第29話:できそこないの告白
結局、俺のゴールデンウィークはそのまま何事もなく、終わりを迎えた。
鈴木には、「ごめん、調子悪くて連絡取れない」という連絡があっただけでその後、話せていないそうだ。
そして、ゴールデンウィーク明けの登校日。
「おっす、光樹」
「あ、おはよう、光樹くん」
「ああ、おはよう。拓磨、
校門をくぐってから俺に挨拶をしたのは、拓磨とその彼女である、真衣さんである。
朝っぱらからしかもゴールデンウィーク明けの憂鬱な日に、イチャイチャと目の毒である。さっさと失せろ、このやろうども!!
俺と拓磨、マークは昔ながらの幼なじみと言っていたが、真衣さんもそうである。
琢磨と俺とマークの関係は、保育園から小学校、中学校と同じであったのに対し、拓磨と真衣さんは家まで隣という根っから幼なじみ属性の持ち主である。まじでそんなやつらいるんか? というような甘々な生活をコイツらは送っている。中学の時は、毎日のようにケンカしていたけど、今じゃあ、紆余曲折あってラブラブ。まじでこいつらでラブコメが既に完結しているのである。
この主人公がっ!!!
「朝から目の毒だからイチャつくのは他所でやってくれ。こちとら傷心中なんだ」
俺は先ほど心の中で思っていたことをそのまま伝えた。
「あれ? お前、堂本さんと遊びに行くって言ってなかったけ? もしかしてなんかあった?」
「ああ、分かったフラれたんだ! 二度目のプロポーズ!!」
おい、こらそこのアマちょっと黙れや。拓磨よ、貴様も彼氏ならちゃんとしつけておきなさい!!
「こら、真衣。そんなこと本当のことでも言うなって」
グサリ。
「うっ。分かったよ、拓磨。ごめんね? ねぇ、私にはいつしてくれるの?」
「すぐにでもって言いたいところだけど、俺たちはまだ高校生だからな。現実的にもう少し先かな」
グサリグサリ。
「うん、待ってる!」
「ああ、待っててくれって。ってどうした、光樹? 肩なんか震わせて?」
「貴様ら、朝から何ラブコメしとんじゃああああああ!!!」
「うるさい、死ね」
「はぐぁ!?」
そこで登場した姉に思いきり、後頭部を鞄で強打された。
「悪いね、拓磨くん、真衣ちゃん。コイツ連れてくから、好きなだけイチャついてな?」
倒れた俺はそのまま姉にずるずると引きづられて、踊り場に投げ捨てられたのだった。俺、悪くないよね?
◆
そんな校門前からの一幕。
ゴールデンウィーク明けということでみんなの顔を見るのも久しぶりに感じた。
「相沢くん、おはよう」
「おはよう、柳さん」
「どうしたの? 元気ないね?」
「朝からちょっとね?」
俺は、少し誤魔化すようにそう言った。
「校門前でのこと? 私も見てたよ。だけど、それだけじゃないような……?」
なんだ、この子? エスパーか? 俺は別に朝のことで悩んでいたわけではない。あんなもの日常茶飯事なので俺の元気パラメータに影響はない。
いや、後頭部の一撃は予想外だったが。
俺が真に悩んでいることは朝香のことである。
「あ、えっと。話したくないならいいの。でも私、前に言ったようにいつでも相談乗るからね!」
「ありがと、柳さん。それより、焼けたね?」
「え!?」
「健康的や」
「やっぱり……? 部活の合宿で一年生の付き添うこと多かったからかな……ほら、二、三年生は体育館だけど一年生は外で走ってばっかりだったからね」
「うんうん、やや小麦色に焼けたその感じも素敵だと思います」
「あ、ありがと……」
恥ずかしそうな柳さんを前に俺は、少し感謝をした。なんとなく、強がりたい気分だった。
しかし、悩んでいても始まらない。俺はとにかく行動あるのみ。昼休みになったら一組へ行ってみよう!
