第29話 カラーギャング
連休三日目。今日も朝から身を粉にして働くぞ……と、言いたいところなんだけど、今日は
「……なぁ、
「……なんだよ?」
「お前、消しゴム使い切ったことある?」
「はぁ?」
あまりに突拍子もない発言にノートから視線を上げると、御巫が難しい顔をして小さくなった消しゴムを睨んでいた。
「こいつらってさ、小さくなったらいつの間にか姿を消してない? 俺は最後まで使い切った事がないんだけど」
「まぁ……言われてみれば確かに俺もないな」
「だろ?」
御巫が得意げな表情を俺に向けてくる。指で持つのがギリギリってサイズになったところで決まっていなくなるんだよな。
「なくなった事に気が付いたのがテスト中だとマジで焦るっしょ?」
「焦る焦る。なんとかシャーペンの裏についてる消しゴムで消そうとすんだけど、あの消しゴムってなぜか消えが悪いんだよな」
「筆圧濃いと全然消えないよなー。思いっきり消そうとするとぽっきり折れて、消しゴムが取り出せなくて替えのシャー芯が入れられなくなるべ」
「それ、めっちゃわかるわ」
しょうがないからシャーペンの先から芯を入れようとするんだけど、慎重にやっても絶対一本は芯が折れるんだよ。
「シャーペンの裏に消しゴムない時はさらに悲惨だよな。指の腹でこすって消すしかねーもん」
「解答用紙がめちゃくちゃ汚くなるパターンのやつや」
「それな」
「……貴様ら。やる気がないんなら、俺は帰るぞ?」
俺達が消しゴムあるあるで盛り上がっていたら、比嘉にぎろりと睨まれた。めちゃめちゃおこですやん、やだー。
ちなみにここは集合棟にあるラウンジ。やる気に満ち溢れている勉強家達が足しげく通う図書室じゃないので普通に話していても問題ありません。
「おいおい……比嘉さんが帰るとかおっしゃってるけど、どう思うよ?」
「俺達だけで連休の宿題が終わると思ってんのか! このボンボンめ!!」
「……よくもまぁ、そんな偉そうに言えたもんだ」
比嘉が俺達に侮蔑の目を向けてくる。はん! 何とでも言え! 皇聖学園からは人を殺せる量の宿題を出されてるんだ! それが終わるんだったら、お前に蔑まれるくらい何ともないぜ! ……だから、帰るとか言わんといてください。マジで死ねるので。
「たくっ……貴様らがしつこく連絡してくるから、貴重な休日にも拘らず、付き合ってやってるんだぞ? 少しは真面目にやれ」
「へいへい」
適当に返事をして問題集に視線を戻す。えーっとなになに? 三元一次方程式とな? 三なのか一なのかはっきりしろ。次。
「……つーか、颯よぉ。この休日、返信率
「この連休はバイトが忙しいっつったろ」
「それにしてもスマホ見る余裕くらいあんだろうが。流星は二秒で返信来るぞ? 『くたばれ』とか『だまれ』とかだけど」
「こいつは孤高の狼ぶって、実は寂しがり屋ってキャラだからしょうがねぇだろ」
「殺すぞ?」
ピピー! ラウンジでは雷厳禁です! 体からビリビリを
「バイトバイトってそんなに楽しいのか? 結局、期待の新人は可愛かったけど、嫌われちまったんだろ?」
「いや、それは……」
何とも答えにくい質問をしてくるなーおい。前よりは嫌われてないって思いたい。あのおっぱい突っつき事件も許してくれたし……許してくれたよね? 一緒に帰ってる時も普通に話とかできてたし。
一緒に帰るっていえば、昨日は閉店の時間が来たらいつの間にかいなくなってたな。俺だけじゃなく、おじさんや結衣さんにすら声をかける事もなしで。それに、あのギャング達と会ってからの凪の表情は……。
「なぁ……お前ら『ブラックドラゴン』って知ってるか?」
何とはなしに問いかけてみると、御巫は怪訝な顔で俺の事を見てきた。
「颯……お前な? そういうのは中学生で卒業しておくもんなんだよ。高校生にもなってそれは……かなり人として厳しいものがあるぜ?」
