第11話 股間にこぼしたお茶を拭きとる作戦!

 ナコトが漫画のワンシーンを想像し、ワタシと認識を共有してきました。

 これは……夜のオフィス!



 先輩OL

 「はい。お仕事お疲れ様。お茶をどうぞ」


 主人公

 「あ、先輩、ありがとうございます」

 (うわ。胸、おっきい……。それに先輩の髪、凄くいい匂いがする)


 先輩OL

 「きゃっ」


 主人公

 「うわっ、熱っ」


 先輩OL

 「……ごめんなさい。

  あっ、大変!

  早く拭かないと!」


 主人公

 「あっ、大丈夫ですよ! 自分で拭きますから!」


 先輩OL

 「いいから大人しくしていて。

  ほら。動かないで、じっとして……。

  あっ」


 主人公

 「ち、違うんです、これは」


 先輩OL

 「もう、こんなんじゃ仕事にならないでしょ。

  ……仕方ないなあ。

 お姉さんが、してあげる」



『なぜこれで好感度が上がるか分かりませんが、

 前の尻尾にお茶をかけて、ズボンを脱がせればいいのですね!』


『そ、そうだ……うくっ……』


『ん、何か笑ってません?』


『気のせいだ。行け、ヴァル!

 光輝に考える時間を与えるな。常に先手を取って、主導権を掌握するんだ!

 相手に思考の余裕を与えるな。瞬間の判断を強いるんだ!』


『了解!』


『頑張れよー。

 オレは寝るから、後はひとりでな。

 ふっ……くくっ……』


『はい。成功の報告を待っていてください!』


 ケイちゃんが中央食堂に潜入。

 こっちの食堂は司令部棟勤務の人が使用するので、

 光輝が朝食を取っている寮生活者用の食堂よりも大きいです。

 利用者が軍服を着た人ばかりなだけで、一般的な大衆食堂と同じような内装です。


 監視カメラが無いので、入手可能な映像はケイちゃんのカメラ目線のみです。

 地上から1メートルの視界は情報がかなり限られています。


 料理がカウンターに置いてあり、利用者が好きな量を盛っていく形式のようですね。

 よく見えないけど、金曜日だからカレーかな。

 料理は隣接したキッチンで用意しているのでしょう。


『並べ並べ、餌が欲しけりゃ並べ豚ども!』


 並んでいる軍人がちらちらとケイちゃんを見てきますが、無視して追い越します。

 料理を取り終えた人が向かう先に、狙いどおり、有りました、給湯器。


 熱々のお茶をゲット。

 あとは光輝を見つけて、ぶっかけて脱がして尻尾を弄るだけです。


 テーブルが何十個もあるし混雑していますが、なんとかなるでしょう。

 基地内の軍人は職務ごとに服装の色が決まっています。

 兵器の整備をする人のジャケットは黄色で、武器を管理する人は赤色。

 人事部や情報部などのデスクワークをする職員は普通の地味な軍服といった具合です。


 んで、学生さんの目印である白いセーラー服を着るのは、日本支部には30名前後。


『目標発見。計画に変更なし。次の行動に移る』


 隅っこの方から探したので、光輝はすぐに見つかりました。

 テレビから最も離れた、人の少ない所です。

 周りにはちらほらと人が座っています。


『窓際は駄目ですよ。

 基地内なら安全とはいえ、自動車爆弾に狙われやすいのです』


 そばに近づくと光輝がケイちゃんに気付いたようです。

 何故かビクッとしました。何故でしょう。


 まあ、いいや。都合のいいことに小娘が居ないのです。


「お前、まさか朝の……!

 いや、気のせいだよな。

 食堂がお手伝いロボでも導入したのか?」


『熱々のお茶です。たっぷりと味わってください!』


 恋愛指南書どおり、股間目がけてお茶をぶっかけました。


「うッ! あっ、あーっ、あーっ!」


 予想以上にダメージがでかかったのでしょうか。

 光輝が椅子から転げ落ち、股間をはたきながら転がっています。

 ……もしかしてやりすぎたです?


