12話 元カノさんの誕生日は色々と大変な様子です〈前編〉

 今日は4月17日金曜日。天気は晴れ。

 学校は午前授業となっていて、みんないつも以上に元気な金曜日だった。


「おはよう朱音ちゃん」

「おはよう泉ちゃん」


 私は駅の前で泉ちゃんが来るのを待っていた。そして、ちょうど今泉ちゃんが到着したところだった。

 私の家から、駅は学校の真反対なのに、どうしてそんなに遠回りしているかと言うと、ちゃんと理由がある。


 私の家から学校までは、5分程度なのだけど、一人で登校するのはどうして他の男の子に絡まれたりして少ししんどい。

 だから、私は早めに登校するようになったのだが、それでもだめだった。

 そこで、泉ちゃんはそんな私を助けるために、私に合わせて早く登校してくれるようになった。


 電車通学なのだから、私よりも早く出ないといけない。でも、泉ちゃんは嫌な顔一つせずに付き合ってくれている。

 だから、私はその優しさに甘えて駅まで来ているのだ。

 それまでに絡まれるんじゃない?と思われたかもしれないけど、人を待っていると言えるので、大丈夫だった。


「今日は午前授業だから、少し気持ちが楽だね」

「そうだね。私も金曜日が午前授業だから楽だよ」


 私はそう言った。

 金曜日というのは、一週間において最後の日。これを乗り越えれば休みが待っている。

 しかし、それと同時に一週間分の疲れが押し寄せてくる日でもある。

 そんな金曜日が午前中で終わる。これほど楽なことは無い。

 私たちは、浮かれ気味に学校へと向かった。




「朱音ちゃん。一緒にご飯食べよ」


 今日は午前中授業だったけど、食堂は空いていて、昼食を食べて帰る人も多く見られた。

 私は特に予定がなったので、すんなりと了承して教室を出た。



 食堂にはそこそこの人数がいて、私たちはかろうじて空いていた席に座り、ご飯を食べ始めた。

 私は焼き鮭の定食にし、泉ちゃんはハンバーグの定食にした。


「今日はすごく混んでるね」

「そうだね。今日は午前で授業が終わるから、お弁当を持ってきている人は一人もいなかったからね。多分外食するよりも食堂で食べたほうが安いから、使ってる人が多いんじゃないかな?」


