第22話 ゴリラのケツ穴がひとつ増える

 敵部隊と遭遇。

 戦車数両分の戦力に匹敵する難敵、パワードスーツが居ます!


 歩兵の火器で勝てる相手ではないので、

 路上に駐車してあった4WDの制御プログラムに侵入して、

 敵パワードスーツに突っ込ませました。


 政情不安定な国の大使館で活躍した実績はお見事!

 無人の4WDは弾丸をたっぷり浴びて蜂の巣になりながらも、体当たりし、

 パワードスーツを大破させました。


 さあ、残る歩兵を掃討です!


『スパコーイノーイ、ノーチィ!』


 路面に倒れていた意識のある敵を片っ端から電流攻撃。

 ワタシの活躍を目の当たりにし、ゴリラ達から称賛の声。


「おい、うちの警備ロボにはセガールかスタローンが入っているようだぞ?」


 アナトリーが、意識を失った兵士の両手足をダクトテープでグルグル巻きにしていきます。


 アメリカ人のダクトテープ好きが、ロシア軍人にも感染しているようですね……。


 ゴリラ二号のガニーが、倒した敵の装備を漁っています。


「ハリウッド映画なんて見ているから、大尉の作戦は無茶なのばかりなんだ。

 ……ちっ。使えない玩具かよ」


 ガニーが敵から回収したのは、

 100メートルくらい飛んでから爆発するプロペラつきの手榴弾です。


 手で投擲するよりかは射程が長いけど、

 融通が利かないということで前線の兵士からは不評なのです。


 離れた位置でパワードスーツの残骸を物色していたメスゴリラのヤナが、

 ガニーに視線を向けました。


「ガニー。後で見せな。

 そいつのプロペラは外せるんだ。

 少しコツがいるけどね。

 ……大尉、手持ちの端末だけではスーツの認証解除は無理です」


 ヤナはパワードスーツを奪おうとしたようですが、

 生体認証を解除できずに断念したようです。


 代わりに、パワードスーツから携行式の対戦車ロケットを外しています。


「珍しいなヤナ。

 お前なら地球製の武器ならなんでも奪えると思っていたぜ」


「大尉。ここはAAAFの基地です。

 セキュリティ認証を回避するために、新明兵の指を持っていくわけにはいきませんよね? 

 許可がいただけるなら実行しますが。

 幸い、食堂に戻れば氷も手に入りますし。

 切り取った指を冷やしながら使えば、30分くらいは認証を欺瞞出来ます」


「ふっ。笑えない冗談だ」


 アナトリーがサングラスを指でトントンと叩いています。

 彼らがつけているサングラスは、映像出力や翻訳の他に、録画機能もあります。


『録画してなかったら非人道的なことでもやっちまうような、物騒なこと言ってますね』


 AAAFは対エリダヌス連合なので、

 地球人の軍隊に対する攻撃は交戦規定で厳しく制限されているのです。


 特にETAWみたいに強力な武器を使う部隊の規制は強く、常に行動は記録されています。

 なので、指紋認証をパスするためとはいえ、

 敵兵士の指を切り取って使うようなことはできないのです。


 現在ワタシは基地の北東部にある補給廠に向かっている最中です。


 ゴリラ達が受け取る予定だった、先進装備をゲットするつもりです。


 強化外骨格式のパワードスーツを装着すれば、ゴリラ達三人で、

 清明連邦軍の大隊とも戦えるはずです。


 仲間を連れて、強い武器を入手するために戦う気分はロールプレイングゲームですが、

 メンバーは、ゴリラ! ゴリラ ! ゴリラ!


 スラングルー!


 まったく、もう、どういう大作戦ですか!


