第27話:GWデート③
ジェットコースターからのグロッキー状態からも回復したその後、俺は強気に出る朝香をお化け屋敷まで連れてきていた。
あそこまでジェットコースターで気持ち悪くなるとは予想外だった。ただ、高いところが苦手だっただけなのに……
しかし、朝香の膝枕により復活した次第である。あの太もも、やはりやみつきである。女子の太ももはええの〜。
「ねぇ、本当にいくの?」
「なんだ、やっぱり怖いのか?」
「べ、別に? あんたがビビるんじゃないかって思っただけだから!」
入り口前でビビるを朝香を見て思う。カワイイと。
本人は強がっているようだが、俺の目からみても明らかにビビっている。それもそのはず、このお化け屋敷、日本で一番怖いと言われているお化け屋敷でもある。ぶっちゃけ俺もやや怖い。
しかし、ビビるよりもラッキースケベ的展開の方に妄想の舵を切っているため、朝香ほど感情を前に出すほどではないのだ。
それにしても、なんだか俺の記憶との食い違いがよく発生している。
そんな少しの違和感を覚えながらも俺は入り口へと進んでいく。
スタッフに促されながらも前の組みが一定のところまで進むのを待っている状態だ。
朝香はというと、少しブルブルと震えながら俺の腕にしがみついていた。
うん、役得。
「まぁ、そんなにビビってるならやめてもいいぞ? それに怖くなったら途中で危険できる緊急避難用の出口あるみたいだからな。無理はするなよ?」
コクコク。
無言で頷く、朝香。先程の強気はどこへやら。普段強気な彼女が見せる恐怖に若干興奮を抑えきれない。やべぇ、変態性が滲み出る。
「次の方どうぞ」
そうしてようやく、俺たちの組みが入れる順番になった。
朝香は相変わらず、俺に抱きついたままである。
あかん、昇天しそう。怖すぎてではない。朝香が可愛すぎてだ。
暗がりの道、狭い通路を俺と朝香は進んでいく。まっすぐ進んだ所で暗くてもわかるように棺桶が置かれている。あそこから明らか何か出てきそうな感じがある。
朝香もそれが分かったのか、かなり足取りはゆっくりだ。
そうして棺桶の前まで来た瞬間、「ガタン!!」と音がなる。
「きゃあああああああああ!!!」
きゃあああああああああ!!!
朝香の大きなふくらみが俺の二の腕を襲う。俺も心の中で朝香と同じように叫んでいた。た、たまらん!!
しかし、音のなった方を見てもそこには板しかなかった。どうやら仕掛けでそれが倒れたみたいだ。
朝香もそれに気づいたのか、思ったより大した仕掛けでないことに安堵したのか、軽口を叩く。
「な、なんでこんなところに板なんてあるのよ! こんな安っぽい仕掛けにび、びびるやつなんているかしら?」
「なんで俺の方をチラッとみる?」
「べ、別に〜? あんたがびびってないか、確認しただけよ。しただけ!」
「その割には朝香、めっちゃ叫んでたけどな」
その一言に朝香の顔が少し、赤らむ。そしてハッと何か気づく。
「……こういうのって雰囲気が大事じゃない? やっぱり作り手もお客さんが怖がってくれる方が嬉しいと思うのよね。だから、これはあくまでフリなの」
「フリ?」
「そ、そう! 怖がっているフリ!」
「じゃあ、それは?」
朝香が強がるのが面白くなったので、俺の正面に立って堂々と嘘を付く、朝香の後ろを指差してそう言った。
「そ、それ? それって何よ? 何!? 振り返らないから!! 絶対振り返らないからっ!!」
朝香は「あーあー聞こえなーい」といいながら耳を塞いでしゃがんだ。
不覚にもその行動に萌えた。
まあ、正直、いつまで経ってもこの場から動かないわけにもいかないので、後ろには何もないことことを教えて次に進むことにしよう。
「朝香、嘘嘘。後ろには何もないよ」
「……ほんと?」
目を瞑っていた朝香は片目を開けてこちらを上目遣いする。何この子、襲ってほしいのかしら。
そして、ゆっくりと後ろを振り返り、何もないことを確認した朝香は「ほっ」と胸を撫で下ろし立ち上がった。
「あで!? なんで!?」
そしてすぐに俺の方に向き直り、頭をはたいた。
「今のはあんたが悪い、ふん!」
そう言って朝香はづかづかと前へ進んでいった。
今更だけど、このお化け屋敷に入ってまだ板が倒れる音でしかビビってないよ?
