第7話:嫁の隣にいる少女 〜嫁友?視点〜

 入学式の翌日といえば始業式。

 私、鈴木杏奈もついに華の女子高生として新しく、春を迎えることができた。私はこれからの毎日について考えるだけでワクワクしていた。


 まず、初日に友達ができたこと。これが一番大きかったかもしれない。私の出身中学からこの若宮高校に入る人は他にはいなかった。


 この学校は割と校区周辺の地域出身の子が多いみたいだったので、周りは入学前から既に友達関係が出来上がったいる様な状態だった。


 なので周りに友達もおらず、喋る相手もいなかった私は少し、不安な気持ちを抱えながら入学式に臨んだ。でもそこで出会ったのは、私と似た様に他の子と喋らず、少し緊張した面持ちでいた子だった。


 それが朝香だった。

 最初に話しかけたのは私から。朝香とはすぐに仲良くなった。新入生代表だったと知ったのは、代表挨拶で名前が呼ばれた時。まさか話しかけた子が成績トップで入学したとは思わず、驚いてしまった。


 それから、私たちはすぐに仲良くなれた。私はすぐにこの子とは親友になれる気がした。


 それにしても朝香はすごい美人だ。話しかけた時からそうだったが、未だ中学上がりとは思えないほどの色気を感じる。代表挨拶では、男子の視線がほとんど釘付けだった様に思う。

 これは、すごくモテる予感......そう感じずにはいられなかった。



 そしてその直感は当たる。なんと入学して早々、朝香に告白してきた男子がいたのだ。教室を出たところ、人目も憚らずその男は朝香に告白した。告白?というよりはプロポーズ的な何かだった。


『幸せにするので結婚してください!!!』


「くふふ」


 今、思い出しても笑える。

 普通、初対面で告白なんてする?しかも、入学式当日。周りに保護者もたくさんいたのに。勇気があるというより無謀だと思った。


 しかも、その男、朝香に釣り合うかと言われればそうでもない、平凡な男だった。


 その言葉を受けた朝香の返しもまた面白かった。


『初対面でプロポーズはキモい』


 キモいって。くふふ......

 ちゃんと返してあげるだけ朝香の優しさが垣間見えた瞬間だった。今思い出しても.......


「くふふ、あはははははは!!」


「おはよう。朝から何笑ってるの?元気だね?一人でに急に笑ってたから不気味だったよ」


 玄関で後ろから声をかけてきたのは朝香だった。


「ああ、おはよ、朝香!!いや、昨日の思い出したら止まらなくって......」


「そ、そうなんだ......そんなに面白かったかな?」


 なんだか朝香は歯切れが悪い様子。これは反省。私にとっては面白いことでも当事者にとっては嫌なことかもしれない。


「ごめんごめん。さっ!教室いこ!」


「う、うん!」


 朝香も何かを思い出していた様子で少し戸惑いながら教室へ向かった。





 始業式を終え、私たちは教室へ戻ると実力テストを受けた。私もそこまで頭が良い方ではないが、手応えは感じた。


 全ての教科を終え、自席で一息ついていると隣の男子から声をかけられた。


「テストどうだった?」


「うーんと、まあ普通かな?」


 この人の名前は確か......


「佐熊くんはどうだったの?」


「んー......俺も、ふつーかな?」


 佐熊くんは少し、顎に手を載せて考える仕草を見せた後、爽やかな笑顔で答えた。その仕草は様になっていた。女子からモテそうな子だと思った。


「それで聞きたいことあるんだけださ」


「なに?」


「鈴木さんって堂本さんと仲良いの?」


 昨日から私が朝香と一緒にいるところを見ていたのだろう。私は勘付いてしまった。


 ははん?なるほど。昨日の今日で、朝香も罪作りな女だね。初日からこんなにモテて大丈夫かな?まぁ佐熊くんはイケメンだから朝香も嬉しいかもしれないけど......


「あ、ごめんごめん。勘違いしてるな!俺、別に堂本さんが気になるわけじゃないから!」


 あら?違ったのか。


「ふーん。それじゃあ何?私に興味あるの?」


「いや、それも違う」


 即答されると微妙に傷つく......