 我々は途中で10人の待ち伏せに遭遇しましたが、

 ごらんのとおり、返り討ちにしてやったのです。


 敵の電子支援を無効化してしまえば、装備や人数のハンデなどなくせるです。


 まだ偵察用の小型UAVが1機飛んでいたので、石を投げつけて撃墜してやりました。


『ふっふっふっ。

 1世紀前に戻った気分は、どうですかー?』


 ワタシは清明連邦の軍事衛星に介入し、

 敵部隊の配置情報を盗み見て、敵指揮官の無線を傍受しています。


 GPSへの妨害は、コンピューター制御による射撃アシストにも影響を与え、

 敵の有効射程を半減させます。


 敵のバイザーには、嘘の着弾予想点や友軍の位置をデタラメに表示して嫌がらせ。


 パワードスーツのステルス機能も無意味。

 いくら光学迷彩で周囲の景色に溶け込んでいても、

 ケイちゃんのカメラ画像と基地内の防犯カメラをリアルタイムで比較分析しているワタシには丸見えなのです。


 ワタシが見た映像はゴリラ達のサングラスにも投影しているので、スキなしですよ。


『さあ、行くのです!』


 四角くごつい軍用車両ハンヴィーを無断で拝借して、格納庫目指して爆走開始。


 ケイちゃんは後部のバンパーに掴まっています。


 履帯がキュルキュル回転して煙を上げています。


『うひーっ。

 上質な油を手配しておくから、我慢です、ケイちゃん』


 曲がる度に体が横滑りして、路面から火の粉がブワッと巻き上がります。


『全てが終わったら、光輝にオイルを塗り塗りしてもらうですよ』


 ベポーン!!!


 おおうっ、通常の3倍くらい目が輝いています。

 ケイちゃんも気合いたっぷりです。


 滑走路に併走する道路に入ると、キラキラッと周囲が明るくなりました。

 滑走路の脇にずらっと並んだ、太陽光発電パネルの反射光です。


 左前方に見える300メートル級の艦が第201艦隊旗艦の飛行空母AKAGI。

 先日、ヴァル・ラゴウをぶら下げて太平洋を渡ってくれた艦です。

 隣が同型二番艦のKAGA。


 この道をまっすぐ進めば補給廠です。


 ふっふっふっ。防犯カメラが無い道路を走っていても心配無用。


 秘密の手段がアレでコレで、アメリカの軍事衛星フェアリーアイに侵入中です。

 特殊な電磁波を使用した装置で、周辺の建物を透視。

 モノクロ線画の見取り図に、灰色の人影が浮き上がります。


 もし敵兵士がいれば、銃器が白色でくっきりと映るので特定できます。


『建物の内外に拘わらず、ヴァルは何もかもお見通しなのですよ!

 エリダヌス製のテクノロジー使い放題なのです!

 ヴァルはヴァル・ラゴウを動かしていなくても地球最強なのです!

 ヴァルルルルッ!』


 というのが、5分前。


 で、今が。滑走路利用者用の駐車場。


 敵のパワードスーツ8、歩兵70前後?


 我々の周辺では、敵の放ったライフル弾がアスファルトを削って火花を散らしています。

 ワタシ達が隠れている防弾仕様の軍用車は、ベッコベコの鉄くず状態。

 身動き取れません。


 大ピンチ。


『あれれーなのです?』


 もし駐車場に停まっているのがエコな電気自動車ばかりだったら、

 ワタシ達はとっくに全滅です。


 ガソリン車が炎上し、巻き上がった黒い煙が敵の視界を奪ってれているから、

 ワタシ達は生き延びています。


 というか装備にハンデがあるのに、

 10倍以上の敵に待ち伏せされてなお持ちこたえているゴリラ達、半端ないですね。


 身を丸めて小さくなったアナトリーが、煙に咳き込みながら叫びます。


「くそっ。対戦車ロケットは使い切った。

 パワードスーツを抑えきれない。突破は難しい」


 ゴリラ達が車両の陰から手だけ出して1発牽制射撃すると、

 歩兵が200発くらい撃ち返してきます。


 敵はじっくり狙う必要もなく、

 適当に撃ちまくってワタシ達を釘付けにすればいいだけなのです。


 敵がロケット弾とか手榴弾とかの爆発物を使おうとする度に、

 ワタシが自動操縦の車を突っ込ませてましたが、そろそろ、車切れ。


 駐車場にはまだ車両があるけど、古い型なので遠隔操作できないのです。


 不味いです。

 数と装備の質に差がありすぎるのです。


 どうして、こうなった、なのです。


 さっきからワタシの妨害も通用していないようなのです。


「ガニー!

