第27話

 看護活動60日目。現在は13時25分。


 無菌室内にレイと私以外に、入室者がいる時がある。

 毎週土曜日の14時、トイレとシャワー室を含めた清掃のため、看護師が入室する。

 次に毎週日曜日の14時。ベッドメイクと医療機器、医薬品などの補充で、看護師が入室する。

 入室時は当然、滅菌スーツ着用だ。


 そして毎週月曜日、院長とドクターが回診のため入室する。


 本日は月曜日、院長と担当医の関口ドクターの2人が、滅菌スーツに包まれた姿で入室してきた。

 ベッドに取り付けられているネームプレートを指して、関口ドクターがレイの病状と進捗を簡単に説明する。

 滅菌スーツのサイズが合っていない院長は、フードの内側で必要最小限の顎の動きで了解の意志を示してから、関口ドクターを残して無菌室を出た。前室では滅菌スーツ姿のスタッフが待機していた。


 3分後、彼らが前室を出た頃になって、レイは大きな声で笑い出した。

「いつも思うんだけど、無駄だよねこれ!」

「まあ、そうはっきり言うなよ。こっちも大変なんだから。じゃあ診察するから胸を出して」

「あとさ、もっと大きめのスーツ無いの? すごい苦しそうでさ、こっちが心配になるよ」

「作ったんだよ。でも作った後からまた太っちゃってね」

 そう言って関口ドクターは人差し指をバイザーの前に立てた。レイはまた大声で笑い出す。

 笑いながら咳込むレイに、関口ドクターは質問した。食事はどのくらい食べているかと。ドクターの声の調子が変わっている。最近あまり食事を美味しく感じないし、食べる時に咳込むようになったとのレイの回答を聞き、ドクターは専用の携帯端末で過去の情報を確認。そしてレイの口内と胸部呼吸音を調べ、私にも質問をした。食事後に咳込む現象はいつぐらいから発生していたかと。15日前から報告は出していると私は回答した。


 その後、急遽きゅうきょ各種検査が行われ、夕方にはレイの父親が病院に呼ばれた。

 レイに味覚障害と嚥下能力の低下が認められたためである。このままでは近いうちに誤嚥性肺炎ごえんせいはいえん併発へいはつする危険性があるというのがドクターの結論だった。

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