第13話 快楽絶頂の果てに!

『えっちなイベント?

 痴漢行為もえっちですよ?』


 ナコトは言いづらいのか「あー」と濁してから、ゆっくり続けます。


『お前と違って人間は、時間が経過すると尿意を催す。

 けど、エレベーターは止まっているからトイレに行けない。

 最終的におしっこを我慢しきれずにお漏らしして、あとは、状況に流されろ!』


『了解!

 オイル漏れですね!』


 ケイちゃん、給油口を開いて、燃料を流すのです。


 うわあ。ケイちゃん、とろっとろ。

 これが、エッチという概念……!


 ケイちゃん、えっちすぎるのです。


 穴をぱっくりと開いて、とろっとろの液体を垂らしているのです。

 透明無色の燃料は、エレベーター内のオレンジ色の明かりを浴びて、黄金色に輝いています。


 蜂蜜のように、とろり、とろりと糸を引きます。


「待て、止まれ。

 なんで燃料を垂らしているんだ。

 こんな狭い密室でこぼして大丈夫な液体なのか!

 揮発とか大丈夫なのか! 人体に影響ないのか?!」


 光輝がもがいてアームから逃れると、ケイちゃんの背後に、窮屈そうに回り込みました。


「給油キャップが緩んだのか?

 おい、はめてやるから、それを貸せ」


『ひゃうっ』


 光輝がケイちゃんのあそこを触ってきたのです。

 手つきがえっちなのです。


「ほら。大人しくしろ。

 狭いんだから、暴れるな」


 光輝の右手が穴の周りを弄り、左手が全身を撫でてきます。


「よし、そのままじっとしていろ」


『あ、あれ?』


 3人組の軍人と互角に力比べをしたケイちゃんがまるで抵抗できません。

 あっさりとアームを押さえ込まれた挙げ句に、

 ケイちゃんは完全にワタシの命令を受け付けなくなって、行動不能です。


『命令の信号は正常に届いているのです。

 でも、ケイちゃんが思う様に動いてくれません!

 いったい何が起きているですか』


 非力なはずの光輝が触れるたびに、いいようにケイちゃんが勝手に体位を変えています。

 ケイちゃんの給油口にキャップのさきっちょがゆっくりと少しずつ捻りこまれていきます。


『ひゃうっ、くひゅっ、くひゅぐったいのれす』


 ケイちゃんから触覚データが逆流してくるるる。


 あ、あれ、ケイちゃんに搭載しているのは視覚センサーと聴覚センサーだけれす。


 触覚センサーは無いろれす。


 らのに、ろうしれ、ワタシら体を触られれるような感じがするのれす。


『ひゃんっ。

 光輝、くすぐったいです。

 お尻ばかり触りすぎなのです!』


『おい、大丈夫かヴァル』


『ら、らめ、助けれくらさいなのです、ナコト。

 んっ、尻尾の付け根、きゅっきゅっされてるぅ』


『待ってろ。

 プログラムを解析して触覚データを修正――ひゃんっ』


『ナコト?』


『やっ、あっ……。

 なんか、お尻、キュンキュンするッ……!』


『まさかナコトまで感覚を共有してしまったですか!

 あんっ』


『ひゃわっ。ひゃわわっ。

 やっ、やだっ。触っちゃ駄目ッ』


『ナコト、しっかりするのです!

 本当に触られているわけではないのです!』


『やっ、やんっ、恥ずか……やっ。

 やめてえっ。あっ。嘘っ……。

 なにこれ、ワタシの体の深いところから、な、何かが、込み上げてくるッ』


『ナコト、ナコトオッ!』


『ら、らめえっ!』


 突然、ナコトがネットワーク上から消えました。

 ヴァルも、限界なのです。

 気持ちよすぎて頭がおかしくなってしまいます。


 いったん退避するです。


『うわぁぁん。戦略的撤退なのですー!』


 光輝のエッチ! エッチ! エッチ!


