第4話

 看護活動3日目。現在は15時03分。


 私は定位置に座って待機状態を続けている。

 少年は昼食を食べ終えてから75分もの間、端末を手にしてベッドに座っている。

 そして私と端末の画面を交互に見ながら端末の画面上で指を動かす。

「ねえはじめくん、さっきから何してるの?」

 ベッド脇のデスクの上にある固定端末から女性看護師の声がした。

「な、なんですかいきなり! 脅かさないでくださいよ伊上いがみさん」

「あら、ちゃんとコール出してからモニターオンにしたわよ。黎くんが気がつかなかっただけでしょ? で、何やってたのよ?」

「なんでもないですよ!」

「当ててみせましょうか。黎くん、マリア描いてたでしょ」

 少年は端末を抱きしめながらベッドの上を後退あとずさりした。

「こら、お姉さんに見せない気だな。だったらこうだ! 『マリア、黎くんから端末取り上げろ!』」

 驚いた表情で固まったまま、少年は私を見ている。

 固定端末に映る伊上看護師は、首をひねっていた。

「あれ? おかしいな?」

「バカな命令は無視するんじゃないですか?」

「うっさいわね! 電池切れてんじゃね?」

「マリア、バッテリーの状態は?」

 マスターからの指示コマンドが入ったので私は応えた。

「はい、現在バッテリー残量は98%、機能は正常です」

「なんなのよこれ!」

 その後、ナースステーションの伊上看護師が坂上ドクターに連絡して、私の動作内容について再確認が入り、吉野ドクターが私に看護師の命令権限認証作業を失念していた事が確認された。また、伊上看護師が私に出した無効なコマンドの内容が問題視され、私は少年と坂上ドクター、吉野ドクター以外からのコマンドは受け付けないよう一時的に限定されたモードに入った。

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