「ごめんごめん、堂本さんも鈴木さんも素敵な人だとは思うけど、俺彼女いるから」


 ちゃっかり彼女いる宣言。しかも彼女がいるにも関わらず、素敵だと?こいつ、できるっ!!


「じゃあ、朝香に何の用?」


「えっと、俺の友達がさ、堂本さんに一目惚れしたらしくてさ。どんな子なのか聞いてあげようと思ってな?」


 なるほど。そういうことだったのか。しかし、イケメンだし、性格もいいなんてそりゃ、彼女いてもおかしくない物件ね。


「ちなみにその友達はどんな人なの?」


「......あー......」


 佐熊くんは言葉に詰まって何か言いづらそうにしていた。何だろう、紹介しにくい子なのかな?


 私は自前のお茶を入れたペットボトルのキャップを開き、渇いた口を潤すため飲み口に口をつけた。


「昨日、プロポーズしてた奴」


「ぶっ!?」


 吹き出しそうになった。というか、半分溢れた。

 ふふふ、嘘。そんな......ダメだ.......


「あっはははははは!あれが佐熊くんの友達なの!?あはははははは!!」


「いや、鈴木さん笑いすぎ......」


「ごめん、ごめん。そうなんだ......でももう無理じゃない?初対面でいきなりプロポーズだよ、私だったら無理っ!ぶふ......」


 ダメだ、笑いがこみ上げてきてまともに話すことができないっ!!


「ま、まあそうだよなぁ......」


「まあ、どうしてもって言うなら朝香に聞いてみるよ。ってあれ?朝香は?」


 私は今頃になって朝香が教室にいないことに気づいた。いつ出ていったのだろう?もう帰ったのかな?


 そう思った時、教室の入り口から朝香が入ってくるのが見えた。その顔はどこか疲れている様にも思えた。

 どこかに用事でもあったのかな?

 私は気になってどこに行っていたのかを朝香に聞いた。


「どこ行ってたの?」


 すると、その答えはまさかのものだった。


「告白された......」


 ええ!?二日連続!?って言うことはまた昨日の!?

 私は思わず、プロポーズ男、略してプロ男の友達である佐熊くんを見た。


「いや、あいつもさすがに二日連続はないと思うけど......」


「うん、昨日の人じゃない。別のクラスの男子だった。一目惚れだって......」


「そ、それでなんて答えたの?」


「ちゃんとお断りしたわ。だけど、なんか無理やり迫られちゃって......逃げて来ちゃった。私、ああいうの苦手なんだ......一目惚れとかもそう......」


 だから少し、元気がなかったのか。

 そしてそんな朝香から少し話を聞いた。




 なるほど。話を聞けば、朝香はよく一目惚れで告白されるそうだ。告白されること自体そんなに得意でない上に、容姿でばかり判断する人が苦手とのことだった。それに大抵そういう人は断ると逆上して迫ってくるそうだ。そりゃ、嫌になるよねと、朝香に少し同情した。もしかしたら昨日のも相当嫌だったのかもしれないのに何回も笑い話にしてしまって申し訳なく思った。


 そんな話を聞いて、昨日のプロ男の友達である佐熊くんは大層、気まずそうな顔をしていた。


 そして私はというと決心した。私が朝香を守るのだ、と。こんな可愛い朝香を悲しませる男なんて許さないぞ、と。朝香にとってありがた迷惑かもしれないが、相応しい男かどうかは私が判断させてもらう!


 友達になって二日目にして私は親友を守ることを誓った。


 その時。


 教室のドアが勢いよく、開いた。


「すみません!堂本さんいらっしゃいますか!?」


 昨日のプロ男だった。

 先程まで笑いのタネだったが朝香の話を聞いてから笑えなくなった。

 また性懲りもなく来やがったと私は思い、無言、そして笑顔で彼に近づいた。


「な、なに?」


 そんな私にプロ男は少しの動揺を見せる。

 そして。


「朝香に近づかないで!このストーカー!!」


 ガシャンッ!!


 私は勢いよく、ドアを閉めたのだった。






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