第28話:GWデート④
なんでこんなに遊園地の自販機に売られている飲み物は高いのか。まずはそこからだ。
通常プライスなら150円以下である、ペットボトルに入った水はここでは200円で売られている。つまりは、ボッタクリだ。こんなこと言うとどこかからお叱りを受けるかもしれないので心のうちに留めておく。
そんなこんなで水を二つ買って、俺は元へ歩いてきた道を戻る。人が多すぎて迷子になるんじゃないかと思ったが、あのバカでかいお化け屋敷を目標に歩いていれば問題ない。
「おい、雪子待てって! さっきの子は?」
「別に! 何でもいいでしょ!」
「ちょ……!?なんでそんなに怒ってるんだ?」
「怒ってない!」
俺の横を一組のカップルが口論しながら通り過ぎていく。
なんだ、喧嘩か? 遊園地に来てまで喧嘩とはいかんぞ? 楽しまきゃそんだべさ。
「わぷっ!?」
そんなことを考えていると人混みに流されそうになる。
そしてようやく、その人混みを抜けて、お化け屋敷近くのベンチまで戻ってこれたのだった。
「……あり? 朝香?」
場所を間違えたか? そう思い、周りを見渡せど先ほどまで朝香と座っていた場所はここで間違いない。そこにはすでに朝香の姿はなく、別のカップルがイチャイチャと座っていた。
「はい、ゆーくん。あーん」
「あーん」
「おいちいでちゅか?」
「おいちいでちゅ」
「あの、すみません」
「「ひゃあ!?」」
俺は目の前で繰り広げられていたイチャ付きを物ともせず、そのカップルに話しかけた。
「な、なんですか?」
男の方が慌てて取り繕いながら、聞き返す。
あれ? 赤ちゃん語じゃなくていいのかな? 俺もでちゅって言った方がいい?
「さっきまでこのベンチに女の子座ってませんでしたか?」
「女の子?」
「ああ、さっきのあの子じゃない? なんか元気なかった気がしたけど」
「さっきまでここにいたんですね!? どっちいったか分かりますか?」
「あ、え、えっと。あっちかな?」
「ありがとうございます。でちゅ」
俺はカップルにお礼を言って、指の刺された方向へ向かって一気に駆けた。
(元気なかったでどういうことだ……? 確かに気分は良くなさそうだったが……)
心の中で感じた疑問を押し留め、今は朝香を探すことにした。あれほどの美少女だ。俺であれば、すぐに見つけられる。なんたって俺は朝香と赤い糸で結ばれてるからね!!!
◆
いや、どーすんのこれ。全然見つからんのだけど。誰だよ、赤い糸で結ばれてるから直ぐ見つけられるとか言ったの。バカか?
ここで俺のポケットに入っていたスマホがブルルと震えた。
そこで俺はハッと思い出す。
(スマホで連絡を取ればよかった……)
人類が誇る文明の利器を使わずして何が現代人か!!
夢中で園内を駆けずり回った結果、初歩的なミスをしていた。
俺はスマホを手に取り、きていたLINEを早速見た。
相手は朝香だった。
『ごめんなさい。用事ができたので帰ります。荷物はそのままにしておけなかったので、出口付近のコインロッカーに入れています。番号は45、暗証番号は****です』
「帰っ……た……?」
帰ったこともショックではあったが、それより俺はこの文面に違和感を覚えていた。丁寧すぎるのだ。
連絡先を交換してから、他愛ない話を何度かふったがその返信はいつもきついものだったり、スタンプだけだったり。既読無視なんてのもザラだった。
これは断じて、嫌われている訳ではない。きっと照れ隠しだ。そうに決まってる。そうだと言って!!
と、そんなことは置いておいて、そんな俺に対して雑に振る舞う朝香がこれだけ丁寧な文章を送ってくるに疑問が湧くのは当然だった。
『なにかあった?』
俺は試しに朝香に聞いてみる。そしてすぐに既読がついた。
「……」
しかし、待てども待てども返事が返ってくることはない。つまり、既読無視だった。
これは、何かあったと思うしかないだろう。いくら雑に俺を扱っていても、約束していた相手を放り出して帰ってしまうなど、朝香がするとは到底思えない。
俺は、すぐにコインロッカーへ向かった。
そして自分の荷物をチェックし、慌てて入り口から出て行った。まだ、昼に差し掛かったくらいの時間だ。そんな時間に慌てて出ていく俺を周りの人たちは不思議そうに見ていた。
(まだ今なら間に合うかもしれない)
俺は駅に向かって全力で駆けた。
「はぁはぁはぁ……」
結局その後、俺は彼女の姿を見つけることができなかった。
そして、俺は遂に彼女の住むマンションの前まで来てしまっている。
「何してんだか……マジでストーカーっぽいな」
自嘲気味にそう言う。
今、きっとチャイムを鳴らしても彼女は出てくれないだろう。そんな予感めいたことを考えながらも意を決してオートロックで呼び出しをした。
「……やっぱり出ないか……それともまだ帰ってないのか?」
まだ、帰っていない。そんな可能性を考慮して、もう一度駅方面へ向かう。駅周辺以外はまともに栄えている部分がないので、どこかにいるとしたらそこくらいしか思い当たる部分がなかった。
しかし、結局駅について周りを探し回ったが結果は同じだった。
「やっぱり家にいるのかな?」
もう一度行こうかそう決めた時。
「相沢?」
声が聞こえた方を見ると、そこには部活帰りの鈴木の姿があった。
「あ、鈴木! いいところに! 朝香見なかった!?」
「え? あ、ちょっと! 近いってば!」
「わ、悪い」
「その……朝香がどうかしたの?」
「いや、えーっと、実は──」
俺は鈴木に簡潔に出来事を話した。
朝香と遊びに出かけていたこと。途中で帰ってしまったことなど。朝香が俺と遊びに行っているとは聞いていなかった様子で鈴木は少し、狼狽えていた。
「なるほど……確かにそれは心配ね。ちょっと、待ってね。私から連絡してみるから」
それはいい案だ。俺なら既読スルーされてしまうが、朝香との親密度が高く、事情を知らない鈴木なら何か答えてくれるかもしれない。
しかし、それ以降待てども朝香から鈴木へ返事がくることはなかった。
「やっぱり、もう一度家いくか……」
「今日は、もうやめときなさいって。ほっといて欲しいんでしょ、きっと……今は心配だけど、また学校が始まったら会えるんだから、それまで待ってなさい。明日以降も私が連絡してみるから」
俺が軽く呟いた内容を鈴木に聞かれたみたいで鈴木に窘められた。確かに鈴木の言うことも一理ある。というかまた、俺は朝香のことで周りが見えなくなっていたみたいだ。
「そうする……」
「何があったか知らないけど……」
「?」
「元気出しなさいって!」
「いたぁ!!」
鈴木に思い切り背中を叩かれた。一体どういうことだ?
「じゃ、私は帰るから。また、学校で」
「あ、ああ。ありがと」
俺は鈴木に別れを告げて、自宅の方向へ歩みを進めた。
(どうしたんだ、朝香……)
告白しようとしていたが、記念日は思わぬ形で終焉を迎えてしまった。
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