第3話
看護活動2日目。現在は06時59分。無菌室の前室に待機状態でいる。自分の状態がオールグリーンである事を確認した。
07時00分。活動開始。前室の扉が開き、私は無菌室に入室した。
「おはようございますマスター。看護活動を開始します」
少年はベッドから毛布を掴んで上半身を起こし、目をこすりながら言った。
「おはようマリア……本当に今日は朝からずっといるんだ……夜も部屋にいたよね、大丈夫?」
「2時間のメンテナンスは終了しております。機能は全て正常です」
所定の椅子に座り待機状態に入る。このままの状態でワイヤレス充電もされるので、活動限界領域に入ることはない。
待機状態に入り2分後に、ベッド脇のデスクの固定端末がコールを鳴らした。
「
固定端末のモニターがONになる。長い黒髪を後ろで1つに束ねた笑顔の女性の姿が映る。ナースステーションの
「起きてますよー。伊上さん朝から元気ですね」
「夜勤ハイの看護師を舐めんなよ。まー、君が寝てても体温とか脈拍とかデータ自動で来るけどね。てゆーか黎くん、今朝はいつもより脈拍高いぞこら。そんなにマリア気に入った?」
「え? そんな事ないですよ!」
「昨日聞いたけどマリア凄いのよ。人差し指と中指の先にセンサーあるんだって。黎くん、ブレスレットからじゃなくてマリアに熱とか脈測ってもらう? ご希望なら直腸温だって」
「いいですよそんなの!」
「そんな事言って、心拍数爆上げしてるよ黎くん」
「いちいち見ないでくださいよ! 患者のバイタルサインを何だと思ってるんですか!」
「ゴメンゴメン、怒った? でもさ、やっぱり君、他の子と違うよ。頭いいもん」
「僕は他の子と同じ方がよかったです」
2人の会話はそこで途切れた。沈黙が32秒続いた後、伊上看護師が口を開いた。
「ゴメン、調子乗り過ぎた」
「僕の方こそ、ごめんなさい」
モニターに映る伊上看護師の背後に、髪の短いもう1人の看護師が現れた。山中看護副主任だ。
「伊上さん、モーニングコールが終わったのなら、野崎のおじいちゃんのところいってもらえるかしら」
ハイ! と直立して応えて、伊上看護師は駆け足で移動した。モニターには代わって山中看護副主任が映っている。
「ごめんなさいね黎くん。あの子あれでも悪気はないのよ」
「知ってます、大丈夫ですから」
「それにしても、マリア、やっぱり凄いと思うわ。ドクターたちがラボでこの数年何かやってるのは聞いてたけど、まさか看護師のロボット作ってたとはね。私たち再就職先探すべきかしら」
山中看護副主任はそう言って笑った。
少年も一緒に笑いながら応じた。
「イチから作ったんじゃなくて、いろいろ寄せ集めて作ったって聞きましたけど」
「そうみたいね。たしかコンパニオンのロボットをベースにしたって聞いたけど、実際キレイな顔してるわ。ちょっと悔しいくらい」
「胸部と腰部がちょっと大きいのは、駆動系の関係でしょうか?」
「あら、男の子は見るところが違うのね」
少年は顔を赤くしてうつむき、モニターの中の山中看護副主任は「冗談よ」と言って笑う。
モニターからチャイムの音がした。「食事が来たみたいだから」と言って山中看護副主任はモニターの接続を切った。
無菌室の壁の小窓が開き、滅菌パックに包まれた食事がトレイに乗って現れた。朝食の時間だ。
全ては正常に動いていた。
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