第30話:青春の1ページ 〜柳瞳視点〜
「ぅぅぅぅぅぅ、ぅぅぅぅぅ」
「うるせぇ、相沢」
今日から中間テストに向けてテスト期間に入る私たちは、放課後、教室でテスト勉強をしていた。部活はテスト期間の間、休みとなる。勉強をしているメンバーは私と松井くんと相沢くんだ。
相沢くんが朝香ちゃんから呼び出されて三日。相変わらず、相沢くんは沈んだままの様子だ。相沢くんは机に顔をもたれさせながら涙を流している。そんな相沢くんに松井くんが辛辣な言葉をかけていた。
三日前のお昼休み、呼び出された相沢くんはルンルン気分で教室を出て行った。しかし、帰ってきた時には、今にも死にそうな顔をしていたのを覚えている。
私は、相沢くんに何があったかを聞いたが、相沢くんは「何もないよ」と答えたきり話してくれなかった。
だけど、その様子からなんとなく、察しはついている。きっと朝香ちゃんと何かがあったのだ。
朝香ちゃんにそれとなく聞いてもどこか上の空で「何でもない」と言っていた。
「ううううううう、うううううううう」
「あああああ、うるせぇ!!! おい、相沢、振られたぐらいで、うじうじうじうじ、お前はそれでも男か!?」
松井くんは周りが触れてこなかったことに初めて触れた。振られたというのはみんなわかっていたけど、あまりの落ち込みようにどうしても言えずにいたのだ。
「今だけ、女の子だもん……」
「何、気色悪いこと言ってんだよ」
「いいよなぁ、カズさんは。バスケのことだけ考えてたらいいんだもんよー」
確かに松井くんは毎日のようにバスケのことを考えている。それくらいバスケのことが好きだ。だけど、相沢くんの言い方はそれを馬鹿にしたような言い方だと思った。
「おい、てめぇ、相沢、立て」
「なんだよ、カズさん」
そういうと、松井くんは相沢くんを立たせた。相沢くんは言われるがままに仕方ないと言った様子で立っている。
「へぶっ!?」
「え!? 松井くん、何してるの!? あ、相沢くん大丈夫!?」
私は思わず、悲鳴をあげてしまう。
驚くことにいきなり松井くんは相沢くんを打ったのだ。
「ムカつくんだよ、今のお前見てると」
「ああん? なんだとう!? このドチビが何か言ったか?」
「誰がドチビだ、ボケ!!」
強い言葉の応酬に教室に緊張が走った。
「俺はな……楽しみにしてたんだよ」
「なん、の話だよ?」
「お前の三中の時のプレー、良かったよ。お前も高校でバスケやるもんだと思ってたのによ」
「松井くん……」
私もその気持ちは少し分かる。私も中学の時に見た相沢くんのプレーは覚えている。格上相手にも最後まで諦めずに楽しそうにバスケをしていた姿を。そんな相沢くんがバスケをやらないと聞いて私も残念に思っていた。
「なのに高校入ったら、バスケに目もくれず四六時中、女のケツばっかり追いかけやがって。この腑抜けが。うっとおしいんだよ!!」
「うるせぇ、てめぇに何がわかんだよ!!」
「分かるかよ!!!」
「ちょっと、二人ともやめて!!」
二人は段々、言葉尻が強くなっていき、ついには取っ組み合いを始めてしまった。私はどうしていいか分からず、二人に声をかけるがおさまる様子はない。
コンコン。
そこへ、教室の入り口の柱を誰かが叩いた。そちらに視線を向けると男子生徒がもたれかかっている。
「佐熊くん?」
「お二人さん、ちょっと熱くなりすぎ」
「佐熊」
「……何のようだよ、拓磨」
「いや、光樹が堂本さんに振られたって聞いたからな。様子を見に、もとい、からかいに来た」
「っち。どいつもこいつも……」
相沢くんは苦虫を噛み潰したような表情をした。あまりに佐熊くんがストレートにいうものだから相沢くんはやりづらそうにしていた。
「カズさんも熱くなるのは分かるけど、殴るのはよくないぞ? 先生見てたら停部になっててもおかしくないからな」
「……悪い」
「それに光樹も。振られたからってカズさんに八つ当たりするのは、はっきり言ってダサい」
「お前も俺に喧嘩売りに来たのかよ?」
佐熊くんの言葉にまた、語威を強くする相沢くん。また、一色触発だ。
「いや……俺は喧嘩を売りに来たんじゃないよ」
「じゃあ、何しに来たんだよ? 俺が振られたことがそんなに面白いか?」
「まあまあ、面白い」
「てめぇ……?」
ちょ、佐熊くんは何しに来たの!? さっきの相沢くんと松井くんの争いを止めたと思ったら、また煽り出した。
「というわけで、この決着はバスケで付けよう!」
え?
「「はぁ?」」
あまりに唐突な提案に松井くんと相沢くんが素っ頓狂な声をあげた。
「なんだよ、バスケだよ、バスケ。俺らバスケ部だろ? 光樹は違うけど。それならこういうのは1ON1で決めるってのが筋ってもんだろ?」
ニカっと笑う佐熊くんはどこかのアイドルのように思わせた。ま、眩しい!?
「はぁ……わあったよ。拓磨が言うなら」
「っち。しゃあねぇか……」
そんな佐熊くんを見て、二人は観念したのか毒気を抜かれたのか、諦念のため息を漏らしながら同意した。
そうして、私たちは、テスト期間のため使われていない体育館へ向かうことになった。
「拓磨ー!! あ、ここにいた! 探したんだよ?」
「真衣。悪い悪い。ちょっとこいつらに用があってな……」
廊下の影から現れたのは、佐熊くんの彼女さんである真衣ちゃんだった。女子バスケ部である彼女とは男バスのマネージャーでもある私と仲良くしている。
「こいつら? あー! 最近、振られたばっかりで落ち込みまくってる光樹くんじゃん!!」
ピシィと空気が張り詰めるのがわかった。
先ほど佐熊くんがどうにか宥めたばかりだと言うのに、真衣ちゃんはそんなことつゆ知らず、核心をついてしまった。
「ドンマイドンマイ! そういうこともあるよ。いやーそれにしても残念だったねー! ほら元気だしなよ。あははは」
真衣ちゃんは肩をプルプルと震わす相沢くんをまるで気にもしないで、笑ながらバシバシと背中を叩いていた。
「うるせぇぇぇ!!! もう! 先行ってるからな!!」
それに我慢できなくなった相沢くんは声を張り上げて、一人で廊下をズンズンと進んで行った。
「ありゃ、なんか怒ってたのかな?」
「真衣、後で説教」
「ええ!? なんでー!!?」
相沢くん大丈夫かな……
私は先に行った相沢くんを心配しながら、体育館へ向かった。
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