第26話:GWデート② 〜朝香視点〜

 五月三日。今日は、友達と遊ぶ約束をしていた。

 友達と言っても同性ではなく、異性だ。約束していた時から向こうは舞い上がっていたが、これはデートではない。そう自分に言い聞かせた。


(あれ? そもそも友達なのかしら? クラスメイト……でもないし、あれ? 私と相沢の関係って一体……)


 電車で目的地である、遊園地に向かう際、そんなことを考えていた。


 相沢は初対面の私に向かって、プロポーズをしてきた男である。辛辣な言葉を浴びせてフッた後もしつこく、まるでストーカーのように私にアプローチを仕掛けてきた。


 周りに聞いた話によれば、一目惚れだそうだ。初対面なんだから当然だけど。

 私は、一目惚れというのがどうも苦手だった。だって、顔しか見てないし。

 そうでなくとも、私は、誰とも付き合うつもりはなかった。


 それでも、今回、彼と遊ぶこととなったのは、先日の看病のお礼だ。


 なぜかここのところ私は彼のことを気にかけてしまっている。その理由は、夢のせい。なぜだか、彼との夢を定期的に見てしまう。それも仲睦まじい様子の。


 大人になったアイツと私は、イチャイチャイチャイチャとしていた。夢の中の私も猫撫で声で甘え、彼もそれに応える。正真正銘のバカップルだった。


 そんな夢を見た朝はいつも動悸が激しい。恥ずかしさでいっぱいだった。同時に切なさもあった。


 最後に見たのは何の夢だったか。そうだ、あれはクリスマスの出来事。正確には一日遅れ。私が、彼からプロポーズされた夢だった。


「〜〜〜〜〜〜っ!」


 思わず、思い出した後に勝手に悶えてしまう。


(なに? なんなの!? 訳わかんない……)


 私は一旦、冷静するため、頭を降った。そしてもう一度、相沢のことを考える。

 さっきは夢のことで悶えたけど、別に特別な感情はないと思う。


(ないはずよ……)


 私は、そんな感情を持ってはいけない。そう自分に言い聞かせて集合場所へ向かった。



 ◆



「ねえ、大丈夫?」


「ああ、膝枕してくれたらきっと治る。絶対治る。して、お願い。ありがとう」


「いや、まだ何も言ってないんだけど」


 遊園地に入ってから一つ目のアトラクション。どうせなら目一杯楽しんでやろうと思って私はジェットコースターに相沢を誘った。


 だけど、意外なことに相沢は苦手だったらしい。

 乗り終わってからグロッキーになっている相沢に手を貸し、ベンチまで移動した。ゴールデンウィークということで空いているベンチを探すのにも一苦労だった。


「ねぇ……そんなにしんどいの?」


「うん。膝枕しないと死ぬ」


「お、大袈裟ね……はぁ、仕方ない。少しだけだからね?」


 ずっとこのままなんていうわけにもいかないので、恥ずかしかったが、その提案を呑むことにした。


「っしゃあ! じゃあ、失礼しまっす!!」


 私の膝の上に相沢の頭が乗る。あれ? こいつ元気では……?


 膝枕など初めて行う。それも異性に。


(うう……何これ、思ったより恥ずかしい……周りの視線も気になるし……これどれくらいやってればいいの? あ、そういえば。夢の中でも、膝枕してあげてたっけ? 確か、こうやって……)


 私は、無意識のうちに夢での内容を思い出して、私の膝に乗る頭を優しく撫でていた。


「あ、朝香!?」


 なんだか、癖になる。すごく、この行為が愛おしい気持ちにさせてくれた。


 ナデナデナデナデ。

 なんだか心地よい。落ち着く。


「あ、朝香さん?」


 道ゆく人たちは私たちを微笑ましく見ていたり、憎しみのこもった目で見られたりした。


「ケッ、こんなとこでイチャつきやがって!」

「よく、あんなところでやるよなぁ」

「若いわねぇ、私も昔は……」

「ねぇ、柚月。私もあれ、やってあげよっか?」

「え? いや、いいよ、恥ずかしいし……こんなところでする勇気ないよ」


 あちらこちらから視線を感じる。


(顔が熱い……何これ? 何の罰ゲーム? ああ、恥ずかしい……なんでそんなみんな見てくるの!? そ、そんなに珍しいかな……? 私と相沢のこと恋人とに見るのかな? だ、誰が恋人よ! 別にただの友達だし……。あれ? 友達って膝枕するっけ?)


 ナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデ。


「朝香、嬉しいんだけど、そんなにしたらハゲちゃう! ハゲちゃうからっ!!」


「ふえ? あっ!」


「ぐおっ!?」


 私は夢中で相沢の頭を撫でていたこと思い出し、その場から飛び退いてしまった。いきなりだったので、相沢はそのままベンチに頭を打った。


「あ、ご、ごめん」


「いやいや、いいよ、大丈夫。朝香のナデナデいただきました」


「うっ……も、もう! 治ったの?」


「おかげさまで完璧です」


 ……ほんとに治ったの?


 やや、懐疑的であったが本人がいうならということで気にしないことにした。


 今更ながら、周りを見渡すと、私たちを見ていた人たちは急に視線を逸らし、知らない顔でその場から移動し始めた。


 それだけの人に見られていたと思うと、また恥ずかしさがこみ上げてきて、顔が熱くなった。



「よしっ! 復活したことだし、気を取り直して次行こう! 次!!」


「ほんとに元気になったんだ……」


「それでどこ行く? あ、じゃあお化け屋敷行こうか! これぞ定番だよな」


 お化け屋敷……はちょっと苦手だな。別に幽霊とか信じてないけど。ほ、本当だからね!! 


「……」


「あ、怖いんだ?」


 先程の仕返し、といわんばかりにこちらをニヤニヤとしながら見てくる相沢。


「べ、別に? 苦手とかそういうんじゃないし!」


「あれ〜? 俺の記憶では朝香はお化け屋敷好きだった気がしたんだけどな……」


「記憶? 何のこと? というか、私そんな話したことないし、別に好きじゃないけど。お化けなんて、非現実的だし……」


「……ははん? なんだかんだ言ってやっぱり怖いんだな? カワイイ奴めっ!」


「はぁ!? いつ、誰が、何を怖いって言ったの!? 大体、遊園地のなんて、全部作り物じゃない! そんな子供騙し、小さい子はともかく、私は簡単には騙されないわ!! いいわ。そこまで言うなら行ってやろうじゃない!」


「よし、じゃあ今から行こう! さぁ行こう!」


「え? い、今から? ちょっ!?」


 売り言葉に買い言葉でつい、強気に発言してしまったことを後悔した。私は相沢に連れられて、お化け屋敷に向かうことになった。


 でも私は、このお化け屋敷に向かうことを後悔することになる。この時は、まだそんなことが起こるなんてまるで考えてもいなかった。

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