第26話

 看護活動47日目。現在は07時00分。

 無菌室の扉が開き、入室する。


「マリア!」


 私が看護活動開始の挨拶を言うよりはやく、レイが泣きながら抱きついてきた。

「マリア、もう戻ってこないかと思った。ごめんなさい、ごめんなさい……」

 レイは私の胸元に頭を押し当て、咳き込みながら泣いている。

「問題ありません」私は言った。「オールグリーンです」

 レイはしばらく泣いていたが、やがて涙をパジャマの袖で拭い笑顔を見せた。

「安心したら疲れてきちゃった。横になるね」

 そう言ってレイはベッドに横たわる。

 左手首のブレスレットからの情報では、心拍数正常、体温は37.3度、微熱あり。


「マリア、前はね、家に帰りたいなっていつも思ってた。『ただいま』って言いたかった」

 ベッドに横たわったまま、レイがつぶやく。

「でも今はね、マリアとずっとここに居るのもいいかなって思うんだ」

 そう言ってレイは笑った。

「一番いいのは、マリア連れて家に帰る事だけど……現実的じゃないよね……」

 レイは黙り込む。

 そしてしばらく経ってから、小さくつぶやいた。


「現実、か……。あと、どのくらいなんだろ……時間……」

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