自宅の場所を勝手に教えるな
沐浴を終えて一人ずつ吸血を行っていったが、風呂場で機嫌を損ねていたメリアだけ夜が明けても部屋に訪れず、四人全員に血を与えられないまま俺は邸宅を後にした。
肌にちくりと刺すような寒さの早朝に自転車で帰宅すると、自宅の門柵の前で見覚えのある金髪の美少年が佇んでいた。
「やあ」
金髪の美少年もといラムリーは、自転車で接近する俺に気が付くと軽く手を挙げた。
ラムリーの前で自転車を降りる。
「どうして俺の家知ってるんだ?」
「ハマダから聞いた」
おい、濱田。人の自宅の場所を勝手に教えるんじゃない。プライバシーの侵害だぞ、と心の中で濱田に説教した。
「顔色が悪いね」
「えっ?」
「ユウスケの顔色が悪い。何か悩みでもあるのかい?」
俺の顔をじっと見つめ、心配げな口調で訊いてくる。
たくさん血を吸われたから、とはとても言えない。
確か濱田には深夜バイト、として説明していたはずだ。
「困ってることがあるなら、僕が力になるよ?」
「ありがとう。でも、ただバイトで疲れてるだけなんだ」
俺は苦笑して答える。
心配してくれる人に嘘を吐くのは忍びないが、四人が世間の目を知られるのはマズいので、さすがに他言できない。
「おー、祐介にラムリーじゃねえか。ああ、さむっ」
前方から声が聞こえてきてそちらに向くと、ヨモギ色のパジャマに厚手のベストを羽織りサンダルをつっかけた濱田が、頭髪に寝癖をつけたまま立っていた。
多分、寝起きなのだろう。
「こんな朝から二人で何してるんだ?」
「バイトから帰ってきたら、家の前にラムリーがいたんだよ」
濱田。お前が家の場所を教えたせいだけどな。
「ハルイチ。ユウスケは無理そうだよ」
「そうみたいだな。とてもじゃないが着いてこられないな」
「何の話だよ?」
通じ合った様子で話す二人に、俺は仲間外れにされたくなくて尋ねた。
「今日、俺、バイト休みなのよ」
濱田が少し嬉しそうに言う。
「そしたらラムリーがどこか遊びに連れてって、と頼むわけよ。だからそれぞれの家で朝食食べた後、二人で出かけるんだよ」
「へえ、楽しそうだな」
「よく言うぜ。実質はガイド役なんだぞ」
「まあ、頑張れ」
体調の万全でない俺では、とてもガイド役なんて務められない。
誘われても辞退していただろう。
「ほんとはユウスケも一緒にと思ったけど、疲れてるみたいだから誘うのはヤメとく」
「まあ、祐介はゆっくり休めや。今日みたいに深夜バイトから帰ってくるお前の姿を、俺は二階の窓から見守っててやるから」
サムズアップして、安心しろとばかりに笑う。
男友達から見守られても、ときめきもドキドキもない。
「……ボクは観光をやめて家に帰るよ」
ラムリーが唐突に言った。
濱田が虚と衝かれた顔で首を傾げる。
「急にどうしたんだ、ラムリー。祐介のことは気にせず、観光していいんだぞ?」
「ユウスケに遠慮してるわけじゃないんだ。少し用事を思い出してね」
ラムリーは残念そうに答える。
用事なら仕方ないな、と濱田はラムリーの言葉を詮索一つせず受け入れた。
「それじゃユウスケ。また後々ね」
俺に何か含みがありそうな微笑でそう告げ、ラムリーは身を翻して行ってしまった。
「バイトを頑張るのはいいが、ふぁあ、怪我には気をつけろよ」
濱田は欠伸を挟んで労わるように言うと、自身の家の方へ戻っていく。
二人とも俺が帰ってくるのを待ってたんじゃないかと思うが、それだけ心配してくれているのだろう。ありがたい。
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