17話 元カノは思い出を語ります

 翌日。

 私は、朝起きるとすぐに、準備を開始した。

 昨日のうちに済ませておけと思われるかもしれないけれど、そうもいかなかったのだ。


 まず、私はアルバムを準備した。

 それは、少し探せば済んだので、思っていたよりもすぐに終わった。

 しかし、そこにトラップがあったのだ。


 思っていたよりも早く見つかってしまったので、少し時間があった。だから、私は何を思ったのか、そのアルバムを開けてしまった…。


 後は、ご想像通り。見事に最後まで見てしまったのだった。



 だから、私は今、初デートで着た服を探していた。

 ある程度目星はついているのだが、残念なことにその服のある場所は、クローゼットの結構奥だった。


「やるしかないよね…」


 私はそう呟くと、覚悟を決めてあさることにした。



━ドタドタドタッ!



 ものすごい物音と共に、私はついに服を取り出すことに成功した。


「は、ははは……」


 服は見つかったのだけど、その代償は酷いものだった。


 簡潔にまとめると、一番最悪な状態になった。

 まぁ、想像通りだと思うけれど、すべての物が雪崩のように崩れてきた。


「もう、嫌だ…」


 私は、そうぼやいて、渋々片づけを始めた。




 しばらくして、私はある程度かたずけ終わると、集合時間が近づいていたので、すぐに着替えて家を出た。




「あ、別にこの服着ていかなくてもよかったんじゃ…」


 私はマンションを出てからそのことに気が付いたが、もう気にしないことにした。


「なんだか、この服着てると、色々思い出すなぁ…」


 私は、初デートの記憶。水族館へ行った時の思い出がふと頭に浮かんだ。


「また、行けるかな…」


 気が付いたら、そんなことを口にしていた。


「って、ダメダメ!このままだとまた元に戻ろうとしちゃう…。再スタートだよ。コンティニューしなきゃ!」


 私は、頬を軽くたたきながらそう言って、足早に駅へと向かった。




「お邪魔します、泉ちゃん」

「おはよ、朱音ちゃん」


 私は、時間より早めに泉ちゃんの家に着いたのだが、泉ちゃんはもう入っていいよ~って言われた。

 そして、私が家に入ると、泉ちゃんがパンッ!と手を合わせて、私に謝ってきた。


「ごめん!朱音ちゃん!」

「え、え?どうしたの?泉ちゃん?」

「実はね…ちょっと他にも客が来ちゃって…」

「え?だ、誰?中学の時のお友達?」

「えっと…そうと言えばそうなんだけど」

「私も知ってる人?」

「ま、まぁ、知ってるのは知ってるよ」

「そうなの?じゃぁ、誰が来てるの?」


 私がそう聞くと、泉ちゃんは「ついてきて」と言って、私を泉ちゃんの部屋に案内してくれた。

 そして、扉の先にいた人を見て、思わず名前を呼んでしまった。


「平川くん?」

「あ、志水か。悪いな。泉に聞いちまってな。興味があったから無理言って押しかけちまった」

「私はダメだって言ったんだけどね…」


 そう言って、泉ちゃんはやれやれポーズをした。


「ま、まぁ、別に私は良いけど…」

「そっか。まぁ、朱音ちゃんがいいなら私はギリギリ許すけど」

「ほんと、悪いな、志水」

「い、いいよ、大丈夫。それに、海斗君の友達がいた方が対策も練りやすいしね」

「対策?」

「そう、対策。朱音ちゃんがこれから高原君をどう攻略するかの対策」

「今まで通りじゃダメなのか?」

「うーん。まぁ、ちょっと色々あってね…」


 泉ちゃんが言葉を詰まらせたので、何かを察したのか、平川くんはそれ以上言及することは無く、「分かった」といった。

 私は、「幼馴染みってすごい…」と思いながら、泉ちゃんに促されるままに、床に座った。



「それじゃぁさ、さっそくアルバム出してもらってもいい?朱音ちゃん」

「う、うん。了解」


 私はそう返事すると、さっそく中学のときのアルバムを鞄から出した。

 私がアルバムを床に広げると、泉ちゃんは隣から、平川くんは対面から、覗き込むようにアルバムを見た。

 私は、ところどころ思い出話をしながら、一緒にアルバムを見た。




「へー。海斗って結構中心的なやつだったんだな」

「うん。海斗君は女の子にもモテるけど、男の子からの信頼も厚かったから」

「さすがって感じだね。高校でも後2、3か月したら席の周りがにぎやかになるんじゃない?」

「まぁ、確かにそうかもな。今はしょっぱなからモテまくってるやつって感じで男子にねたまれてるけど、それもいずれ受け入れられるだろうし、そうなるだろうな」

「高原君って、自分の状況が分かってるって言うか、理解してるよね。今はおとなしくしてる方が身のためだと分かってるから、あえて静かめに過ごしてるんだね」

「そうだな。あいつは、頭がいいんだよ。勉強ができるんじゃなくて、頭がいいんだな」

「海斗君は、昔からそんな感じだったんだよ。だから、余計に女の子からモテて…」

「ま、まぁ、今は誰の告白も受けてないんだから、いいじゃないか」

「そ、そうだね。私またネガティブ思考になってた」


 私がネガティブ思考に陥りそうになっていたら、平川くんがギリギリのところで引き戻してくれた。

 ありがとう、平川くん。


「そして…今日朱音ちゃんが来てる服だけど…」

「ん?似合ってんじゃん。何か問題でもあるのか?」

「いや、そうじゃなくてね。私が朱音ちゃんに頼んで高原君との初デートの時んい来てた服を着てきてって頼んでたの」

「そうなのか…でも、それ大丈夫か?」

「え?何が?」

「いや、何でもない」


 平川君は何かを言おうとして、辞めた。

 私は少し気になったけど、それを聞く前に、着信音に遮られた。


━プルプルプルッ


「あ。朱音ちゃん、電話なってるよ?」

「え、あ、ほんとだ。ごめんね、ちょっと出てくる」

「おう」

「分かった」


 私は、2人に断りを入れると、携帯を持って廊下に出た。


 そして、相手を確認すると、ご近所さんからだった。


「あ、もしもし。志水です」

「もしもし。朱音ちゃんかい?よかった、ようやく出てくれて」

「すみません。少し友人と話をしていて、気づかなかったみたいで…」

「いいのいいの。でも、それで部屋にいなかったんだね」

「はい。あの、私に何か用事があったんでしょうか?電話でよければ今お聞きしたいのですが…」


 私がそう言うと、ご近所さんは、少し間をおいて、至って真剣な口調で私に尋ねてきた。


「朱音ちゃんは、高原君と知り合いなんだよね?」

「は、はい。同級生で、同じ学校にも通っていますので」

「そっか…」


 そして、それを聞くとまた黙ってしまった。


「落ち着いて聞いてね、朱音ちゃん」

「は、はい…」


 ご近所さんの、優しく、私に言い聞かせるような口調に、少し緊張が走った。

 何か、嫌な予感がした。


 そして、次に放たれた言葉によって、その予感が的中していることが証明された。



「高原君がね、病院に搬送されたの…」



「え……………?」


 私はそれを聞くと、頭が真っ白になってしまった。

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