死んだ母が遺した土地に行ったら、美少女吸血鬼達と交流することになりました。
青キング(Aoking)
プロローグ
液晶時計の時間は、土曜日の二〇時を示している。
俺は自室のベッドに背をもたせながら、左手人差し指の二点の傷に濡れタオルを当て、四人目の少女が来るのを待っていた。
その時、コツコツと部屋のドアが外から叩かれる。
「そろそろ時間だから、入るわよ?」
聞き慣れた少女の伺うような声。
俺が入っていいと返事をすると、ドアを開けて一人の少女が入ってくる。
暗赤色の髪はシャギーの入ったショートカットで、襟辺りのゆったりとした白生地に謎の英語をプリントしたTシャツを着て、赤紫のフレアミニスカートからスラリとした脚が覗いている。
「今日もよろしく頼むわよ」
暗い赤髪の少女メリアは気軽い感じで微笑んだ。
今から成される行為については、俺の方も承知している。
メリアはなんの躊躇もなく俺の左隣に腰を降ろし、フローリングの床に脚を伸ばした。
「あれから四週間になるわよ。早いと思わない?」
今から四週間前、メリアを含む四人の命が絶たれていたかもしれない災厄の日。
思い出すだけでも胸糞悪い。
「あれ以来何事もないから、あたし達もなんとかこうやって平穏に過ごせてるのよね」
「でも、次いつ来るかわからないな」
敵が完全に手を引いたとは、俺には思えない。
メリアが俺を見て、ムッとなる。
「今はあの時の事は忘れて。祐介が暗い顔してると、あたしの気分まで下がるんだけど」
メリアの言う通りかもしれない。
行為する相手が陰気では、昂っている欲に水を差すことになる。
メリアが暗い空気を払う話題を探すように、俺の全身を眺めて、濡れタオルで押さえている俺の指先に眼を移す。
「なんだかんだ。前と変わらないことしてるわね、あの三人」
あの三人とは、メリアよりも先に俺と行為をした少女達の事だ。
そのため俺は本日、四人立て続けでの行為となる。
「それじゃ、メリアは変えるのか?」
「どうだろ? 祐介が違う方法がいいって言うなら、あたしも変えるけど」
俺に判断を委ねてくる。
違う方法が良いも何も、俺らのやっている行為にどんな種類があるのか、俺は把握していない。
「祐介はどうやって、ヤリたい?」
「お前の好きなようにしてくれ」
考えつかない俺は、決定権をメリアに返した。
ふーん、と無関心そうな声を出しながらも、メリアの瞳に若干の喜悦が宿った気がした。
「好きなようにねぇ。あたしが結構、激しいってこと知ってるのに」
「何回やってると思ってるんだ。いい加減に慣れた」
俺は平気を装う。
実際は、何度やっても行為の後辛いんだよな。
「それじゃ、始めよっか」
メリアは床に伸ばしていた脚を引き寄せて膝を抱えた。
そして悪戯っぽい上目遣いで顔を覗き込んでくる。
俺の背筋に緊張が走った。
メリアが俺の太腿を挟むように四つん這いになる。
「祐介……あたし、抑えられない」
メリアの目が髪色と同じく赤く光り、熱っぽく潤う。
ぐっと端正な顔が接近し、眼前が覆われた。
「ハァ、ハァ」
喘ぎのようなメリアの息遣いが頬に触れ、毎度のことで慣れてはいるが俺は目を瞑ってしまう。
言葉通りの一瞬の後、細く鋭い針にでも突き刺されたような痛みが、右首筋を襲った。
少しずつ力が抜けていく感覚を覚えながら、それに伴って突き刺されたような痛みは首筋に馴染んでいく。
痛覚に回されていた意識に余裕が出てくると、ほのかに香ってくるシャンプーの匂いに鼻腔をくすぐられる。
目を開けると、メリアの側頭が指三本入れる隙間もないほど近くにあった。
「メリア、まだか」
メリアは俺の首筋に二本の牙を突き立てていて、首筋の内側を流れる血を吸い上げていく。
やがてメリアの顔は、美酒でも飲んだように紅潮していった。
息継ぎのような吐息を漏らした後、首筋から牙がするりと抜かれる。
「ぷはあっ」
牙を抜いたメリアは大きく呼吸して、恍惚の笑みを口元に浮かべた。
俺の方は、血が吸い取られて脳に血液が届いていないのか、鉛玉のように頭が重くなっている。
これ以上の出血はさすがにマズいと、重々わかっている。
牙を刺された首筋の二点の傷を、左手の指先に当てていた濡れタオルで塞いだ。
メリアと出会ってから三か月経つが、未だに俺の身体は血を吸われることに慣れてくれない。
そもそも普通の男子なら、異性に自分の血を吸わせるだろうか。
否、いくら容姿が優れていてもさすがに引く。
ならばなぜ、思春期の男子ならほとんどが見惚れるであろう容姿を持つメリアが、俺の血を吸っているのか。
それは、彼女が血を吸いたいからだ。
そしてメリアだけでなく、先程俺と行為した三人も吸血を嗜好とする種族である。
つまりは、吸血鬼なのだ。
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