第6話

 看護活動3日目。現在は22時53分。消灯時間開始から1時間53分経過した。

 少年はベッドに座って就寝に入らない。ベッド脇の照明を点けたまま、手元の端末を触り続けている。

「ねえ……マリア……起きてる?」

「はい、起動中ですマスター」

「えーと、あのさ、その『マスター』って呼ぶの、どうにかならないかなあ」

「質問の意味がわかりません」

「他の呼び方にならない? ってことだよ」

「わかりました。変更しました、はじめ」

 少年は端末を握ったままベッドに仰向けに倒れて大声で笑い出す。

「そっか、そうだよ、そうなるよなー。じゃあさ、これから僕に呼びかける時は『レイ』って呼んでくれない? はじめって漢字、レイとも読むからさ。黎明のレイ。友達は僕のことレイって呼んでたし」

「わかりました。変更しました、レイ」

 私の報告を聞いたレイは、そのままベッドの上で仰臥の姿勢となり静かになった。

 3分24秒の沈黙の後、レイは私に小さな声で問いかけた。

「ねえマリア、僕って死ぬのかなあ」

「はい、死にます」

 驚いた表情でレイは私を見る。回答が終わっていない私は続けて説明した。

「全ての人間は等しく死を迎えます。全ての生き物も等しく死を迎えます。形あるものはいずれ壊れ、始まりあるもの全てに終わりがあります」

「マリア、それって哲学系サイトにアクセスして、書いてある内容そのまま喋ってるでしょう?」

「はい、その通りです、レイ」

「やっぱりなあ」

 レイはベッドに寝そべったまま何か言いたそうにしたが、その時固定端末からコールが鳴った。夜間のため音量は小さく抑えられていたが、レイは即座に反応し、ベッド脇の照明を消して毛布をかぶって就寝中を装った。

 固定端末のモニターが点き、看護師の姿が見えた。夜間巡回だ。レイが就寝中である事を視認してすぐモニターは消えた。

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