そして、また悲鳴とともに慌てて戻ってきた朝香に抱きつかれて、苦笑しながらも一緒に前に進むことになった。
その後、朝香は何度も悲鳴をあげ、いい加減俺の鼓膜も限界を迎えそうになったところで朝香が腰を抜かし、ここでリタイアとなった。
「大丈夫?」
今度は俺がベンチで休む、朝香に声をかけた。
「むり……ちょっと休ませて……」
「俺ちょっと水買ってくるよ。ここで待ってて」
「ありがと……」
俺はそう言って朝香から離れて自動販売機を探しに行った。
◆
「はぁ〜」
ため息が溢れる。あんなにお化け屋敷が怖いとは思ってなかった。少しだけ気分が悪くなってしまった。
相沢が水を買いに行ってくれている間、私は先程のことを思い出していた。
お化け屋敷で怖がる私に、軽く茶々をいれつつも優しくリードしてくれたこと。私が怖くて泣きそうになった時は、ゆっくり抱きしめてくれたこと。
(あれ? よく考えたら大胆なことしてない?)
そのことに気づいてまた、顔が熱くなる。少しだけ、気分が気分の悪いのが治った気がした。
「あ〜怖かった〜!! ねぇ、次どこいく?」
「お前、元気すぎ……」
「仕方ないでしょ! ストレス発散!」
「いや、どんな発散の仕方だよ……俺なんて何回腰抜かしたことか……」
「あはは、修二ビビリだもんね」
ここでお化け屋敷の出口から一組のカップルが出てくるのが分かった。声だけで判断すると女性はお化け屋敷なんて全然怖くないようで、とても元気な様子だ。それに引き換え、男性の方は、どこか情けないといった印象を受けた。
だけど、この声聞いたことがある。
そこで私は顔をあげて二人を見た。
「あっ……」
その二人、正確には女性の方を見て、私は大きな声を出してしまった。開いた口が塞がらなかった。そして、その声に気づいた女性と目が合う。
女性もかなり驚いたようにこちら見ていた。そしてすぐに顔を硬らせ、男性を置き去りにしてこちらへ向かってぐいぐいと歩み寄ってきた。
「あんた、こんなところで何してんの?」
「雪子……」
声が出ない。かろうじて出たのは目の前の女性の名前だけだった。
「何か言えよ」
雪子は何も言わない私に強い口調で悪態を吐く。そして、座っている私の隣にある男物の、相沢の鞄に視線を移した。
「ふ〜ん。あんた男と来てんだ。へぇ〜そう……」
雪子は冷めた目で私を見続ける。私は雪子に視線を合わすことができず、下を向いていることしかできなかった。
「……人殺しのくせに」
そして雪子の口から冷たく言い放たれたその言葉。それは私の胸の中に深く刺さり、刺さったところから徐々に私の心を冷たくしていくのが分かった。
「こら、雪子。いきなりどうしたんだ?」
「いいよ、修二。いこ」
「あ、こら。すみません……」
雪子と一緒にいた男性は最後にこちらに頭を軽く下げると雪子と一緒にその場から立ち去った。
ベンチには私だけが取り残されていた。
(なんで……? 苦しい……何してんだろ、私……)
涙が止まらなくなり、私は相沢が帰ってくるのを待たず、その場から逃げてしまった。
後で相沢には帰ること、そしてカバンはコインロッカーに入れておいたことをLINEしておいた。
相沢にはなんとなく、こんな私を見られたくなかった。
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