『いえ。反省は後です。

 プランどおりに作戦を遂行するのが第一です。

 ズボンを脱がすです!』


 ケイちゃんアームががっしりとベルトを掴みます。


「や、やめっ!」


 んっ?

 動体センサーが反応。

 何かが接近中。


『あっ。離せ! 離すです!』


 いきなり横合いからごつい人影が3つ飛びかかってきました。


 黒いコンバットジャケットを着たゴリラのような男2、女1。


『3人ともサングラスで顔を隠して、如何にもな風貌。

 この格好は荒事に特化した特殊部隊ですね!

 こしゃくな、です!

 ケイちゃんに、たかが3人で勝てると思うなです!』


 ケイちゃんが搭載しているのは、

 燃費よりもタフさとパワーを優先したディーゼルエンジン!

 家庭用モデルの電気モーターとはパワーが違うのですよ!


 軍用警備ロボ舐めんな!


『あれ。あれれ?』


 意気込んでみてはものの、ありえないことに、形勢は不利なのです。

 車両並みのパワーがあるケイちゃんが3人組に押し負けつつあります。


 ゴリラ達はケイちゃんの体を斜め上に押し上げるように低い位置から肩で押してきます。


 特に真ん中の、額にバッテン傷の大男が強い!

 気を抜いたら押し倒されてしまうかも知れません。

 ぐぬぬ……。

 負けられない戦いがここにある!


 と言いたいところですが、ワタシの目的は光輝。

 ゴリラ達との勝負は後回し。


 ケイちゃんのアームは最大伸張3メートルです。

 ゴリラ達の隙間からズボンを狙うです。


 にゅっと伸びるアーム、行け!


『なんとか、ズボンだけでも……!

 光輝、抵抗はやめるのです!

 早くズボン! 取れた! 撤退です!』


 左右の履帯を逆に回転させ、超信地旋回。

 その場で高速回転することにより、巨漢達を吹っ飛ばしました。


 いえ、違います。

 ゴリラたちは自ら飛び退くことによって、ケイちゃんの攻撃をいなしたのです。

 しかもテーブルに激突しない方向へ跳んでいます!


 ケイちゃんとの戦いの中でも周囲を観察する余裕があっただと?!


 3匹のゴリラは受け身を取って立ち上がり、即座に腰を低く身構えました。


 何者だ、こいつら……!


『くっ……。

 悔しいけど、後方に向かって前進!』


 出口に向かって全力疾走。

 食堂のリノリウム床に履帯ががっちりと食い込むので、安定した速度を出せました。


『バーカ! バーカ!

 これで勝ったと思わないことですよ!

 お前たちなんかヴァル・ラゴウだったら、一瞬でぺちゃんこですよ!』


 よし。ゴリラは追いかけてきません。


『次に会ったら名前を特定して給料下げてやるヴァル!』


 手強い相手でした。

 素早いだけの小娘と違って、動きの一つ一つに無駄がなく、つけいる隙がなかったのです。


 認めたくはないけれど、あの場にとどまっていたら、やられていたかもしれないのです。


 ……む。

 背後からゴリラ達と光輝の声が聞こえてきます。


 集音マイク感度アップ!


「大丈夫か坊主」


「あ、ありがとうございます」


「見せろ。火傷をしているかもしれない」


「あ、ありがとうござ……。

 ちょっと待ってください。大丈夫です」


「何を恥ずかしがる。さあ脱ぐんだ。拭いてやる」


「え、ちょっと、ズボンは既に脱がされているんですけど。

 これ以上、何を脱げって言うんですか。

 え、あ、ちょっと、ちょっと!

 大丈夫です! 自分で拭きます!」


「馬鹿野郎!

 火傷を甘く見るな!

 さあ、見せるんだ!」


「大丈夫です! 大丈夫です! 大丈夫です!」


 光輝の声を遠くに聞きつつ、ケイちゃんは食堂を後にしました。


 ちょっと安心しました。

 さっきのブリーフィングルームで大人しかったのは周りが左官や将官ばかりだったからですね。

 ゴリラマッチョ軍人相手に、大きい声で自分の意思を伝えられるなんて、

 並大抵ではない度胸ですよ!

 光輝は内弁慶なんかじゃないのです!


 オペレーション・ランチ完了!

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