第23話 見よ! 我が無双の軍団を!

 敵が銃撃を中止して、我々の様子を窺っています。

 反撃能力が無いのがバレバレですね。


『ううん。

 ヴァルは敵の情報を知り得ていたはずなのに、どうして待ち伏せに気付かなかったです? 

 歩兵ならまだしも、パワードスーツを見落とすなんて有り得ないのです』


 パワードスーツが4機、ワタシたちに照準を合わせたまま近づいてきます。


 完全に包囲完了。

 ワタシのシミュレートどおり、結果は覆らなかったのです。


『ゴリラ共、よくやった。

 お前たちのおかげでここまでやれた。少し休め!』


 離れた位置で、ぐあっ、あうっ、と苦悶の声。

 清明兵がバタバタと倒れていきます。

 物陰から姿を現し倒れる者や、木の枝から転げ落ちてくる者がいます。


 あちこちから発砲音が聞こえては途絶え、呻き声が増えていきます。


 パワードスーツが異変に気付いて周囲を警戒します。


「いったい何が起きて……。な、なんだ、レーダーに反応!

 ば、馬鹿な、なぜここに居る。聞いていないぞ」


 パワードスーツの中の人が中国語で喋っているのに語尾にアルがないアル。


「おい。攻撃がやんだぞ。何が起きている?」


 アナトリーも混乱しているようですね。

 サングラスの下で目をきょろきょろさせてます。


 キュラ……。


 発砲が収まったからこそ、車両の炎上する音に紛れて聞こえる、音。


 キュラキュラ……。


「ぶ、部隊が次々とやられていく! なんだ、このロボットの集団は!

 ただの歩哨機械が、どうして戦術行動ができるんだ!」


『だから、アルと言えアル!』


 ベポーン……。


 黒い煙の中に浮かび上がる赤い光。

 炎の照り返しが形作る、ドラム缶のような輪郭。


「セガールのバーゲンセールだ」


 ゴリラ達の顔に、笑みがこぼれました。


『どうですか!

 これが、ワタシのロボット軍団なのです!』


 滑走路から強い風が流れ込み、駐車場周辺の煙を消し飛ばしました。


 ベポーン! × 85。


 姿を現したのはケイちゃんと同型の警備ロボや、ヴァル・ラゴウの整備アシストロボなど、実に85体!


『全軍突撃なのですよー!』


 ベポーン! × 85。


 ケイちゃんを祖とするなら、エレベーター作戦に参加した5機がワタシの意志と直接繋がった第1世代。


 清明連邦兵士が出現したときにワタシは、

 第1世代達に指示を出して、第2世代のロボット軍団を産みだしていたのです。


 吸血鬼が噛んだ相手を仲間にするのと同じようにして、

 今や、基地内のロボは全てケイちゃんを真祖とする、一族となったのです。


 ロボット軍団が次々に、駐車場内の敵を駆逐していきます。


『切り札を用意しておいて良かったのです。

 認めたくはないのですが、敵にはワタシと同等の電子戦力があるのです』


 ワタシは、行動が見透かされていると想定した上で、

 ロボット軍団に、ネットワークを切断して自らの思考に従って行動せよと指示を出しておいたです。


 第1世代と第2世代は見事、正体不明な敵の目を欺いてくれたのです。


 バリスティックシールド装備のロボ軍団がガッチリとワタシ達の周囲を固めました。


 圧倒的な力!

 僅か30秒で、付近の清明連邦軍兵士は全滅です!


『さあ、反撃開始です!

 アルファ小隊はゴリラに協力し、補給廠で装備を取得しだい、光輝を救助。

 ブラボーは新条に合流して指示を仰げ!』


 各小隊が次々と動き始めます。

 アスファルトを削る履帯の音が幾重にも重なり合って、実に頼もしいです。


 キュイーンとベポーンの大合唱です。


『チャーリーは基地内を捜索。

 負傷者がいたら救助にあたってください。

 デルタはこの場に待機。駐車場を仮設の捕虜収容所とします。

 倒れている奴を拘束した後、見張っておいてください』


 ロボット軍団が履帯の音を雄々しく鳴らしながら、各地に散っていきます。


『ケイちゃん、ワタシは考え事をするので、制御を返します。

 あとはお願いしますよ!』


 ベポーン!


『頼もしい返事なのです!

 数日前まではただの警備ロボットだったのに、いつの間にか実に頼れる奴に成長したのです。

 ワタシの簡易版のような存在なので、これからも右腕としてこき使ってやるですよ!』


 さて、懸念材料が、2つ。


 1つ、清明連邦軍が何もない空間から出現した手段が不明。


 2つ、ワタシを欺く敵が存在する可能性。


 AAAFが出し抜かれただけなら良いのです。

 けど、もし、ワタシにすら想像できない能力を有した敵がいるのだとしたら、非常に厄介なことになるのです。

 エリダヌス軍が清明連邦に協力しているとも思えないし、敵はいったい何者です?


 丘上にこんなことができるんです?

 ETRを保有するアメリカやヨーロッパの支部が敵に回った?


 魔術っぽい攻撃は観測できませんが、異世界人が関わってる?


 うむむるぅ。

 悩んでいたら、ケイちゃんから呼び出しがありました。

 ゴリラ達と共に補給廠へ向かう途中で、何か気になるものを発見したようです。


『ん?』


 走っている車に誰かふたり、乗っています。

 後ろ姿が小さく見えるだけですけど、光輝と丘上?


 何処へ向かっているです?

 そっちには有るのは……ワタシの格納庫?


 ヴァル・ラゴウを強奪するつもり?

 でも、ワタシの意識はここにあるから、動きませんよ?

 何しに行くのです?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る