第31話 囮作戦(不可抗力)

「なんだなんだ!? レッドウルフのカチコミか!?」


「誰や!? シャッター吹っ飛ばしたんは!?」


 仕方がないのでこっそり近づいてみたら、案の定中は大騒ぎだった。そりゃそうだ。いきなりシャッターがぶっ壊されたんだもん。ギャングじゃなくても騒ぐって。

 つーか、絶対これやばいだろ。ギャングに袋叩きにあうよりも結衣さんに絞められた方がいい気がする。幸い、どや顔で仁王立ちしているバカにしか目がいっていない様子。ここはばれないうちに戦略的撤退をするしかない。


「てめぇらナニモンだ!?」


 てめぇら……あっ、ばれてる感じですか、そうですか。


「こいつら……昨日の?」


「カフェの店員じゃねぇか!!」


 おまけに完璧に身バレしました。スーパーモヒカンとトゲトゲピアスは中々に人の顔を覚えるのが得意なようです。まじやべぇ。


「カフェの店員?」


「カフェの店員がなんでこんな所にいんだよ!?」


 がなり立てるギャング達を凪は見下すように見渡した。よくよく見ると、こいつら全員恰好が黒いな。やっぱりブラックドラゴンだから黒で統一しなきゃいけない感じか。


雑魚ザコに用はないわ。ぎゃーぎゃー喚いていないでさっさとヘッドを出しなさい」


 いや、はっきり言いすぎだろ! ただでさえ怖いお兄さん達の怒りのボルテージがぐんぐん上がってるのが目に見えてわかるって!


「てめぇら……ガキだからって手加減してもらえると思うなよ!?」


「俺達が泣く子も黙るブラックドラゴンだって知ってんのかごるぁ!!」


 ほらめっちゃ怒ってんじゃねぇか! そりゃ怒るよ! 雑魚扱いされてんだもん! 多分、そういうの一番気にする連中だよギャングって!


 いきり立つギャング達を見据えながら、凪は小さくため息を吐いた。


「……まぁ、素直に案内してくれるとは思ってないわ。居場所は何となくわかるし、悪いけど押し通らせてもらうわよ」


 そう言うと、凪は"誰よりも速くアクセレート"を発動させる。その瞬間、凪の姿がこの場から消えた。恐らく、目に留まらぬほどの超高速で移動しているんだろう。


「き、消えた……!?」


「ど、どこ行きやがった!?」


 ギャング達も慌てふためいている。やっぱりあいつのギフトは強力だな。心配してついて来ることもなかったか? ……ってか、ちょっと待って。

 凪がいなくなった事で動揺していたギャング達が徐々に落ち着きを取り戻した。冷静になったギャング達が初めにする事は? そう、消えた仲間の居場所を残った奴から聞き出す事だね。


 無言で見つめ合う俺とギャング。ニコッと愛想笑いを向けると、俺は一目散に走りだした。


「逃げたぞ! 追え!!」


「絶対逃がすんじゃねぇ!!」


 ギャングの皆様が怒声を上げながら追ってくる。絶対こうなる事が分かった上でギフトを使っただろ! 凪の奴、マジで許さねぇからな!

 とにかく死に物狂いで廃ビルの中を駆け抜ける。今日はずっと机に向かっていたから体力は有り余ってるはずだ。それに、こちとら基礎訓練の授業のおかげで走り込みには慣れてんだよ。万年ビリだけど。


「待てこら!! 止まらねぇとぶっ殺すぞ!!」


 とはいえ、そう簡単に振り切れるものではない。今日は……目覚まし時計をぶっ壊してないな。ギフトを使って吹き飛ばしてみるか? いやいや、それで確実に撒ける保証もねぇし、なにより一日一回しか使えないから、ここぞって時まで使えるわけがねぇ。


「ならもう一つの効果の方で……!!」


 熟練度が上がったおかげで俺にはクールタイムが一分の素晴らしい力がある。それは俺の右中指で相手のおでこを弾き飛ばす能力だ。いやぁ、これならヒット&アウェイで行けば何とか……。


「なるわけねぇだろ!!」


 鬼の形相で走ってきているギャング達のおでこにデコピンできる奴がいたら紹介してくれ! 少なくとも俺には無理だ! 作戦変更。瓦礫でごちゃごちゃしている場所を率先して通って、隙を見て隠れよう。

 全速力で建物内を走り続ける。飛び越す時に脛に瓦礫が当たって泣きそうだけど足は止めない。そして、背中から感じる気配が薄くなったところで、適当な部屋に飛び込み物陰に隠れた。


「おい! あの野郎はどこに行った!?」


「くそっ! 見失ったぞ!」


「探せ! 絶対この建物の中にいるはずだ!!」


 遅れてやってきた連中の怒鳴り声が聞こえる。俺は必死に息を止めて気配を殺した。本当は持久走後みたいにゼーハーゼーハー息したいんだけど、ここは我慢するところ。あいつらがいなくなるまでは物音一つ立てることは許されない。

 ここからは俺様お得意のスニーキングミッションだ。この手のゲームは何個もクリアしているからお手のもんだぜ! ちなみに、そのゲームは弾薬が無限になるチートなバンダナを装着して無双してやるのが常だったけどな。

 息を殺して少しずつ進んでいく。目指すは一番上。バカと煙と悪い奴は一番高いところにいるって相場が決まってんだ。つまりバカが向かったのもてっぺんに違いない。


「連中は……どうやら下にいるみたいだな」


 階下でドタバタと走るギャング達の足音が聞こえる。なんつーか頭の弱い連中だな。こういう時は普通手分けして探すだろ。なんでみんな一緒に探してんだよ。あいつらはトイレ行くとき絶対つれしょんするタイプだな。

 階段をどんどん上に昇っていく。外から見た感じ、十階建てくらいだったか? 若いとはいえかなり堪えるものがある。とはいえ、エレベーターなんて使うわけにもいかねぇしよ。そもそもエレベーターが動いてねぇよ。

 やっとの思いで一番上までたどり着いた俺はギャングの奴らがいないか探りながら慎重に歩いていき、扉を開けては一つずつ中を確認していった。そして、一番奥の部屋の前で立ち止まる。この部屋が違うとなると俺の読みは外れだったって事になるな。そうなると一階一階虱潰しに探さなきゃいけなくなるのか……辛い。


 ゆっくりと扉を開けて中の様子をうかがう。……どうやら大当たりのようだ。


「おいおい……今日はやけに客が多い日だな」


 以前は会議室として使われていたのか、と思うほどの広い部屋に男が一人佇んでいる。その足元には縄で縛られた凪が転がっていた。

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