第32話:過去と未来と

 ***


「どうしてここまでしてくれるんだ?」


「分からない?」


「分からないよ。君のことが全然。どうしてこんな俺のことにずっと気にかけてくれるのか。俺は、何をやってもダメなのに。俺のためにここまでしてくれる君を信じることだってできないよ」


「それでも私は知ってるよ。私は、光樹くんの本当の心を知ってる」


「なんだ、よ、それ……俺の本当の心って何だよ。いつまで経っても前に進めない弱虫で臆病なことか?」


「違うよ」


「じゃあ、なんだよ……?」


「光樹くんは他人に興味がないよね?」


「……それが、なんだよ?」


「人と関わることを恐がって、自分が傷つくことを恐れて、いつまで経っても前に進めない臆病者」


「……だからそう言ったじゃん……」


「でも底抜けに優しい」


「っ!」


「光樹くんの過去に何があったかは知らない。私だって同じだったよ。昔いっぱい嫌なことがあった。だけど私を救ってくれた人が言ったの。『*****』って。だから私にも言わせてほしい。『*****』」


「っ!!」


「私は今の光樹くんを見てるよ。不器用で、頑固で、能天気でたまにすごく辛そうな顔することがあるけど、底抜けに優しい。そんな相沢光樹を私、堂本朝香は大好きなのーーーーー!!!!」


 ***


「ん……あれ?」


 懐かしい夢を見た。朝香が俺に歩み寄ってくれた夢だ。

 どんなに俺が弱いところを見せて壁を作ったって平気でそれを乗り越えてくる。いや、破壊してきたと言った方が正しいか。


「俺ってば、結婚したのに朝香のこと何も知らなかったのかもしれないな」


 俺が結婚した朝香とタイムリープしてからの朝香はどこか性格が違うと思っていた。だけど、なんとなく確信してしまった。


 何回突き離しても朝香は俺に歩み寄ってくれてきた。なぜ? そう聞いてもあの時の朝香は「好きだったから」としか答えてくれていない。それに朝香を救ってくれた人の聞いても「さぁ? 覚えてない」って言ってたっけな。

 なんでこんな大事なことを忘れていたのか、今はまだ分からない。


 きっとその救ってくれた人っていうのが今のツンツンしている朝香を変えてくれたのだろう。


 くそ、マジで嫉妬。それは俺の役割だって言うのに一体誰だ!?


 まあ、ぶっちゃけ本音を言って終えばこう言う気持ちなんだけどそんな朝香を救ってくれてありがとうと言いたい。だって、その朝香から俺も救われたのだから──




 朝香に絶縁宣言をされてから一週間とちょっと。土曜日がやってきた。

 俺はとある情報筋からとある場所に来ていた。とある情報筋と言ったが、鈴木だ。鈴木に教えてもらって、朝香のいる場所を聞き出した。というより、朝香と遊ぶ約束を取り付けてもらったのだ。


 遊ぶ相手は鈴木と言うことで話は進んでいるが、実際に現れるのは俺。騙し討ちみたいな形になってしまったのはお叱りを受けるだろうが、許して欲しい。きっと朝香だったら優しいし、許してくれるよねっ!!


 鈴木も鈴木で協力してくれたのには訳がある。やはり、あれから朝香の様子を見ていると明らかに空元気である様子が見て取れたので逆にお願いされたくらいなのだ。「貸し一つね」と言われたが。


 そう言うわけで俺は、朝香が指定の場所に来るのを待っている。それは以前も待ち合わせに使った駅前の時計台の下である。俺がいると近寄らない可能性があるので近くで様子を見ているのだ。


「お、来た来た。何も知らずのこのことやってきましたな」


 一人でスパイごっこをしつつ朝香の様子を確認する。スマホで何か文字を入力しているように思える。おそらく時間になっても鈴木がこないことに違和感を覚え、メッセージを送ろうとしているのだろう。


