第30話 やメテオ
基地の守護神として、
ワタシが滑走路上にデデーンと仁王立ちして周囲を警戒していると、
新たな警報が発生しました。
「今度はなんだ?」
『100を超える熱源が上空に出現しました』
同時にナコトの音声メッセージがどこかから送られてきました。
『オレからのプレゼントは、気に入ってくれているか?』
メッセージの送信経路を逆探知してナコトの位置を特定しようにも、欺瞞されています。
『ちょっとナコト、いい加減やめるですよ!
さっきからワタシが苦手な攻撃ばかりして! 怒りますよ!』
ヴァルは拳で解決する系のロボットなのです。
さっきみたいに、国際法とか交戦規程とか、ルールで縛られたくはないのです。
ぶん殴って破壊する!
それがワタシのファイトスタイルなのです!
『安心しろ。
兵士にミサイルに空母、さすがにオレも転移魔術の使いすぎてそろそろ限界だ。
これが最後の攻撃だ。
対軍魔術とでも言おうか。
降り注ぐ隕石、凌いでみせろよ』
これで最後の攻撃ならなんとかなると、ほっとしたのも束の間。
してやられました。
熱源は空中で炸裂し、1つ1つが、300以上に分裂しました。
『あうあうあう。数が多すぎです。
我々の迎撃能力を超えます』
小型隕石の総数約3万。
空母の近接防御火器や緊急発進した戦闘機で迎撃が可能な目標も、同じく約3万。
数値だけ見ると、ギリギリ迎撃可能なようにも思えますが、実際は無理。
迎撃可能な概算数は、巡航ミサイルや航空機などの大きな目標に対してです。
小型の目標に対しては、迎撃可能数は減りますし、
遠距離から発射されたミサイルといきなり現れた隕石とでは、
迎撃難易度が段違いなのです。
AKAGIによる再計算の結果、我々が迎撃可能な数は1万以下。
分裂した隕石は、
基地西端の海岸沿いにある原子力発電所と基地中央の司令部棟に集中しています。
地上や海上の至る所から火線が伸び、上空に爆炎を広げていきます。
一瞬でライブ会場のレーザービームよりド派手な光景が周囲に広がりました。
ミンスタ映えしそう!
けど、目撃している民間人がいたら撮影よりも避難を優先してくださいね!
防空火器が隕石群を減らしていきますが、やはり大多数が残りそうです。
「ヴァル、原子炉にバリアを!」
光輝の指示に従い、原子炉を中心に重力のバリアを展開。
AKAGIの戦闘指揮システムにワタシが原子炉を防御する旨を伝え、
対空火器は基地上空に専念するように依頼しました。
「ヴァル、体を盾にするぞ!」
『ヴァルルッ!
離れた位置へのバリアは制御が大変なのです!
