第8話

「マリア、嘘をつくこと、できる?」

 暗い無菌室のベッドの中から、レイは質問した。

「私にそのような機能はありません。また医療現場での虚偽報告は、重大なインシデントを招く原因になります。危険です」

「だよね。でもマリア、マリアは看護師の服着てるし、看護師と同じ仕事をしなきゃいけないから、今から言う事をよく覚えてね。嘘にも良い嘘ってあるんだよ。ホワイトライって言うんだ。相手に希望を与えるための嘘だよ。患者に希望を与えるのも看護師の仕事だから、さっきみたいに、『死ぬ』とか絶対に言っちゃダメ。わかった?」

「『死ぬ』は禁止、了解しました」

「もし、本当にその人の病気が治らないとわかっていても……」

 レイはそこまで言って、一旦言葉を区切る。

「わかっていても、絶対に言っちゃダメだよ」

 震える声でレイは言った。

「了解しました」

 レイは毛布を顔の下半分が隠れるほど引き上げてから、また私に質問した。

「マリア……手握っていい?」

「問題ありません、レイ」

 毛布から出ているレイの目が笑う形になったのを、私の暗視装置ノクトビジョンが認識した。

 レイは片手を伸ばして、私の大腿部の上にある手の上に重ねるように載せた。

「ありがとう、こうしてるとすごく安心する」

 レイは目を閉じて、そして言った。

「マリア、僕が眠るまでここにいて」

「了解しました、レイ」

 レイが10分後には眠りについた事は、呼吸と脳波の変化から感知できた。目に涙の跡がある事もノクトビジョンで確認できた。

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