 それでは漢、光樹。人生で一番の大勝負行って参ります。あ、一番はプロポーズだったか。


 ◆



 私は、杏奈と遊ぶ約束をしていた。

 テストも無事終わり、私も気晴らしをしたい気分だったので二つ返事でOKをした。きっと杏奈も私に元気があまりないことを察してくれていたのだと思う。そんな私を元気つけるために今日誘ってくれたに違いない。


「なんだか、杏奈に心配かけちゃったな」


 あれからどうにか気持ちを整え、どうにか以前のようにまで気持ちを落ち着かせることが形だけでもできたと思う。杏奈にはバレバレだったみたいだが。

 相沢とは、私が校舎裏に呼び出して以来、会ってもいないし、連絡もとっていない。


 あいつのことだからしつこく何度も私の前に現れたり、連絡をとってきたりするかと思ったがそんなことはなかった。なんだか拍子抜けしたのと同時に少しだけ寂しい気持ちもあった。自分から切り捨てておいてこんなことを思うなんて最低なやつだと軽く自己嫌悪した。


「それにしても杏奈遅いな……遅刻かな」


 私はスマホを手に取り、LINEを開いて杏奈にメッセージを送った。


『杏奈、どうしたの? 遅刻?』


 するとすぐに既読が付き、連絡が返ってきた。


『ごめーん!! 今日いけなくなっちゃった!!』


「えっ!? うそ……」


 楽しみにしていたのにショックだった。というより、ドタキャンするような子だったかな……

 しかし、続いて来たメッセージに驚き、二度見してしまった。


『でも安心して! 代わりのやつを送り込んだから!! 今日は楽しんで来て!』


「代わりってまさか……」


 なんだか嫌な予感がした。


「朝香! お待たせ!」


 スマホと睨めっこする私に声をかけたのは私が関わらないでと言ったはずの相沢だった。


「な、んでここにいるの?」


「なんでって約束だよ、約束。 朝香は約束を破る子だったのか? そうだとしたら俺はとても悲しいぞ! パパは朝香をそんなの子に育てた覚えはありません!!」


「だっ……ごほっごほっ!」


 だ、誰がパパよ!?

 そうツッコミそうになるのを喉元で押し留めた。その結果むせてしまった。

 いろいろとツッコミたいところが多い。


「なんでここにいるの? 約束なんて知らない! それならあなたこそ約束を守ってないじゃない! 私言ったわよね、関わらないでって!」


 代わりというのはきっと相沢のことなのだろう。私は今思っていることをそのままぶちまけた。


「残念でーす。俺は朝香と約束なんてしてませーん。あれは朝香が一方的に言ったことで俺は約束した覚えはありませーん」


「なっ!」


 あまりに悪びれる様子のない言い方にふつふつと怒りがこみ上げてきた。というか普通に顔がムカつく。


「それに!! 約束破ったの朝香だからな!!」


「だから約束って何よ!?」


「朝香はお礼でデートしてくれるって言いました。まだ約束を果たしてもらってません。だから今日はデートをします」


「デ……、それなら前に遊びに行ったじゃない」


「あれは無効ですーだ。だって朝香途中で帰っちゃったし。あの時の、置いていかれた俺の気持ちが朝香に分かるか?」


「そ、それは……」


 確かに置いて行ったのは悪かったと思ってる。唐突に罪悪感に襲われる。


「俺の気持ちがわかるのかぁ? 目の前でイチャイチャするカップルを横目に園内を走り回って汗だくになった俺の気持ちが分かるかぁ!!」


「ちょ、ちょっと泣かないでよ!!」


 相沢は急にブワッと涙を溢れ出した。


「うううう、ぅぅぅぅぅぅぅ……」


 うざい……


「はぁ……分かった、分かったから! 今日だけ。今日だけだから……」


 こんな人目の多いところで泣き出す相沢に嫌気がさし、私は仕方なく遊ぶことにOKを出した。


「よし、じゃあ、いこう! テンション上げてこうぜ!! レッツゴー!」


「……」


 私の返事を聞くや否や、ケロッとした様子で私の手を取った。

 コイツ……


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