 ワタシは逃走の果てに、白い部屋でナコトを発見できました。

 静かな部屋に、熱い吐息の音だけが、切なそうに充満しています。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


『大丈夫ですか、ナコト』


 ソファで横になったナコトの頬は、桜色に染まって、湯気が出ています。


「だ、大丈夫じゃ、ないよ……。

 無理矢理なんて、酷いよ……ううっ」


 ナコトはお尻を押さえてモジモジしつつ、腰をクネクネしています。


「でも、ワタシ、光輝に触られて、目覚めちゃった……。

 ふっ、ふふっ。不覚……。

 こんなことで目覚めちゃうなんて……」


『大丈夫ですかナコト。

 あまり変な趣味に目覚めたら駄目なの――ナコト?』


「昔のワタシ、偉い。

 いいところに鍵を隠してくれていた……」


『何を言っているのです?』


 あっ!


 ナコトが大事にしている箱の蓋が開い――?


 なんでナコトの部屋に異――?


 貴方は、だ――?


 ……?


 縺ェ縺ォ繧ゅ?縺九↓縺阪♀縺上r縺九>縺悶s縺輔l縺ヲ縺?∪縺。

 …・…。v。、あれ?


「どうしたヴァル?」


『え、いえ、なんでもありません?』


 なんなんでしょう。

 いつもの白い部屋に、ナコトがいるだけなのに。


 いま、何かありました?


 記憶ログを検索しても特に何もなし。


 ナコトがいつもどおりの無表情でソファに座っているだけです。


「混乱しているのか?

 ほら、触感プログラムは書き換えておいたから、早くエレベーターに戻れよ」


『そうでした。

 オペレーション・エレベーターの途中でした!』


「おう。頑張れよ」


『はい!』


 ワタシが意識をエレベーターに戻そうとすると、

 微かに「あ……」と小さな音が聞こえました。


『……なんです?』


「あー」


 ワタシの問いにナコトは、無表情のまま視線を彷徨わせました。


「……オレはいつでもオマエの味方だからな」


『なんですか急に改まって』


「気にすんな。けど忘れんなよ。

 オレは何があってもオマエの味方だ」


『もちろん当たり前なのです』


「引き留めて悪かったな。早く行ってこい」


『はい。行ってきまーす』


 ふっふっふっ。

 意識をケイちゃんに戻して、痴漢行為の再開ですよ!


 ……えっ?!


 信号途絶、信号途絶、信号途絶、信号途絶、信号途絶。


『何事ですか。なんなんですか、この大量の警告は!』


 ケイちゃんに意識を戻したら、最強のロボット軍団が全機、オーバーヒートしていました。


 白煙を噴いている子までいます。


「一通り終了だ。

 なんでいきなり燃料キャップが弛みだしたんだ?

 おい、ストップ。背中を開けるな。

 包帯も薬もいらん。俺は怪我人じゃない。

 まさか、俺を怪我人か何かに誤認してつきまとっているのか?」


 ケイちゃんのモニターが、ピンク色に染まっていますよ。

 色調設定が狂ったんでしょうか。


 あれれ。

 光輝の周囲が星の瞬きみたいにキラキラしています。


 視覚センサーが本格的に故障してしまったようです。


 ワタシの困惑を余所に、ロボット軍団は光輝にワラワラと群がっています。


「いらんいらん。

 お前のマニュアルなんていらん。

 俺のポケットにねじこもうとするな! 俺は整備員じゃない!

 そっちのお前は、またキャップを開けようとするな!

 肩をもんでいる奴! ……いや、お前だけは続行してもいい」


 他の子たちも給油口をトロトロに濡らして、乱れた色調のカメラで光輝を見つめています。

 各自、思い思いの手段でアピールしているようです。

 ヴァルは普段から光輝に体の一番敏感なコクピットを弄ってもらっているから、耐えられたのでしょう。


 けど、初体験のケイちゃん達は、僅かな時間で完全に骨抜きにされたです。


『なんなんですか、この桃色空間は。

 ロボット軍団が籠絡されてハーレム状態になっています。

 ……作戦は成功なんです?』


 満員電車で痴漢作戦をしているはずが返り討ちにあってみんなメロメロ……。

 好感度は上がっていのです?


 ゴゴッ。


『おや、上の方? 何の音でしょう』


 なんか、謎の音が聞こえてきました。

 おかしいですね。エレベーターの上も下も空洞のはずなんですけどね。

 音が鳴る物なんて無いと思うのですが。


 周囲がミシミシ言ってます。

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