第7話 黒髪の美少女
ジリリリリ…………!!
けたたましい音が俺の睡眠を
そんな思いで目覚まし時計に左手を伸ばした。その瞬間、勢いよく吹き飛ばされた目覚まし時計が壁にぶつかって粉々になる。布団の中で唖然とする俺。
あぁ……そういえば、俺のギフトって『左手人差し指の先っちょらへんに触れたあらゆるものをはね返す』能力だっけか。結局昨日は飯食った後、すぐに風呂入って寝たから試してなかったんだよな。生まれて初めてギフトを使ったっていう感動で胸が高鳴る……なんて事はない。あるのは可哀想な目覚まし時計に対する罪悪感と、こんなしょうもない事に使ったとしても、今日一日はもうギフトを使うことができないという絶望感だけ。
これ、下手したら『目覚まし時計を壁に叩きつける』だけのギフトに成り下がっちまうぞ? 新しい目覚まし買ってきても同じ事を繰り返しそうだしな。はぁ……まじで朝からテンション下がるっつーの。
朝飯を食べる気にならず、ダラダラと支度をしてから校舎へ向かう。たくっ……やってらんねぇよな。目覚まし時計だって
「うぃーす!
下駄箱で靴を履き替えていたら、耳がキンキンするような声で話しかけられた。気が乗らないまま振り返ると、チャラ男こと
「おはよう……ってか、比嘉流星に目を付けられたかもしれない俺とは関わり合いにならないんじゃないのか?」
「あー、いやー、あのー……あれだ! まだそうと決まったわけじゃねぇし、颯がぼっちだったら可哀想だろ?」
なるほど。こいつ、昨日俺を見限った後、食堂でいろんな奴に声をかけてたみたいだけど、全部振られたな? まぁ、こんな軽そうなノリで話かけられたら誰だって距離を置くわ。
「というわけで、颯の
ビシッとポーズを決める御巫を華麗にスルーし、俺は教室へと向かう。
「お、おい! 無視すんじゃねぇよ! はずいだろうが!」
「お前にも羞恥心があったとは驚きだ」
慌てて俺後についてきた御巫に俺は冷たく言い放った。
「随分とまぁ、つれない態度をとるじゃないのよ。……颯ちゃんは俺と仲良くしといたほうがいいと思うぜ?」
「はぁ? なんでだよ?」
御巫に
「……他に仲良くしてくれそうな奴がいないからだよ」
「……なるほど。ちょっと納得したわ」
いやー、この学校を甘く見てたわ。まさか、自分のギフトを知らないってだけでここまで毛嫌いされるとは思わなんだ。全員が全員ってわけじゃないけど、クラスの半数以上は馬鹿にしたような目で俺を見てるからね。心折れそうになるわ。
げんなりしながら教室の中へと入っていく。そんな俺のもとに、誰かが小走りで近づいてきた。
「おはよう! 氷室君!」
まさに
「北原、おはよう」
マジで泣きそうになる。北原の優しさに触れただけでも、今日は学校に来た甲斐があるぜ。
「御巫君もおはよう!」
「おーう! 北原! 今日も元気いいな!」
なっ……!? こいつもこの天使と知り合いだと……!?
「御巫の事知ってるのか?」
「え? うん! 昨日夕ご飯を食べている時に話しかけてくれたんだ!」
「オーイェー! 俺は男女問わず声をかけてたからな! ……まぁ、まともに反応してくれたのは颯と北原くらいだったけど」
ミートボールで目を撃ちぬいた俺の反応がまともになるんだったら、他の連中はどれだけこいつに塩対応したんだ? なんか少しだけ可哀そうになってきた。
「あっ、そういえば氷室君のギフトは」
「優樹菜」
北原の言葉を遮るように凛とした声が教室に響き渡る。そっちに顔を向けた俺は思わずぽかんと口を開けてしまった。
腰まで伸びた艶のある黒髪ストレート。脚線美をくっきりと現している黒タイツ。僅かに目尻が吊り上がった目、外人のような高い鼻、ぶっくりと色気のある唇、それらすべてが完璧に配置された顔。まさに、美少女という言葉を体現しているような少女がそこにはいた。
え? どうしてそんなに容姿の説明を丁寧にしたのかって? そりゃおめぇ、それほどまでに整い切った顔を台無しにするほどのしかめっ面を浮かべてるんだぞ? 可愛い、というのは表情込みだってことを教えてやるために決まってるだろ。
「あ、
「昨日も言ったけど、変なのと絡むのは止めなさい」
黒髪美少女の厳しい視線が俺から室に移る。なるほど、昨日、こいつは北原と黒髪美少女が一緒に食べているところへ突撃したわけだ。勇者すぎるだろ。
「え……? 氷室君も御巫君も変な人じゃ」
「いいからこっちに来て!」
黒髪美少女が不機嫌な顔で北原の手を引っ張って俺達から離れていった。あぁ……貴重な俺の癒し成分が。せっかく北原とお話しできるチャンスだったって言うのに、なんなんだよあいつ。
「……うひょー。相変わらず切れ味抜群だね、
「夕暮?」
「ちっちっちっ……甘いぞ、颯君。高校デビューをするためにはしっかりとクラスの女子の名前を把握しておかなければ」
人差し指を左右に振りながら室がしたり顔を向けてくる。なんだろ、すげぇ腹立つ。
「夕暮凪。このクラスでもトップテンに入ること間違いなしの美少女だ」
「十人しかいないからトップテンに入るのは当たり前だろうが。具体的な順位を言えよ」
「こんなにも可愛い子が集まるこのクラスで、順位付けなんて趣味悪いぞ? これだからモテない男は……」
超ぶん殴りてぇ。そのツーブロックの刈り上げを頭全体に広げっぞ、こら。
……まぁ、室の言いたい事もわかるけどな。こうやって観察したのは二回目だけど、本当にこのクラスの女子はレベルが高い。見た目に関して言えば、な。だけど、中身が伴うかは別の問題だ。
キーンコーンカーンコーン……。
チャイムと同時に教室の前の扉が開く。そこからくたびれた白衣を着た俺らの担任が入ってきた。
「あー……だりぃ。おら、ホームルーム始めるからさっさと席につけよ、お前ら」
出席簿で肩を叩きながら
まぁ、まだ慌てるような時間じゃないはず。授業を通じて他人と絡む機会だってあるだろ。問題なしだ。
そんな事を考えながら、俺は自分の席に着いた。
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