無菌室のマリア

皆中きつね

第1話

「お願い、言わないで」

 一緒にベッドで寝ている少年が、毛布の中でか細い声で言う。身体が震えていることが皮膚センサーから伝わる。

「ナースステーションに報告するな、という事ですか?」

 14歳の少年の頭が小さくうなずく。イエスだ。

「ナースステーションに報告する義務を負っている内容は、レイの日々の体調、ならびに病状の変化に繋がる諸症状についてです。現在の事象は……」

 少年が毛布の中で身を固くする。

「男性の第二次性徴期に伴う『射精』と呼ばれる一般的な現象で、特に報告すべき事ではありません」

「ホントに?!」

 少年、レイは毛布から顔を出して私を見る。病室内の照明は夜間用に抑えてあるが、私のノクトビジョンはレイの顔に涙の跡を確認した。

「ただ、衛生的観点から着替えをする事を進言します」

 レイはゆっくりとベッドの上で上体を起こして、私に顔を近づけて言った。

「マリア、怒ってない?」

「怒る、というのがレイのこれからの行動に制限をかける事であるなら、答えはノーです」

「ありがとう、シャワー浴びて着替えてくるね」

 レイは部屋に隣接しているバスルームに向かう。バスルームの扉を開けて立ち止まり、急に私に問いかけた。

「マリア、まだ一緒に寝てくれる?」

「現在の時刻は午前01時47分です。プログラムでは午前05時00分までレイに対する看護行動は継続されます。午前05時00分から07時00分までのメンテナンスタイム以外は、私はレイの指示に従います」

 私の返答を聞いたレイは、笑顔になってバスルームへと入っていった。

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