 左側面、歩兵、多数!

 迂回を試みている!」


「了解!

 先頭の2、3人を仕留めて、連中の足を止める」


 ワタシ達の他にも何台か囮の車両を走らせたのに、なんで、ヴァル達が見つかったですかね。

 全部の車両を迎撃できるほど、敵兵がわんさかいるのでしょうか。


 ヴァルは衛星からの映像を見て、敵の配置を知っていたから避けていたんですよ?

 なのに、なんで敵に見つかって囲まれちゃうです?


 あっ。光った。ライフルのスコープだ。

 敵の狙撃兵が狙っています!


『ほあたーっ!』


 ケイちゃんのアームが高速でしなり、武道の達人さながらにライフル弾を叩き落としました。


「ぐあっっ」


 ああっ、ヤナが被弾したです。

 ライフル弾の衝撃は、ヤナの体を車の陰から弾き出しました。


 ワタシが防いだ攻撃は囮で、どこか別の場所からも同時に狙撃していたようです。


 マジです?

 なんかこれ、ワタシの動き、読まれてません?


「ヤナ!」


 ガニーが腰を低くして車の陰から飛び出しました。


『あっ。馬鹿。敵の狙いどおりじゃないですか!』


 ガニーも弾丸を食らい、膝を突きました。


 しょうがないのでケイちゃんがふたりの前に立って盾になります。


 とはいえ、ケイちゃんの小さい体では全部を防げるわけでもないので、

 2発目、3発目の着弾でガニーの体が揺れます。


 狙撃手発見、右前方階段の横にある木の上!


「ガニー急げ!」


 位置情報を送ると、即座にアナトリーが狙撃手に対して制圧射撃。


「くそっ。ケツの穴が増えやがった!

 あの野郎、ケツにぶち込んでやる!」


 ライフル弾が周囲に着弾するのも構わず、ガニーがヤナの体を引きずり始めました。


「ヤナ、しっかりしろよ。第1班の貴重なおっぱい、見捨てたりはしないぞ!」


『もう。ケイちゃんべっこべこですよ!

 お前たちの着ているコンバットスーツは、衝撃を逃がす機能があるから、

 ケイちゃんより硬いはずなんですけど!』


 チタンボディを盾にしつつ、ガニーに手を貸してヤナを車の陰に引きずりこみました。


 ヤナは気を失っているのか、うめき声ひとつあげません。

 口の端から一筋、血が流れているので、肺でもやられちゃったのかもしれませんね。


 ケイちゃんが背中を開くと、意を察したアナトリーが医療具を取りだし、

 ヤナの腕や太股に止血スプレーを噴霧。


 ヤナの瞼がピクリ。

 指先もピクリ。

 ゆっくりと口が開きます。


「……大尉。ガニー。大丈夫です……。

 倒れたときに頭を打って少し目がくらんだだけ……です。

 まだ戦えます」


 お。意識あった。

 多少顔色が悪いようですけどヤナは大丈夫そうです。

 水分補給用のドリンクあげるから、飲んでおくです。


「よし、ヤナ。まだまだ仕事はあるからな。

 昼寝は後回しだ。ガニー、まだやれるな」


「当然。ケツの穴が1つ増えたくらい、なんともない」


『もう1個、増やしとけ!』


 ガニーが裂けたズボンの隙間から痛み止めの注射を打っておきました。


「痛えっ! 俺のケツ! 警備ロボの太いのを刺されたぞ!」


 ガニーは喜んでくれました。

 大ピンチなのに士気がまったく衰えないなんて、ゴリラ達は凄いですね。

 光輝だったらとっくに「新条隊長、どうすればいいんですか」って情けない声を出していますよ。


 劣勢でも士気は旺盛。とはいえ……。


『むむむるぅ。敵はまだ70前後。

 戦術で覆せる戦力差ではありません』


 既に勝敗は決しました。

 どれだけシミュレートしても逆転は起こりえません。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る