第21話 レベルがあがった!

 約一ヵ月ぶりにやってきました。洋式便所型ギフト調査マシーン。正式名称は長くて忘れた。


「……あいつらは外で待ってるのね」


 ここに俺を連れてきた張本人達は部屋には入らず、外の扉の前で立っているみたいだ。意外と律義なとこあんのね。まぁ、うちの担任も自分のギフトの情報は極力漏らすなって言ってたし、それを気にしての事なんだろうな。でも、一日一回しか使えないっていう最大の弱点ばらしちゃったから今更な気もするけど。


「確か使い方は……ただ座ればよかったよな」


 開閉ボタンを押して蓋を上げる。いや、もうまるっきり便所だねこれ。ズボンは履いたまま便座に腰を下ろせば……。


 テレテレッテッテッテー♪


 すげぇ聞き覚えのあるレベルアップ音がしたんですけど。


『おめでとうございます。ギフトの熟練度が上がりました』


「お、おう。それはよかった」


『この調子で頑張ってください』


 なんか激励された。どうでもいいけど、トイレットペーパーで伝えるは止めてくれませんかね?


『氷室颯のギフト:"理不尽バウンス"』


 ここからは前と一緒か。でも、熟練度が上がったって言ってたから何か変化があるかもしれん。


『効果一:ありとあらゆるものをはね返す』


 ここはいいんだよ、ここは。すげぇ強そうだもん。


『能力有効範囲:左手人差し指の先っちょらへん』


 相変わらずふわっとしてるけど、ここもまぁオッケー。左手人差し指の先っちょらへんがどこなのか曖昧で使いづらいっちゃ使いづらいが、最大のデメリットとは言えねぇ。問題は次だよ、次。せめて一日二回ぐらいは使わせて欲しいんだけど……。


『クールタイム:一日→二十三時間五十二分』


 ビリッ!!


 おっと、嬉しすぎて思わず紙を千切っちまったぜ。真夜中の零時に使えば、その日の二十三時五十二分には使えるから、これで一日二回使いたいっていう俺の願いは叶ったみたいだ。やったぜ。くそったれ。

 あー、もうやってらんねぇよ。何が熟練度が上がった、だ。ほとんど何も変わってねぇじゃねぇか。こんな事なら、あいつらを振り切ってさっさとバイト先に行くんだったぜ。


 からからから……。


 ん? まだトイレットペーパーの芯は回ってるな。これで情報は全部のはずなのにどういう事だ?


『効果二:特定部位をはね返す』


 なん……だと……? 効果二なんて聞いてねぇぞ!? ま、まさかこれが熟練度を上げた恩恵だというのか!?

 それにしても特定部位をはね返すとな……。いや、まだ何の感情も抱くな。反応するのは最後までギフトの性能が出きってからだ。


『クールタイム:一分』


 はいきた。これでかつる。クールタイムが短いってだけで今の俺にとっては最高のギフトなんだ。異論は認めない。


『能力有効範囲:右手中指の爪』


 えらい断定的だな、おい。効果一の方は先っちょらへんとかだったくせに。いや、そんな事よりも右手中指の爪かぁ……人差し指の先っちょよりもこりゃ当てにくそうだな。でも、クールタイム一分はマジで魅力的。今後はこの効果が主力になると思うから、中指を主軸にした戦闘スタイルを……。


『特定部位:対象の前額部ぜんがくぶ(相手のおでこをピーン)』


「いやそれただのデコピンだからぁぁぁぁぁ!!」


 俺はトイレットぺーパーを思いっきり引きずり出し、くしゃくしゃに丸めて力の限り地面に叩きつけながら絶叫した。ざけんじゃねぇ! おでこをピーンって言っちまってるじゃねぇか!! 前額部がどこだか一瞬分からなかったけど、ご丁寧に括弧書きで教えてくれてありがとよ!! 要らぬ気遣いがさらにむかつくわ!!


「はぁ……はぁ……!!」


 くそ……無駄に興奮したせいで息上がっちまった。なにがクールタイム一分だ。戦いの最中にデコピンしてる奴なんているか? いないだろ? できねぇからだよ!!

 つーか、ちょっと待て。なんで効果一の時と情報の出る順番が違うんだよ。明らかに俺のツッコミを狙ってきたんじゃねぇか。なにこの便器生きてんの?


「ようやく出て来たか」


「随分と盛り上がっていたみたいだけど、どうだった?」


 苦虫を噛みつぶしたような顔で部屋から出ると、早速二人が話しかけてきた。


「おーう、喜べ。熟練度が上がって八分もクールタイムが短くなってたぞ」


「え? って事はつまり……」


「クールタイムは二十三時間五十二分だ」


「ぶふぉ!!」


 盛大に噴き出し、そのまま床をバンバン叩いて爆笑してる御巫を俺は能面のような顔で見つめる。


「いやー……やっぱり颯は最高だな! 頑張ればそのうち二十時間くらいは切れるんじゃねぇか? ぷぷっ!!」


「……クールタイムは変わらない、か。いや、ある意味納得できるか……」


 一人は心の底から嬉しそうに笑ってるバカ、もう一人は神妙な面持ちで考え込んでいる堅物。どっちも付き合ってらんねぇよ。


「……バイトがあるから俺は帰るぜ」


「いーっひっひ……ひ? あっ、忘れてた! おいこら颯! 一人だけいい思いしようなんてずるいぞ!!」


 知るか。クソみたいなギフトを押し付けられた以上、こんな場所に夢も希望もねぇんだよ。俺に残された道は一つ……そう! 新しく入ってくる子と仲良くなる事だけだ!


 駆け足で寮に戻り、私服に着替えると脇目も振らずにカフェバルCieLシエルを目指す。いや、ちょっと待て。早く会ってみたかったからちゃっちゃと支度して出てきちゃったけど、本当にそれでよかったのか? シャワーくらいは浴びた方がよかったのでは? 髪型のセットも必要だったのでは?

 店まであと少しというところで迷い始める。ファーストインプレッションが大事だよな、絶対。なのに身だしなみも服装もこんなに適当じゃ、いい印象なんて持たれるわけないって。

 あー、もう最悪だ。バカ二人に絡まれたせいでこんなになったのは間違いない。マジであいつら許さん。今度隙を見て絶対にデコピン決めてやる。いや、比嘉には無理だな。御巫に二発決める。

 もう店の前まで来ちゃってるし、今更引き返すわけにはいかねぇよなぁ……えーい! ここは笑顔で乗り切るしかない! 明るい雰囲気を出しまくって、色々と誤魔化してやるぜ!


「こんにちはー!!」


 店のドアを開けると同時に、努めて明るい大きな声で言った。すると、おじさんや結衣さんと一緒に店の中にいた少女が慌てて俺に頭を下げてきた。…………あれ?


「は、はじめまして!」


 あれれ?


「今日からここでお世話になります!」


 あれ? あれ?


「夕暮凪と申し……!!」


 黒髪の超絶美少女は顔を上げた瞬間、笑顔のままその場で凍り付く。俺も満面の笑みで馬鹿みたいに元気よく手を挙げたまま固まっていた。


 あっれれー? おっかしいぞー?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る