第14話 校舎裏の恒例行事
「おい! いたか!?」
「こっちにはいないぞ!」
「他の親衛隊にも声をかけろ! 人海戦術で行くぞ!!」
「探せ! 探し出してきっちり
「
『小鳥遊桃親衛隊』なる連中に追い掛け回されること三十分。なんとか
「なんで俺まで巻き込まれなきゃいけないんだよ」
壁からひょこっと顔を出して親衛隊の動きを探っている御巫が、不服そうに唇を尖らせる。
「お前だって小鳥遊先輩の胸見てただろうが」
「あんなの男だったら誰でも見るだろ。問題はメロンメロン言って親衛隊を
「……それに関しては反省してるっつーの」
俺だってわざと言ったわけじゃないんだって。頭の中で考えてた言葉を間違って口から飛び出る事ってよくあるだろ? それが偶々最悪のタイミングで起きちまったのさ。不幸な事故っていうやつだ、うん。
「こりゃ、図書室どころか校舎の中にも入れねぇな。
「わーってるよ。ちゃんと宿題終わらせて後で見せてやるっての」
「さーすが颯君! 話が早くて助かるわー!」
御巫が満面の笑みで俺の肩をポンポンと叩く。くっ……今日もアルバイト入れちまったからなぁ……こりゃ徹夜確定か?
「そうと決まればさっさと寮に戻ろうぜ? こういう時は嵐が去るまでじっとしていた方がいいんだよ」
「……そうだな。じゃあ人通りの少ない校舎裏の方を進むか」
「りょーかい! スパイよろしく、親衛隊の連中に見つかないよう慎重にな!」
御巫の言う通りだ。あんな目が血走った連中に捕まったら何されるかわかったもんじゃない。絶対に見つからないようにしねぇと。
「それにしてもあの人は
「それは小鳥遊桃の事を言ってるのか? いやぁ……彼女を知らないのは結構やばいぞ?」
「俺はお前みたいに女子の情報を
「別にその気がなくても小鳥遊先輩の情報は集まるっつーの。なんせ彼女は大人気アイドルだからな」
「アイドル!? まじかよ!!」
思わず大声が出ちまった。アイドルってあれだろ? 水着でおしくらまんじゅうしたり、ローション
「……なんか颯が間違ったアイドル像を抱いている気がしないでもないけど、それはスルーしておこう。それに加えて、この学園の副生徒会長でもある」
「へー」
「そっちの反応はえらい薄いなーおい」
いやぁ、アイドルってこと聞いたら他の情報なんて
「まぁ、ぶっちゃけ俺も副会長とか割とどうでもいいわな。しっかりと拝むことができたし。ありゃE……下手すりゃFあるんじゃねぇか?」
「やめておけ。それ以上は鼻血に関わる」
週刊誌についてるグラビアとか見てもそこまでって感じなのに、実際に現物を目にするとここまで衝撃を受けるとは……小鳥遊桃、恐るべし。
「とにかく今は無事に寮まで行くことだけを考えるんだ。ちんたらしててメロン親衛隊に捕まったらえらいこっちゃ」
あの狂信ぶりから察するにマジで命すらとられかねんからな。全神経を集中させて進んでいかねばならん。
「そらそうだ……でも、こうやって校舎裏を進んでると、やばい場面とかに出くわしそうでドキドキするな」
「やばい場面ってなんだよ?」
「そりゃお前あれだよ。校舎の裏に呼び出しって言ったらあれしかないだろ?」
あれ? 校舎の裏に呼び出してあれ……あ、なるほど。
「……確かに、昔から校舎裏って相場が決まってるな」
「あぁ。みんなの前じゃまずいからって、
「流石に入学したての一年じゃまだ気が早いが、先輩同士なら……あれがあってもおかしくないよな?」
俺の中の
「……さぁ、告白現場よ! どんと来い!!」
ちょっとだけウキウキしながら次の校舎裏に飛び込む。そして、俺達は出くわしてしまったのだ。
「……あぁ? なんだてめぇら?」
いじめの現場に。
「あー……えーっと……」
五、六人の先輩から一斉に睨みつけられ、超高速で目を泳がせる。いや、これもみんなの前じゃまずいから
「こいつのお友達かなんかか?」
そう言いながら、丸坊主の先輩が胸ぐらをつかんでいる男子生徒を俺達に向けてきた。雰囲気的に一年生っぽいけど、うちのクラスの奴じゃない。うちのクラスにあんな普通な感じの奴なんていない。
「いやー……ちょっとその方は存じ上げないですねー……なぁ、御巫君?」
「そうそう。その方とは何の面識もないです。僕達は可愛らしい野良猫を追いかけていただけだよね、颯君?」
「そうだったそうだった! 早く追いかけないと見失っちゃうね! というわけで、この辺で失礼させていただきまー……」
回れ右して退散しようとした俺達の目の前に、さっきいじめの輪の中にいた先輩二人が立ちはだかっている。えー……今の今までそっちにいたやん。これだからギフテッドは……常識が通用しなくて嫌になる。
「奇遇だな。お前らが野良猫を探しているように、俺達はカモを探してたんだ」
「あぁ。丁度、使えないカモが逃げちまったからな。いい所に来てくれたよ」
にやにやと笑いながら、先輩が後ろを指差す。そこにはさっきまでこの連中に囲まれていた生徒が必死に逃げていく姿があった。なるほど、
「さて、と……とりあえずジャンプしてもらおうか?」
こいつらいつの時代のヤンキーだよ。電子マネーが主流になりつつあるから、持ってる金なんて高が知れてるし、そもそも財布に入れてたら小銭の音なんて聞こえないだろ。だけど、逆らっても馬鹿を見る事間違いないので、大人しくその場でジャンプする。
じゃらじゃらちゃりーん。
「おっ、すげぇ金持ってんじゃーん」
「ラッキー!」
御巫から大量に小銭が跳ねる音が聞こえ、先輩達が嬉しそうに笑みを浮かべる。いや、なんでだよ。なんでポケットに直接小銭入れてんだよ。
「ふっ……俺は財布を持たない主義でね」
どや顔の使いどこがおかしいんだよ、馬鹿野郎。
「ぼこぼこにされてから金を出すか、大人しく金を出すか、どちらか選ばせてやるよ」
「あのー……見逃してやるっていう選択肢は……あるわけないですよねすいません」
一応、お
「時間の無駄だ。さっさと金巻き上げて遊びに行ぐふぇ!!」
悩んでいる俺に痺れを切らせた一人の先輩がこちらに殴りかかってきたので、反射的に目を閉じる。……あれ? 痛くない? ってか、殴られてない?
恐る恐る目を開けると、殴りかかってきた先輩の姿がどこにもなかった。え? なに? どういう事?
状況を把握しようと、きょろきょろ周りを見てみる。あっ、いた。なんか隅の方で転がってる。もしかしてお昼寝の時間とか?
「──やれやれ。皇聖学園にもこんなゴミが存在していたとはな」
げっ……。
俺は頬をひくつかせながら、声のした方へと顔を向けた。この鼻につく物言い。全ての人間を見下したような口調。見なくても誰の発言かなんてすぐにわかる。
「面倒だが、俺様が
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