銃について話していた
日曜の朝、シェル以外の三人にも帰り際に銃のことを尋ねると、一様に怖いと答えた。その重い事実を胸に残したまま、俺は帰宅してリビングのソファに横になった。
いつだったか、母も銃のことを話していた気がする。
リビングのテレビで流れる夕方六時のニュース番組を聞きながら、炊き立てご飯を口に運んだ。
食卓の向かいの席に母がいる。
テレビでは、真面目そうなスーツを着た男性キャスターが、たいした益体のない出来事を報じている。
耳目を驚かすような報道でもなく、白米の食味に意識を傾けようとした時、母がおもむろにテレビへ視線を向けた。
「ねえ、祐介?」
「なんだ?」
箸を止めて、母の方へ目を上げる。
母は真摯な眼差しで口を開いた。
「銃ってすごく危ないものだと思うの」
「急にどうしたんだ?」
「ほら、テレビ」
手に持つ箸の先をリビングのテレビに向ける。
テレビ画面には、どこかのヨーロッパの賑やかな街並みが映されている。
キャスターが淡々とニュース原稿を読み上げている。
――昨夜の日本時間六時頃、イギリスのロンドン郊外で、旅行者を巻き込む発砲事件がありました。日本人の被害は今のところ確認されていません――。
物騒な事件だ。
それでも一般市民の生活に銃が潜んでいる国では、別にあり得ない事件じゃない。
「このニュース、昼も見たのよ」
母が説明するように言う。
ああ、それで唐突に銃の話を振ってきたわけか。
「銃って簡単に殺してしまうでしょ? 引き金だけで」
「まあ、そうだな」
今まで母の口から銃の話題なんて一度も出たことなかったのに、報道ひとつでやたら関心を示している。
母の中で、何か思うことがあるのだろうか?
「どうして人間は銃を作ったんだろうね?」
「どうしてって、誰かが必要としたからじゃないのか」
大概の世の中の発明品は、どこかの誰かが欲しいと思った所から端を発しているような気がする。そして発明品が兵器として転用される例も数多い。
銃だって多分、そうやって人を殺す道具になっていったのかもしれない。
「誰かが必要としたから、ね。発明したその人は、きっと憎んでいる人がいたのよ」
「どうなんだろうな。発明者本人に聞けばわかるかもな、どうせもういないだろうけど」
「誰であろうと、銃を作った人を私は憎むわ」
瞳に怒りを湛えて、力感の籠った口調で母は言い放った。
――――――。
――――。
――。
なんで母は身を入れて銃の事を話すのだろう。
母が四人の吸血鬼を養っていることを知らなかった当時の俺には、母の言葉に唯々諾々と頷くことができなかった。むしろ変な物でも食べたのかと疑ったかもしれない。
でも今思うと、母の言い分には共感する。
俺も銃を作った奴が憎い。
シェルだけじゃない。四人に連なる小さな幸せさえも奪い取ったのだ。
今でも彼女たちは人類の負の産物に怯え、建物一つの中で半世紀の間命を繋いできたと思うと、所詮十七年生きてきただけの俺には、彼女たちの銃への恐怖は計り得ないだろう。
だから当然、彼女たちの味わってきた気持ちを共有することはできない。それでも俺が四人のために出来ることは、何かあるのか?
そう考えを巡らしているうちに、波のように押し寄せてきた眠気に俺は身を任せた。
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