第4話 超高性能異能力解析装置RX
目の前にある真っ白な便器を見て、俺の頭も真っ白になる。確か、俺に宿るギフトがなんなのかを知るために来たんじゃなかったっけ? なんでトイレ? もしかしておちょくられてる?
「えーっと……先生?」
「超高性能異能力解析装置RXだ」
「……いや、どう見てもトイ」
「超高性能異能力解析装置RXだ」
樽井が俺の顔を見ずにきっぱりと言い切った。どうして俺の目を見ようとしないんでしょうか?
「これは相手のギフトを読み取るギフトを持っていた奴が作った装置だ。だから、その性能に間違いはない。どうしてこんな形にしたのかは面倒くせぇから聞くな。俺も知らねぇよ」
「……そうですか」
口から自然とため息が出てくる。せっかくやる気が出てきたっていうのに、なんか脱力しちまった。能力を解析する装置ならもっとカッコいいデザインがあっただろうが。なんかこう……色んなコードが伸びた巨大なカプセルでさ、煙を吐き出しながら上から下に扉が開いたりする感じとかSFチックで心躍るやん。
「これだって下から上に開いてカッコいいじゃねぇか。コードも出てるし」
いやそれ便ふたがパカパカ開いて便座が見え隠れしてるだけだから! コードに関しては冬の朝、腰を下ろした時に「あひゃん!」ってならないよう便座を温めておく機能だから!
「おいおい……ギフトっていうのは常識外れの力なんだぞ? それなのに自分の中にある常識に固執して、見た目にとらわれているようじゃ話にならねぇな」
樽井が俺を見ながらやれやれと
「先生、これどうやって使うんすか?」
「ん? そりゃ、あれだろ。そこに座って踏ん張れば出てくるだろ……ケツから」
それ本来のこいつの使い方だからっ!! お前も見た目にとらわれてんじゃねぇか!!
「まぁ、そんな難しいことはないらしいから大丈夫だろ。三十分くらいかかることもあるから、俺はいったん教室に戻るぞ。いつまでもあいつらを待たせておくわけにはいかないからな」
「えっ、ちょっ……」
「終わったころに戻ってくるから。それじゃ」
そう言いながらさっさと樽井は部屋を出て行ってしまった。残されたのは俺と超高性能なんちゃらかんちゃらだけ。まじでどうすればええっちゅうねん。
「……つっ立っててもしゃあねぇか」
とりあえず便ふたを開けて便器に座ってみる。もちろんズボンは履いたままだ。何が悲しくて、こんな所で下半身を露出しなくちゃいけないんだ。さて、これからどうするか……。
カラカラ……。
どうやってこの便器から俺のギフトを捻りだすか考えようとした俺の耳に、微かに何かが回る音が届いた。音がしたのは右側、つまり壁の方だ。そこにあるのはもちろん……。
「おいおい、まじかよ……」
独りでにゆっくりと回っているトイレットペーパーを見て、俺は大きく目を見開いた。ただ回っているだけなら別に驚かない。若干ホラーチックではあるものの、そういう仕掛けなんだろう、と納得するだけだ。だが、このトイレットペーパーは違う。なぜなら、『解析中……解析中……』という文字を浮かび上がらせながら、どんどんと下に伸びているからだ。
「本当にこれでギフトが分かるって言うのか?」
いや、別に樽井の言葉を疑っていたわけじゃない。でも、やっぱりこんな便器でギフトが分かるわけないってどこかで思っていたのは確かだ。だが、この便器はしっかりと役目を果たしている。便座に座った対象の情報を読み取り、その結果をトイレットペーパーを用いてアウトプットしているのだ。なるほど、だからこそこういう形にしたのかもしれない。そう考えると、これはとても理にかなった……。
……いや、洋式トイレじゃなくてもいいだろ、これ。
俺は蛇の様に床に広がっていくトイレットペーパーを見ながら、ため息を吐きつつ両腕を自分の膝に乗せ、頬杖をついた。横目でトイレットペーパーを見るも、相変わらず『解析中……』の文字のみ。もう解析中なのはわかったから、結果が出たら教えてくれよ。トイレットペーパーがもったいないだろうが。資源を無駄にするやつは資源に泣くぞ、ったく。
そんな事を考えながらぼーっと座っている事、約三十分。そろそろ自分がどうしてこんな所にいるのか自問し始めた頃、風車よろしく回っていたトイレットペーパーがピタリと止まった。
『解析完了』
その文字見た瞬間、俺の心臓が跳ね上がる。奇抜な装置のせいですっかり頭から抜けてたけど、これってめちゃくちゃ重大なことだよな? ギフテッドとしての命運がかかってるって言っても過言じゃないはず。トイレの神様! この学校で平穏を手にするためにも、まともなギフトをお願いします!
ゆっくりと震える手でトイレットペーパーを引いていく。トイレでこんなにも緊張したことがかつてあっただろうか? 小学校以来だ。小学生の頃は学校で大をする=うんこマンだったから、慎重かつ迅速に用を足す必要があった。
……って、そんなどうでもいいことはいいんだよ! 今はとにかく俺のギフトだ! 自分の耳に聞こえるくらいに鼓動を大きくしながら、俺はトイレットペーパーに注目する。
『氷室颯のギフト:"
『効果一:ありとあらゆるものをはね返す』
え? ちょっと待って? これ、強くね?
ゲームでも漫画でも、相手の攻撃を反射する系のキャラは決まって強キャラだよな! しかも、ありとあらゆるものって明らかに反射能力の中でも強い部類のやつに違いねーわ! 理不尽っていうのは相手にとってって意味か! おいおいおいおい! これは俺の時代が来たんじゃねーか!?
『能力有効範囲:左手人差し指の先っちょらへん』
……なんか俺の時代が遠のいた気がする。能力が使える場所が限定的過ぎるだろ! つーか、先っちょらへんってどこだよ!? ちょっとでもずれたら反射できない感じ!? リスクたけーわ!!
い、いや。落ち着け俺……。反射能力というのは強すぎるため何かしらのハンデを背負わされるのが世の常だ(漫画の知識)。だが、この程度のハンデであればむしろいい方なんじゃないか? 左手人差し指の先っちょしか反射できないって事は、逆を言えば、左手人差し指の先っちょであればありとあらゆるものをはね返すことができるという事だ! つまり、何かあったときに人差し指の先っちょを瞬時に向ける訓練さえすれば、俺は無敵の盾を手に入れたも同然! やはり俺の時代は到来したのだ! ふーっはっはっはっは!!
『クールタイム:一日』
あっ、俺の時代が終わりを告げたようです。
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