第8話 熱い男
「ホームルーム始める前に提出するもんあるだろー。一人ずつ前に持ってこーい」
提出するもの? あぁ、あれか。ギフト申告書の事か。昨日寝る前に思い出して、眠い目こすりながら書いたからな。ギフトの発現時期とか使用履歴とか色々書くとこあったけど、
結局ギフト名と効果しか書かなかった。ちなみに、効果の欄には『指ではね返す能力』って入れといた。
「……よーし、全員提出したな。じゃあホームルーム始めっぞ」
俺達から受け取ったプリントの申告書の束をトントンと机で整え、
「とりあえずクラス委員を一人決めろ。以上だ」
それだけ言うと、我関せずといった顔で樽井は出席簿にチェックを入れ始めた。え、ちょっと待って、どういうこと?
「……ん? なんだ、お前ら。まだ決めてないのか? ホームルームの時間は十分しかないんだぞ?」
唖然としてる俺達を見て、樽井が不思議そうに首を傾げる。いやいやいや、おかしいでしょ。入学してから二日目のクラスにするレベルの丸投げじゃないだろ。
「先生……急にそんなこと言われても困るんですが……」
「昨日会ったばかりで、いきなり十分で決めろって言われてもなぁ……」
「決め方もよくわからないし、そもそもクラスメートがどんな人達なのかもわからないわ」
クラスの連中が口々に文句を言い始めた。当然、俺もこっち側だ。
「決め方なんてどうだっていいだろ。やりたい奴がやってもいいし、誰かを
「じゃあなんで昨日決めなかったんですか?」
「まさか、早く帰りたいあまりに忘れてた、とかじゃないですよね?」
「あー、もう悪かったって。もうその件は
「桜子? 桜子って誰ですか?」
鬱陶しそうに頭を掻いていた樽井の手がピタッと止まる。なんとなく女子連中がウキウキしているような気がした。樽井は握りこぶしを口元まで持ってくると、気を取り直すようにゴホンッと一つ咳を吐く。
「さて、じゃあ立候補制を取ろうか。クラス委員になりたい奴は挙手」
「せんせ~! 桜子って誰ですか~? もしかして先生の恋人~?」
髪の毛を盛りに盛りまくっている女子が、組んだ両指の上に顎をつきながら甘ったるい声を出した。その目は明らかに挑発している。だが、樽井はどこ吹く風といった様子。
「なんだ
「はぁ? なんで私がそんなのやらなきゃいけないのよ?」
「なら口を閉じといてくれ。今は大事な大事なクラス委員を決めているところなんだ」
「くっ……!!」
芹沢と呼ばれた女子が悔しそうに歯噛みする。ひゅー……樽井の奴、やるねぇ。見た目からしてあの芹沢って女、自分をお姫様だと思っているタイプだぞ。ああいう手合いは厄介だから、教師はあんまり絡もうとしないってのに。
「で? クラス委員になりたい奴はいないのか?」
いやー……誰もいないだろ。ただでさえクラス委員なんて雑用やらなんやらを押し付けられて大変だっていうのに、このギフテッド集まるクラスの委員だぞ? こんな一癖も二癖もあるだろうこいつらをまとめ上げるとか罰ゲームだろ。マジで勘弁願いたい。
樽井がゆっくりとクラスを見渡す。俺と同様、みんな顔を逸らしてやがる。まぁ、そうだろうな。誰が好き好んでクラス委員なんて……。
ビシィ!!
……おいおい、マジかよ。
「おっ、やってくれるのか
樽井の視線の先では、制服をピシッと着こなし、清潔感溢れる短髪の男が、地面と垂直にピンッと腕を立てていた。こんな面倒くさい役を自ら
「クラス委員とはすなわちクラスの顔役……そんな大役が務まるのは、この
あっ、やばい奴かもしれない。
「樽井先生! 是非ともクラス委員をこの私にやらせてください!!」
「お、おう。わかった」
席から立ち上がりながらグッと握りコブシを掲げる真田に若干引き気味の樽井。そんな樽井に気づくこともなく、真田はギラギラと輝く瞳を俺達に向けてくる。
「諸君!! 私がクラス委員になったからには、このクラスを規律に
街頭演説も真っ青な程に気合のこもった熱弁。当然、俺達の心に響くわけはなし。
「あー……うん。気持ちが
いや、絶対昂ってないだろ。あんたも俺達と同じで微妙な表情してたっつーの。
「じゃあ一年間よろしく。しっかりとこのクラスを引っ張っていってくれ」
「はい! お任せください!!」
気合十分な真田とやる気ゼロの樽井。本当、対極に位置してやがんな。ある意味いいコンビになるんじゃねーの?
「クラス委員も決まったところで朝のホームルームは
そう言うと、樽井はそそくさと教室を後にした。それを見送った真田が再び俺達の方に目をやる。
「この真田正義の目が黒いうちは問題など起こるはずがない! さぁ、諸君! 一限目の授業の準備をしようではないか!!」
はっはっは、と笑いながら自分のロッカーへと歩いていく真田を、クラス全員で見ていた。多分、みんな思っていることは同じだと思う。やばい奴がクラス委員になっちまったな、おい。
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