第16話 下僕爆誕
二人の
「随分と面白いギフトを授かった者達がいるじゃないか。いやぁ、今年は豊作みたいでなによりだよ」
校舎の屋上から一部始終を眺めていたこの学園の長、
「……学園長、流石に学校でお酒は」
「もう下校時刻だ、堅い事は言いっこなしにしよう。それに、私はアルコールを摂取しないとどうにも力が出なくてね。君もどうだい?」
「遠慮しておきます」
楽し気に笑いながらウイスキーボトルを振る源氏に呆れ顔を向けると、
「それにしても厄介なギフテッドを押し付けてくれましたねぇ……」
「
ギフテッドの中にはより強力なギフトを持つ
「そっちじゃないです。……まぁ、そっちも厄介ではありますが」
大会社の一人息子。そんな男が強力なギフトを有しているとなれば、手に余る事この上ない。だが、それは扱いが難しいというだけ。早雄が危険視しているのはもう一人の方だった。
「
「それだけ強力なギフトを手に入れただけの話だろう。しかし、私の記憶が正しければ、彼が自分のギフトを知った時はあまり嬉しそうではなかった、と君は報告してくれたと思ったが?」
「はい。なんていうか……期待外れって感じの顔をしていましたよ」
「そうなると、厄介な制約でもついていそうだな。だとしても面白いギフトだ」
くくっ、と笑いながら友人を背負って運ぶ颯を見つめる。とことん上機嫌な源氏に対して、早雄の表情は渋い。
「バンデットにならなきゃいいですけど」
「それは君の指導によるだろう? 成長過程の
「……それにしても、うちのクラスは問題児が多すぎやしませんか?」
「はっはっはっ」
ウイスキーを飲みながら笑ってごまかす源氏に早雄はジト目を向けると、頭をガシガシと掻きながら盛大にため息を吐いた。
*
流石はギフテッドが集まる学校だ。保健室も普通とはまるで違う。え? 何が違うって? 設備とかそういうのも当然違うんだけどさ。なにより違うのは保健の先生だよ。
丸い眼鏡に茶色の髪を短くまとめた気さくな感じの
「あー丸焦げのパターンねー。そこのベッドの上に寝かせといてー」
比嘉を見た時のリアクションがこれ。いやいやいや、人が丸焦げになってたらもう少し何かあるだろ。俺らが来る前に食べていたクッキーもそのままのんびり食べ続けていたし。
「じゃあパパッと治療するから、それ食べて待っててー」
俺らにクッキーを渡してカーテンを閉める井谷先生。仕方がないからクッキーを食べようとしたら、すぐに先生が戻ってきた。
「治療終わったから目が覚めるまで友達のそばにいてあげなー」
そう言うと、井谷先生は再び自分の机に戻ってお茶とクッキーに
「いやー……あんなにボロボロだった比嘉が一瞬で綺麗さっぱり元通りとはねぇ……」
「やっぱ皇聖学園の保健の先生は凄いんだなぁ……」
凄いって誉め言葉じゃ安っぽい気がするけど、語彙力のない俺じゃ凄いとしか言いようがない。
「凄いと言えば……」
ん? なんか御巫が恨みがましい目で俺を見ているんだけど? どした?
「ふざけんな! この裏切り者め!!」
「ちょ、まっ……!!」
突然のヘッドロック。涙目になりながらがっちり首に組まれた奴の腕を全力でタップする。
「ぐ、ぐるじい……!!」
「なんなんだよ! あのすげぇギフトは!! あんなの聞いてねぇぞ!?」
「お、落ち着けって!! と、とりあえず解放してくれ!!」
必死な形相で頼み込むと、御巫が腕に込めていた力を緩める。ま、まじで死ぬところだった。一瞬、マヨネーズのキャラクターみたいな可愛らしい天使が見えたぞ。
「よし、じゃあ弁明を聞こうか?」
「弁明も何も……俺も初めて使ったから知らなかったんだよ」
「有罪」
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!! これ以上はまじでやばいって!!」
再び力を入れようとした御巫を死に物狂いで止めた。まぁ、初めて使ったっていうのはちょっと違うか。正確には目覚まし時計以外に初めて使った、だ。
にしても、我ながらさっきは凄かったな。まさか、俺のギフトがあんなに強力だったとは……。もしかして使えるギフトなのか? いやでも、一日一回だぞ? 仮にさっきの一撃で終わらなかったら、俺はもう何もできないわけだし……。まぁ、使い方によってはかなり強力には違いないと思うけど……でも、一日一回限定っていうのは……。
はぁ……なんとも扱いづらいギフトだよ、本当。
「……うっ」
俺と御巫がじゃれ合っていると、ベッドの方で微かに声が聞こえた。俺達はピタッと動きを止め、同時にベッドへ視線を向ける。
「…………ここは?」
「保健室だよ」
「保健室……?」
まだ意識がはっきりしていないのか、比嘉が焦点の合わない目で俺達を見てきた。目と目が合ってからたっぷり三秒、比嘉の意識が覚醒していく様をしっかりと確認する事ができた。
「な、なんで貴様らがっ!?」
「その前に自分が何でこんなところにいるのか思い出した方がいいんでなーい?」
「なに……?」
御巫の言葉に眉をひそめた比嘉だったが、ここはおとなしく従うことにしたらしい。さて、どれくらい時間がかかるかな……なんて思ってたら、比嘉がいきなりバッと上半身を起こし、ありえないものを見るような目で俺を見つめてくる。
「そんな目で見られたら照れる」
「いや照れるとこじゃねーだろ。……それにしても比嘉ちゃんよぉ?」
俺にツッコミを入れつつ、御巫がニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら、事実を受け入れられないでいる比嘉と肩を組んだ。
「颯に負けちゃったねー。あれだけ息巻いておきながらさー。ねぇ、どんな気持ち? 心の底から馬鹿にした相手に負けるのってどんな気持ち?」
「くっ……!!」
「いや、なんでお前がそんなに偉そうなんだよ」
悔しそうに歯噛みする比嘉を見て嬉しそうにしている御巫に俺はジト目を向ける。
「御巫は何もしてないだろうが。
「へいへい、わかりやしたよ」
渋々といった様子で御巫が肩から腕をどけた。たくっ……何もしないでただぼーっと見てたくせに何言ってんだよ。お前があの雷の龍を食らってたら黒焦げじゃ済まなかったっての。お前に比嘉を煽る権利なんて一ミリたりともねぇんだよ。
屈辱に打ちひしがれる比嘉を慰めるように、俺は優し気な笑顔を向けた。
「比嘉」
「…………氷室」
穏やかな声で名前を呼ぶと、比嘉は何とも言えない表情で俺を見てきた。そんな顔するなよ。お前は天下のヒガソー跡取りなんだろ?
「さっきの約束、覚えてるだろ? ちゃんと取り消してくれるよな? ──下僕くんよぉ?」
「っ!?」
この世の終わりみたいな顔をした比嘉を見て、俺はにやりと笑みを浮かべた。
皇聖学園に入学してから一週間。まだまだ学校には
そんな可哀そうな俺に、初めて下僕ができました。
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