そう思っていた矢先。
「ガララ」と我がクラスの扉が音を立てて開いた。
そして俺は扉を開けた人物を見て、目を見開いた。
「相沢、ちょっといい?」
「え? あ、うん?」
扉を開けて入ってきたのはなんと朝香だったのだ。
え? 朝香から俺に?
俺は廊下に出ようと立ち上がるが、
「ごめん、ここでいい。というより、すぐ終わるから」
「そ、そう?」
「昼休み、校舎裏に来てくれる?」
……? どういうことだ? 俺呼びされてる?
「あ、ああ。分かった。校舎裏だな?」
「うん、それじゃあ。待ってるから」
朝香はそのまま、教室から何事もなかったかのように出て行った。
「校舎裏?」
これって……これって!? 告白では!? う、うそ……やだっ!?
「あれって、堂本朝香だよな?」
「ええ!? ついに根負けしたのか!?」
「俺狙ってたのに〜」
「それなら最初からプロポーズしたらいけてたかもな」
「いや、それはむり。キモ過ぎだろ」
「でもあいつ射止めたじゃん」
「ぐぬぬ」
周りもザワザワと今目の前で起きた出来事にについて話している。おい、途中で誹謗中傷が聞こえたぞ!? ちゃんと聞こえてるんだからな! 覚えたぞ、中村!!
それでも!
「いよっしゃあああああああああ!」
「あ、あはははは、よかったね? 相沢くん……」
「ありがと、柳さん」
「ああーついに、相沢にも春かー」
「うっすうっす、カズさんもサンキュ!」
前から突然話に入ってきたカズさんに返事をし、俺は今日昼休みがくるまでウキウキの気分で過ごしていた。
◆
「私にこれ以上、関わらないでほしいの」
「はい?」
昼休み。俺は約束通り、校舎裏にきていたのだが、そこで朝香から俺が期待した言葉とは全く逆の言葉が発せられた。
待て待て待て待て、今なんて言った? 空耳か? なるほど、なるほどー。もう一度やり直すことにしよう。
「ごほん。やぁ、朝香。お待たせ。それで話って何かな?」
「私にこれ以上、関わらないでほしいの」
おかしい。これはおかしい。テイクツーをやったのにも関わらず、朝香は一度目と同じミスをしている。これはNGだ。監督が俺じゃなかったら、怒られているところだぞっ! このおっちょこちょいめっ!
こうなったらテイクスリーを……
「それだけだから。じゃあ」
「ちょちょちょ、待ってよ。いきなりそんなこと言われても俺、分からないんだけど……」
俺は、離れゆく朝香を呼び止める。
「そのままの意味」
「待ってくれ。本当に、意味が分からないんだ。俺、何か悪いことしたかな?」
俺は朝香の腕を掴む。その腕はびっくりするくらい細く、力を込めれば今にも折れてしまいそうだった。
「……おかしくなりそうなの」
「え?」
「あなたと一緒にいるとおかしくなりそうなの! 頭の中ぐちゃぐちゃになって。せっかく……せっかく忘れられると思ったのに……変われたって思ったのに……」
朝香が涙を流している。俺の瞳にはそんな朝香は心の底から苦しんているように映った。
「だから、あなたとはもう関わらない。お願いだから」
朝香は俺の手を振り払った。
このままではいけない、このままでは朝香と全てが終わってしまう。そう思った。
「好きなんだ!! 朝香のことが……好きなんだ……」
我ながらなんて幼稚なことをしているんだと心底嫌悪した。少しでも朝香に振り返ってほしくて。戻ってきてほしくて。別に付き合ってもないのに未練がましく、追いすがる。そんな自分が、昔のままの自分が振り向いた朝香の瞳に映る。
「そういうところが嫌いなの……もう近寄らないで」
朝香はそのまま、その場から去っていってしまった。
そこには、無力でちっぽけな、朝香と出会う前と何も変わらないままの自分が取り残されていた。
なんだこれ……? おかしい……胸が痛い。
なんでこんなことになったんだ……? 分からない……
誰か、教えてくれ。俺はどうすればいい?
朝香。教えてくれよ……
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