「すげぇ心にくるからその言い方止めろ」
御巫に生暖かい目で見られるとすげぇ腹立つ。聞くんじゃなかったわ、マジで。
「……貴様の問いかけの答えが俺の想像している連中と同じであるならば、その名前が貴様の口から出た事に驚きを隠せないな」
一方、比嘉の方は興味深げな視線をこちらに向けていた。こいつは知ってる口か。流石はムカつくけどイケメン、宿題からギャングの事まで聞くならこいつに限るな。
「なんだよ流星。お前も颯の中二病ごっこに付き合うのか?」
「このバカじゃなくても、大抵の一般人は知らないだろうな。……東都の街に巣食うならず者達、カラーギャングというものだ」
「カラーギャング?」
御巫が眉をひそめる。そんな顔になるよな。俺だってギャングなんて言葉、映画や漫画でしか聞いた事なかったし。
「不良とは違うのか?」
「世間に疎まれているという点では似たようなものだな。まぁ、素行の悪い学生レベルで片づけられる
「お、おい……そんな言って大丈夫なのかよ? カ、カラーギャングの奴が聞いてたらどうする?」
「ここにいるわけねぇだろ」
急にビクつき始めた御巫にぴしゃりと言ってやった。天下の皇聖学園にカラーギャングなどいてたまるか。
「そうとも限らんぞ?」
比嘉が意味ありげな笑みを向けてくる。え? どういう事?
「この街にいるカラーギャングは三つ……『レッドウルフ』と『ブルータイガー』、そして『ブラックドラゴン』だ。その中でも『ブラックドラゴン』はギフテッドばかりが所属していると聞く」
「なっ……!? ギフテッドがカラーギャングに!?」
「あくまで噂だがな。まぁ、在校生ではなく卒業生がチームに入るんだろうが」
「な、なんで卒業生がギャングなんかに?」
「役に立たないギフトでも掴まされたんだろうな。そうであっては例えギフテッドであっても一般人と同じ扱いだ。そうなると、ギフテッドに夢を馳せた連中が社会に反したとしても不思議な事ではない」
「随分とギャング事情に詳しいんだな?」
「俺様の会社をなんだと思ってる? そういった情報を持っていないと話にならんだろうが」
そういうもんなのか。まぁ、確かに警備会社として、脅威となり得る相手の情報を集めるのは普通か。しかも、こいつはそれの最高峰に位置する会社、比嘉総合警備保障株式会社の御曹司だもんな。
「……ところで、さっきから不気味な程静かなんだが、このバカは一体どうしたんだ?」
比嘉が何やら神妙な面持ちでじっと組んだ指を見ている御巫を顎で示す。まぁ、なんとなく考えていることはわかるわ。
「……卒業して俺と颯がカラーギャングになっちまったらどうすればいいんだよ!?」
俺もかい! と、勢いよくツッコみたいところだが、声高に否定できないのが辛い所。御巫のちょっと体が浮くっていう"
「ふん、知らんな。役に立たないギフトを持ったのなら、役に立つよう工夫すればいいだろう」
「お前はめちゃすげーギフトだからいいよな!」
「
「何が
「なるほど……貴様のようなバカは一度徹底的に痛めつけておかなければならないようだな」
「ぎゃぁぁぁぁぁ! 暴力反対!!」
ギャーギャーとやかましい二人を見ながら俺はぼーっと考え事をしていた。ブラックドラゴンっていうのが東都に三つあるカラーギャングの内の一つだって事はわかった。そして、役に立たないギフトを持ったギフテッドが多いって事も。だけど、まだわからねぇ事がある。言うまでもなく凪だ。あいつもブラックドラゴンを知っている口ぶりだったし、そもそもあいつの口からその名前が最初に飛び出したんだ。本来関わり合いになるはずもないならず者達と凪に一体どういう関係があるっていうんだ?
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