俺はここに居るのか。


 どうして体が痛いのか。


 どうして頭がくらくらするのか。


 しばらくすると、俺の頭も徐々にクリアになってきた。

そして、俺はようやく思い出した。


 ここに至るまでの記憶を…。




 5月1日。


 秀真と約束をした後、俺はもう一度春川に連絡をすることにした。

 理由は、しっかりとお礼もできずに電話が終わっていたからだ。


「あ、もしもし春川さん」

「もしもし。どうしたの?」

「えっと、とりあえず、さっきは何も返事できなかったから」

「あ、うん。なんだか変なこと言ってごめんね?」

「いや、むしろありがとうを言いたいんだ」

「え?」


 俺がそう言うと、春川は驚いたような声を上げた。


「俺さ、今までずっとネガティブなことしか考えてこなかったんだよ。まぁ、その考えに陥ったらって話だけど。自分の考えが絶対正しくて、間違ってるだなんて考えたこともなかったんだよ。それで、今まで失敗してきたのに…」

「そうなんだ。高原君って賢くて、何でもできると思ってたから、ちょっと意外かな」


 俺の話を聞いて、春川は驚くと言うよりかは、どこか親近感がわいた。というような感じだった。


「うん。だからさ、そんな俺の思考回路を断ち切ってくれてありがとう」

「そんな、なんだかちょっと恥ずかしいな…。でも、一応どういたしまして」


 俺は、春川のおかげで朱音について考え直したので、今後の作戦いついて話し合いたいと思っていた。


「なぁ、春川さん」

「どうしたの?」

「今後の作戦について、一緒に考えてほしいんだけど、明日って空いてる?」

「え?明日?」

「うん」


 明日という言葉を聞いて、少し言葉を詰まらせる春川。


「ごめんね、明日はちょっと用事があって……。明日以外ならいつでも大丈夫なんだけど…」

「そっか、なら仕方ないな」


 明後日に秀真と会う前に、一度春川と話し合いをしておきたかった。

 だから、明後日より早くなくてはならなかった。


「それなら、今日は今から暇か?」

「え?今から?でも、もう遅いし、外出は……」

「あぁ、違う違う。電話でだよ。このまま話せないかなと思って」

「あ、あぁ~。そっかそっか。それなら大丈夫だよ」

「ほんとか!それは良かった」


 俺は、春川に許可をもらうと、さっそく今後について話した。


「それで作戦なんだけど、二人でどこかに出かけようって誘おうと思うんだけど、どうかな?」

「うーん。いいと思うけど、やっぱり、初めに謝らないといけないよね」

「そうだな。確かに、それは絶対に必要だよな…」


 俺が今後どうやって近づいていこうかと考えて、それを言うと、春川はそれ以前に今までのことを謝罪するということを言ってくれた。


「そう。だから、デートに誘うなら誘って、それから初めにあった時に誤ればいいんじゃない?」

「そう……だな。よし、じゃぁ中間テストが終わったら誘ってみるわ」

「うん。それでいいと思うよ!ただ…それよりも早くに何か会ったら、先に謝ることだけは済ませた方がいいかもね」

「確かに、それもそうだな。色々とアドバイスありがとな」

「いえいえ。私も楽しいからしてるだけだし」

「それじゃ、ありがと」

「うん。またね」


 そして、俺は通話を切った。


「デート…か。考えてみれば別れてから初めてだな…。上手くいくかな」


 俺は、そんなことうを考えながら、勉強を始めた。




 翌日、5月2日。

 いつもよりぐっすりと寝てしまった俺は、アラームの音ではなく、物音で目を覚ました。


「ん?なんだ?騒がしいな…」


 なんだろうと思いながら体を起こすと、その物音の正体を理解した。


「朱音…?」


 そう。その物音は隣の部屋からだった。


 バタバタと音を立てながら、何かを探しているような、そんな感じの音だった。


「いったい何を探してるんだ?」


 俺が不信に思っていると、その音がパタリとやんだ。

 そして、足音がだんだん玄関の方へと近づいていく。


「……」


 俺は、あまり良い行動ではなかったが、気になったので外に出ることにした。

 軽く着替えているうちに、朱音の部屋の鍵が閉まる音がした。


 俺は少し慌てながらも、朱音がどこへ行くのか探るため、玄関をそーっと出た。


 そして、少しすると、道路を歩く朱音の姿が見えた。


「どかに行くのか…」


 そして俺はふと気づいた。

 朱音の服装が、明らかにおしゃれをしていることに。


「あれ?あの服確か、俺と初めてデートへいた時に来てた服じゃ……」


 少し気持ち悪いかもしれないが、俺は確かにおぼえていた。


(ん?デート?)


 そして、俺が自分で言ったデートという言葉に、何かが引っかかった。


「……」


 考え込む俺。

 そして、ある言葉を思い出してしまった。



━明日以外なら、いつでも空いてるぞ



 秀真が俺に送ってきたメールの内容だ。


「まさかな…」


 嫌な予感がした。

 また、朱音は秀真とデートをするのではないか、と。


「でも、まだそうと決まった訳じゃないし……」


 今回は、前回と違って完全に憶測だ。



 でも、もしもそうなら……



 そう考えたときだった。


━ドクンッ!!


「うっ……」


 心臓が、強く鼓動をうった。


 そして、それと同時に頭がふらふらとして、視界が悪くなった。


 さらに、足元がおぼつかなくなり、思考がぼやける…。


「やばい……」


 俺はそう思ったのが最後だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る