 私はある人からうつってしまったすぐに考えてしまう癖で、冷静に分析して出た結果を口にしていた。


「なるほどね。そう言う理由もあったんだ」

「う、うん」


 私は素直に褒められて、少し恥ずかしくなってしまった。


「あ、午前授業で思い出したんだけどさ」


 私はふと思い出して、聞いてみた。


「今日ってこの後予定とかある?なかったら一緒に遊ばない?」

「…ごめんね、朱音ちゃん。今日はちょっと先約があって……」


 そっか。泉ちゃん、今日は無理なのか。そうなると、少し暇になっちゃうなぁ~。

 今日は何をしようかと考えていると、泉ちゃんが続けた。


「あ。だけど、明日は予定ないから、明日遊ぼ?」

「うん。私も明日は予定がないから、明日にしよ。泉ちゃん」


 私に気をつかってくれたのだろう。明日遊ぼうと言ってくれた。私には休みの日に遊びに行ける友達なんて、まだ泉ちゃんくらいしかいなかった。

 誘ってくれる人は結構いるんだけど…。


「じゃぁ、明日の打ち合わせはまた後でしよっか」


 私は泉ちゃんが今から誰かと待ち合わせしていることを思い出し、そろそろ帰ろうと促した。


「それじゃぁ、そろそろ帰ろっか」

「うん。そうだね」


 泉ちゃんも私も食べ終わったので、私たちはトレーを返して食堂を後にした。




「それじゃぁまた明日ね」

「うん。また明日」


 私たちは駅まで一緒に歩いていくと、今日は立ち話をせずにバイバイをした。

 電車に泉ちゃんが乗ったことを確認すると、私はマンションへと歩き始めた。




 一人家に帰った私は、カレンダーを見て思い出した。


「あ。今日私の誕生日だ」


 私は仲良くなった誰にも、まだ誕生日を教えていなかった。そのせいで、今日が誕生日だったということを、今初めて思い出した。


「誕生日、か……」


 私は少し思い出した。

 中学校では、みんなが私の誕生日を知っていた。男の子も女の子も私のことを祝ってくれた。

 同じ高校に合格した友達も結構いた。でも、みんな併願の受験者だった。そして、結局みんなそれぞれの志望校である公立高校に合格した。ある一人を除いて。


 そのある一人というのが高原海斗君だった。

 他の誰が祝ってくれるよりも、海斗君が祝ってくれると、何十、何百倍も嬉しかったことを今でも覚えている。


「海斗君。今年は祝ってくれるっかな?」


 私は、ほんの少しの期待をしながらベッドに入った。




 私は少し疲れていたので、ベッドに寝っ転がった瞬間に眠ってしまっていた。


「いけない。また寝てしまった」


 私は最近疲れているのか、家に帰るとすぐに寝てしまう癖がある。

 今日は、私の誕生日だとさっき知ったので、スーパーに買い出しに行く必要ができた。


「よし。じゃぁ行ってきます」


 私は誰もいない部屋にそう呟き、鍵を閉めた。




 外に出た私は、いつもと違うルートで行きたいなと思った。

 まだ寝起きで頭が回っていないということもあり、少し遠回りしていくことにした。


「駅前を通っていこうかな」


 私はそう呟いて駅の方へ歩き出した。



「海斗君は、私の誕生日、覚えてるのかな?」


 そんなことが頭によぎる。

 例え覚えていたとして、果たして祝ってくれるだろうか。


 そんなことを考えていると、ハッとした。

 また考えこんでしまったと。

 まったく、一人で歩いていると、色々と考えてしまうようになったのは、いつごろからだったのかなと思い、少し笑った。


「海斗君の影響がすごく大きいな」


 私は海斗君の癖が自分にもうつってしまっていることを改めて認識した。


「あ、そうだ。せっかくだから、海斗君にご飯をごちそうしようかな?一緒にご飯を食べられたら、それだけで十分誕生日プレゼントになりそうだし」


 私はそんなことを言いながら、駅の近くまで来ていた。


 駅の近くに来ると、そこには二人の男女の姿があった。


「あ。海斗君と泉ちゃんだ」


 「おーい」と言って近づいていこうと思ったのだが、私はなぜかとっさに 隠れてしまった。


「あれ?私、何してるんだろう」


 心当たりはあった。おそらく今週の水曜日の時に感じたものだ。



━━はぁ。やっぱり勘違いだったのかな……。



 その可能性が高い分、ゾッとした。

 その理由は、二人が制服姿ではなくて、私服姿であることだった。


「やっぱりネガティブ思考になっちゃうよね……」


 私はその思考をぐっとこらえて二人の話を盗み聞きするような感じで聞いていた。

 すると、朱音ちゃんの声が聞こえてきた。


「また行こうね」

「……う、うん」


 海斗君の声も聞こえた。

 また行こうってことは、どこかに行っていたということなのかな。

 やっぱり二人いて付き合ってるのかな……。


 またネガティブ思考をし始めていた私の耳に、追い打ちをかけるように海斗君の声が聞こえてきた。



「これって、デートみたいだな」



 デート。そっか、デートか。やっぱり二人はそう言う関係だったんだ。

 そう思っていると、自分の目から涙がこぼれていることに気が付いた。


「あれ?おかしいな……。二人がそう言う関係かもしれないって推測したのは自分のはずなのに……」


 分かっていた。自分が期待していたことに。

 それでも、可能性があるとばかり思っていた。


 やっぱり私には無理だったんだ。


 そう思うと、私は途端に悲しくなった。


 涙をぬぐい、私は走りだした。

 何も考えずに走りだしたため、私は海斗君たちに見つからないルートで帰るという選択肢を放棄してしまっていた。


「私、馬鹿だよね。勝手に勘違いして、勝手に私の考えを押し付けて。これじゃ、あの時とまったく変わってないじゃん」


 私は自分に恥ずかしくなった。

 まただ。また私は自分で自分を苦しめてしまっている。

 どうしてなんだろう。

 あぁ。結局私にはどうすることもできなかったってことなのかな。


 私は後ろを振り返らず、マンションに向かってひたすらに走った。

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