異能力者しかいない学校だけど、俺は元気に生きていきます
松尾 からすけ
第一章 "理不尽"と"轟く男"
第1話 始まり
目の前の男から発せられるオーラに、俺は圧倒されていた。いや、オーラだけじゃない。規格外のギフトを目の当たりにし、俺は銅像のようにその場で動けなくなってしまった。
空は雲一つない晴天だというのに、耳を
「なに、殺しはしない。校則を破るつもりなどないからな」
地面を砕く
「たが、もう二度とこの俺様に舐めた口を利けないよう、少々痛い思いをしてもらうぞ。……
奴を取り巻く雷の激しさが増していく。同時に、俺の背中に冷たいものが流れた。
この学校に入学してから一週間、俺の命が風前の灯火なんですが、誰か助けていただけませんでしょうか?
*
「はぁ……」
そびえ立つ荘厳な校門を前に、俺は思わず息を漏らした。ため息なんかじゃない、感嘆の息ってやつだ。はっきり言って門構えが立派過ぎて今日からここに通うって実感が全然湧いてこない。
深呼吸にも似たため息をもう一度つきながら、俺は門の前を見回す。入学式という事で校門の前がごった返す……なんてことはなかった。この学校の入学式は保護者の参加が認められていない。そして、入学する生徒の人数も、とある理由から他の学校と比べて多くはなかった。
国立皇聖学院高等学校。神から与えられた異能、"ギフト"を持つ者が
この国の首都である東都の中心に設立された学校。なんとも仰々しい校舎が立ち並び、その最新鋭の設備は国の研究施設と遜色ないとまで言われている。つまり、めちゃくちゃ凄い学校って事だ。
校門から既に選ばれし者以外立ち入ることは許さない、みたいな雰囲気を感じる。俺みたいな奴が通っていい場所じゃないよな、絶対。
だけど、何の問題もない。なぜなら、俺の手には
多少緊張しつつも、校門に併設されている守衛室にいるゴリゴリマッチョなおっさんに声をかけてみる。
「すいません。入学式に来たんですけど……」
「ん?」
少し肌が焼けていて、ピッチピチのワイシャツは今にもボタンが弾け飛びそうなほど胸筋に圧迫されていた。しかも、顔には無数の刀傷があるとくれば、もうこの男は絶対に堅気ではない。腕なんて俺の胴体くらいあるんじゃないか?
「……あぁ、入学許可証を持っているな。それを貸してくれるか?」
「はい」
言われた通り、素直にそれを差し出す。守衛の男は俺から入学許可証を受け取ると、変な機械をポケットから取り出した。お店のレジにあるバーコードを読み取るやつみたいだ。それを使って俺の入学許可証を照らすと、そこから小さなスクリーンが飛び出してきた。
いや、実際に画面が飛び出してきたわけじゃないけど、許可証が空中に映像を投影してそこにスクリーンがあるように見せているんだと思う。流石は皇聖高校、ただの入学許可証に金を使いすぎだろ。
スクリーンに映し出された名前と顔写真を守衛の男がチェックしている。なるほど、これで本人確認をしているってわけか。偽の入学許可証じゃ、バーコード読み取り君(俺命名)が反応しないんだろうな。セキュリティ意識たけーな、おい。
「……よし、間違いはないな。氷室君、入学おめでとう。式は体育館で行うから、この案内を見て進んでいってくれ」
「ありがとうございます」
守衛の男に頭を下げつつ、校門をくぐる。見た目のわりに普通の守衛さんだった。てっきり「力を示せない奴はここを通すわけにはいかねぇな」みたいな事言ってバトルでも仕掛けてくると思ったわ。そうなったら二秒で土に還る自信がある。
つーか、なにこの校内案内図は? 空港かよ。広すぎんだろ。俺達新入生を含めても全校生徒は三百に満たないって話だぞ? 三年間通っても回りきれる気がしねーぞ、ここ。
周りにはチラホラと新入生の姿が見受けられる。みんな俺と同じように案内図にかじりつきながら歩いてるな。とりあえず入学式は体育館でって言ってたからそこを目指さないと……。
「あのぉ……」
地図と睨めっこしながら歩いていると、突然後ろから遠慮がちに声をかけられた。当然、この学校に知り合いなどいない。俺は地図から目を離し、恐る恐る振り返る。そこには茶色い髪を肩まで伸ばした美少女がおどおどした様子で立っていた。
「え? 俺?」
あまりに可愛い子だったので、思わず自分を指差して確認してしまう。女の子は小さく頷くと、きょろきょろとあたりを見回した。
「えーっと……新入生の方ですよね?」
「そうだけど……君は?」
「はい。私も新入生です」
だと思った。俺と同じ新品の制服を着ているからね。これで上級生だったら、この子物持ち良すぎるわ。
「それで……あの……お願いがあるんですけど……」
僅かに上目遣いで言ってくる女の子。瞬時に身構える俺。美少女プラスお願いイコール詐欺。壺か? 壺なのか? 幸せになれる類のやつなのか? 悪いけど、一つまでしか買うつもりはねーぞ、俺は。
「私……地図が読めないんです! 体育館まで一緒について行ってもいいですか!?」
「…………へ?」
勢いよく頭を下げてくる女の子を俺はきょとん顔で見つめる。壺の値段によってはこづかいの前借りしないといけないかなー、とか考えてたから、予想外過ぎてぽかんっとしちまった。
「あー……そういうことね。全然いいよ。一緒に行こうぜ」
「本当ですか! ありがとうございます!」
頭を上げた女の子が嬉しそうな顔でグイっと顔を近づけてくる。おっふ……別に女子と話すのは得意でも苦手でもないけど、こうも美少女だと流石に緊張する。
「あ、あの、あれだ! 同級生なんだから敬語はなしにしよう!」
微妙に後ずさりしながら言うと、女の子は大きな目をパチパチと二三度
「……うん! ありがとう! 私の名前は
「俺は氷室颯だ。よろしくな」
「氷室君だね! よろしく!」
そう言って笑いながら出してきた北原の手を握り返した。……やべ、俺って手汗かくタイプなんだよね。気持ち悪いとか思われてたら死ねるわ、まじで。てか、手小さいな。身長も同世代の女子の中だと低い方だろうな。その容姿も相まって、めちゃくちゃ
「……でも、よかった。最初に声をかけたのが氷室君で」
二人で体育館を目指して歩いていると、北原の口からそんな言葉が飛び出した。
「そうか?」
「うん! だって、氷室君は優しい人だったから!」
なんという純真な
でもまぁ、優しい人だと思われたって事は中々良いファーストインプレッションを与えられたのではなかろうか? このまま親密度を深めていけば、初彼女ゲットの可能性も……こりゃ、楽しい学校生活の始まりかもしれないな!
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