第10話

 看護活動5日目。現在は19時13分。


「大丈夫だよ、お父さん」

 固定端末に向かってレイは話す。

 端末のモニターには、スーツ姿の男性が映っている。

 認証、内部データに1件合致有り。新城涼介しんじょうりょうすけ、43歳、新城黎しんじょうはじめの父親。

「すまん、父さん、お前に謝ってばかりで……」

「だってお父さんが悪いんじゃないから」

 話の内容は、本日昼過ぎにレイの母親、新城恵子しんじょうけいこ45歳が、レイへの面会と差し入れを目的として病院へやってきた事だった。

 食べ物や学習参考書などの差し入れようとしたがナースステーションで拒否、面会のための入室も拒否された。

「お母さん未だに理解できてないんだもん。困っちゃうよね」

「マリアの件も聞いたよ、院長とドクター、看護師さんたちにも謝っておいたから」


 モニター越しによって行われたレイとの面会で、無菌室内の私の存在に気づいたレイの母親は大声で苦情を言い始めた。対応にあたった吉野ドクターが、患者への24時間対応と緊急時の即応性、さらに患者側からの心理的抵抗感への考慮から女性看護師型のアンドロイドの開発がなされたこと、国家の認証も降りた正式な医療機器であることを、丁寧に説明した。だがレイの母親は全く耳を貸さずに騒ぎ立てた。レイが外務省勤務の祖父、新城啓太郎しんじょうけいたろうに連絡を取り、祖父が勤務先からリモートで仲裁するまで騒ぎは続いた。


「『不潔よ!』って大声で怒るんだもん。『お母さん、ここ無菌室だよ! 不潔なものは無いの!』ってこっちも大声出しちゃった。大学出てても自分が雑菌のかたまりだって理解できてないんだよね……お父さんなんで笑ってるの?」

「いや、お前、そういうところはまだまだだなって……。とにかく、お母さんにはちゃんと説明しておくから」


 父親との会話を終了したレイは、「今日はちょっと疲れた」と言って消灯を待たずに就寝した。

 私はレイが眠るまで、指示に従ってベッドに座りレイの手に触れていた。レイが眠った後に定位置に戻る選択肢があったが、そのままベッドに座り続ける。レイにつけられているブレスレットから届くデータと私の指先のセンサーが感知するデータが、そう判断させた。


 21時03分、10分以内の変化大。体温37.5度、脈拍92bpm。私は採取したデータを添えてナースステーションにコールした。

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