第36話

 私がメンテナンスを受けずに無菌室に座り続け、3日目となった。そのためだろうか、私のメモリ管理機能に異常が生じたようである。

 レイに対する看護作業のメモリが、消費電力抑制の待機モード中にもかかわらず、時折ランダムに再生されるのだ。


 魂のように数値化できない概念を、私に根気よく説明していたレイ。

 嘘にも良い嘘と悪い嘘があるんだと教えてくれるレイ。

 ダウンロードしてきたボーカルモジュールを、私のハードに合わせるために調整を繰り返していたレイ。

 筋力低下のため手元のパッドからの端末操作となり、涙を流しながら操作に慣れようと努力していたレイ。

 私の隣で、裸で眠るレイ。


「レイ、頑張ってください。あなたが居なくなると、私はとても悲しいです」


 これは、私が最後にレイに話しかけた言葉だ。

 レイは、私が良い嘘ホワイトライを言えるようになったと喜んでいた。

 だが、あれは本当にホワイトライだったのだろうか。それとも


「なんだ、こんなところにあったのか」

 突然近距離で声が聞こえた。

 私は待機モードを解除する。

 現在の時刻は22時14分。

 システム副管理者の吉野浩ドクターだった。

 一度外したメガネをかけ直しながら吉野ドクターは言った。

「歩けるか?」

 私のバッテリー残量は18%だった。

「問題ありません」

「じゃあついてこい」

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