第23話
現在は08時42分。
レイは朝食前から、携帯端末を使って昨夜のペインティングの続きを行なっていた。
朝食時、咳き込むことが多く、食事も半分以下しか摂らなかったが、ペインティングは続けていた。体温は37.3度。
朝食後の服薬も、むせながら苦しげに飲んでいた。
それでも、携帯端末を使ってのペインティングを続ける。真剣な表情で一言も発する事なく作業を2時間も続けている。
だが、点滴予定時刻を20分後に控えた現在、レイはようやく端末から疲れた様子で顔を上げて私を見た。
私を見てすぐ、レイの顔色が赤くなった。心拍数も急激に上昇した。レイは慌てた様子で先程まで掴んで離さなかった携帯端末を毛布の中に突っ込み、そしてレイ自身も毛布を被って横になった。両耳にイヤホンを差し込み、私に背中を向ける形をとる。
極めて短時間での急激な心拍数の増加。ナースステーションに報告すべき案件だ。だが情報の正確性を高めるために、複数のセンサーからの情報を入手するべきである。私は定位置から立ち上がって、ベッドに近づいた。イヤホンをつけて背中を向けているレイに判るよう警告するため、私は上体を半ばレイに覆い被さるような姿勢をとって警告を出した。最近は青白い事が多いレイの顔色は、今は赤い。
「急激な心拍数の上昇が確認されました。状況確認のため、検温ならびに心拍数の直接採取を行います」
「わ! 何! 顔近いよマリア! 心拍数? 大丈夫なんでもないから」
「急激な心拍数の上昇が確認されました。状況確認のため、検温ならびに心拍数の直接採取を行います」
「え! 警告2回目? ちょっと待って怒らないでマリア! お願い、今説明するから!」
「了解、データ採取を一時中断します。中断の理由を説明して下さい。なお警告は現在も有効です」
レイは上体を起こしてから、説明を始めた。だが、その説明は論理的に矛盾がある。
「レイからの説明を整理します。レイは、昨夜見た記憶を基にして、服を着ていない私をペインティングした。その時は心拍数は通常値だった。その後服を着ている私を見て心拍数が上昇した。これで間違いないですねレイ」
「……はい」
「なぜ通常の私の姿を見て心拍数が上昇するのですか? 理由を教えてください」
「それは……服を着てないのを想像しちゃって……」
「ペインティング時には心拍数が通常値でした。説明に矛盾があります」
「それはそうだけど……」
「今までの説明を総合すると、私がナース服の着用をやめて裸になるとレイの心拍数が通常値になる事になります。現象を確認するため、ナース服を脱いでみます」
私はナース服のマジックテープを外しはじめた。
「わー! やめてやめて大丈夫!」
ピッ! 設定されたアラーム音が鳴る。
「点滴予定時刻5分前です。点滴の準備を開始します」
私はベッド脇から移動し、点滴用具一式の準備を開始した。グローブボックスへの扉を開ける。
「助かったー」そう言ってレイがベッドに倒れこんだ。
胸元のマジックテープが外れているのにレイが気づいて慌てて留めたのは、隣室にドクターと看護師が到着する2分前だった。
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