操縦お願いします!』
「了解! 荒っぽくするぞ!」
脳波シンクロによる操縦アシストを解除。
ワタシはバリアコントロールに集中し、体の操作は完全に光輝の操縦に任せました。
隕石が周囲に次々と直撃していきます。
轟音と共に舞い上がった瓦礫や土砂を、次の爆風がさらに押し上げ、
ワタシの腰あたりまで砂煙が伸びていきます。
隕石が当たる度に、ワタシの装甲がベコベコと凹んで小さな亀裂が走っていきます。
『痛い痛い、痛いなのです!』
痛みを感じているわけではないのですが、
ペチペチと体に命中するのが煩わしくて愚痴りたくなるのです。
「もう少し頑張れ!」
ワタシの表面装甲は自ら融けて再び固まることにより自動修復していくので、
大きな被害にはなりません。
とはいえ、関節部分やセンサー周辺など装甲の薄い部分は、
連続して直撃を食らうと、拙いです。
特にセンサー類は自己修復しないので、やられたらお終いです。
地獄の様に長く感じる、30秒にも満たない迎撃が終わりました。
認識能力を拡張している光輝の体感時間は10分を超えていたでしょう。
額に汗を浮かばせながら呼吸荒くモニターをチェックしています。
「しのぎきったぞ。被害状況は?」
『直撃約1000、至近弾多数。
損害軽微。操縦アシスト再開します』
尻尾をぶん回して周囲の煙を払いつつ、ダメージ状況を確認。
修復機能フル稼働。
ワタシの体内にいる修理ロボが、歪んだ内部構造の修復を開始しました。
基本的にワタシは「壊れない」ではなく、
壊れることを前提とした自己修復に頼っています。
攻撃力特化しすぎていて、防御力は低め。
故障した箇所の動作を他の機能でフォローするように、
AKAGIが遠隔操作でヴァル・ラゴウの機動プログラムを書き換えていきます。
現在のワタシは腕がないのでバランスを取りにくいのですが、
基本姿勢を猫背にすることによって対処するようです。
動きが獣っぽくなって、格好良くなりそうな予感。
「基地の被害状況は」
『詳細不明。至る所で火災が発生しています。空母も小破してます』
「つっ……」
突如、バイタルエラーが発生。
光輝の血圧と心拍が下がっていき、脳波のシンクロ率が低下。
『光輝!』
「ん、あ?」
直前とは打って変わって、急に呆けた返事。
血を失って光輝の意識が曖昧になっています。
光輝は自分の異変に気付いていません。
腹部がいつの間にか真っ赤に染まっています。
なんで? なんで?
コクピットには直撃弾はなかったはずなのに……。まさか。
『ナコトに刺された傷ですか!』
「あ、ああ?」
パイロットスーツさえ着ていれば、傷を一時的に塞いで出血を抑えることができたはずなのですが、
光輝は支給品のシャツを着ているだけ。
大失態です。
傷が鋭利で痛みを感じていなかったこと、
非常事態の連続で脳が興奮状態にあったこと、
精神神経系新薬の副作用があったこと、
コクピット内での負傷は過去に1度もなく油断していたこと、
様々な要因で本人もワタシも出血に気づけませんでした。
『治療を!』
ワタシの悲鳴と同時に、上空に500を超える熱源反応が出現。
直後、分裂し計測不能、恐らく15万。
さっきの5倍に及ぶ隕石が降ってきます。
『ナコト! さっきのが最後って言ったのに!』
「……くそっ!」
光輝の思考がワタシに、基地施設の防御に備えるよう指示。
『落下までに若干の余裕があります。先に治療を!』
「ああ……」
光輝は大量の出血で意識が朦朧としているらしく、
ふらふらとシートから身を乗りだし、
背後の棚から止血用のスプレーを取りだしました。
『エリクサー飲むです。エリクサー!』
スプレーの噴霧が終わったのでワタシはヘッドレストの裏側から、
光輝の口元へとチューブを出します。
経口式の増血剤は、飲めば内臓から血管へと浸透し、失った血の代わりになります。
出血による死亡率を大幅に下げます。
コクピット内で可能な限りの応急処置は行いました。
後は基地の医務室に行くしかありません。
ヴァル・ラゴウの中にも医務室はありますが、医者が乗っていません!
『あ、あれ? ヴァルの目が変になったですか?』
レーダーが不可解な数値を示しています。
上空に出現した隕石の高度は既に4000メートル。
前回よりも落下速度が速いのです。
だから、ワタシは治療の時間があると思ったのに!
「……やられた。
数が増えただけじゃない。速度も上がっている」
回復した光輝から、確かな思考が伝わってきました。
脳波シンクロも、ぎりぎり正常値です。
分裂し15万を超える小型隕石が炎の尾を引きながら降り注ぐ状況。
基地は前回の迎撃でフル稼働した直後なので、
弾薬の装填や砲身の冷却なども必要になり、迎撃能力は落ちます。
15万の目標を迎撃する術はありません。
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