第1章:二度目の青春編&堂本朝香編

第1話:結婚は人生の墓場……ではないっ!!

『結婚は人生の墓場である』


 さて、嘆かわしいことに現代の社会にはこんな言葉が蔓延っている。


 結婚をしてしまったら自由のない死んだような生活が待っている


 そんな意味で深く浸透している、この言葉は、元はフランスの詩人、シャルル・ボードレールが当時流行っていた伝染病に対して言った、戒めの言葉である。それが何を間違ったのか誤った訳として日本に伝わり、そのような言葉、そして意味となった。


 しかし、この詩人が言った言葉の本当の意味は全く真逆の意味なのである。

 その意味を正しく理解すると次のようなことを伝えたかったのだとされる。


『唯一の愛する人と生涯を誓い、人生を全うしなさい』


 今となっては失われてしまったその言葉の意味を真に理解できる夫婦というのはこの世の中にどれくらい、いるだろうか。


 先に述べた言葉のように近年では、世間で結婚に対してマイナスなイメージが付きがちである。

 そして世の中の三割は離婚をする世の中になってしまった。


 低賃金でロクに家事もしない、だらしない夫もいれば、夫の愚痴を溢しながら、働きもせず、お金を散財する妻だって存在する。


 まさに結婚は人生の墓場。


 そう言われるのも納得したことだろう。


 だが、そういった世間の声は間違いであると俺は断言する。

 だって俺はこんなにも幸せなのだから。



 現在、俺の目の前には純白のウエディングドレスを纏った、それはもう天女のように美しい女性がいる。大きな瞳に、艶のある唇。白い肌は雪を思わせる。


 同じように俺もいつもは着ない白のタキシード姿でビシッとキメて彼女の目の前に立つ。


 今日、俺こと相沢光樹あいざわみつきはこの女性、相沢朝香あいざわあさか、旧姓、堂本朝香と晴れて夫婦めおとの誓いを立てる。


 横では神父が誓いの言葉を述べている。


「まだ、始まったばかり。結婚はこれからが地獄だ」と先人は言うかもしれない。だけど俺はそれを全力で否定する。俺は彼女をこれからも愛し、一生を以て添い遂げる。彼女を世界一、いや宇宙一の幸せ者にする。彼女だってきっと同じ気持ちでいてくれている。


 何億、何千といる人間の中、こうやって二人の人間が結ばれたのは奇跡としか言いようがないのだから。……これは、ちょっとクサすぎかな。



「それでは誓いのキスを」


 神父の言葉に従い、観衆が見守る中、俺は彼女の頬へ自分の唇を近づける。

 彼女のその時の顔はとても安らかで美しく、心から愛を感じた。


 そして頬に優しく触れる。この一秒が永遠に続けばと思えてしまうかのような瞬間であった。

 そして唇を離す時、俺は彼女に囁く。


「愛してる」


 彼女は少し、驚いた顔に頬を赤らめ、同じように優しい口調で返した。


「私も。愛してる」


 小さい声で俺たちにしか聞こえないやりとり。もしかしたら神父さんにも聞こえてたかもしれない。だが、平気だ。愛を誓うこの場で囁く愛の言葉。今は、神父も両親も親族も友人も上司も同僚も、神でさえも俺たちのことを祝福してくれている。


 ああ。なんて最高に幸せなんだ!俺は宇宙一、いや銀河一幸せな男だ──





「こらぁ! 相沢君!!! 何を寝てるんですか!!」


 唐突に目が覚めた。いや、起こされたと言う方が正しいのかもしれない。

 俺は大きな声により、無理やり意識を覚醒させられ、勢いよくその場に立ち上がった。


「……?」


 周りには制服姿の学生の姿が見える。そして懐かしい教室の風景。なんだ?これ?


 俺を大きな声で起こしたのは、目の前にいる坊主頭の男。

 あれ? 懐かしいな。確か、この男は中学一年生の時の担任だった奴だ。名前は……えーっと思い出せない。ああ、そうだ、確か生徒間であだ名を付けてたな。学校があった区域で徘徊する謎のおっさんと似てるというだけでつけられたあだ名が。それは……


「ピルン!!」


 俺がその一言をあげると教室は静まり返る。というより、元々静かだったのだが、より一層、シーンとなった気がした。


「「「「ぶははははははっは」」」」


 なんだ?

 教室中が爆笑の嵐。そしてピルンと呼ばれたその坊主頭の先生は顔を真っ赤にして肩を震わせている。


「相沢ぁ!! 後で職員室に来なさい!!」


 はぁ?


 そしてそれと同時にチャイムが鳴り響いた。ピルンはそのまま教室から出ていった。


「はっはつは、コウ、お前最高すぎ」


 教室で事態を把握できずに、座っている俺の元に一人の少年がやってくる。懐かしい、コウと呼ばれるのも学生時代以来だ。そしてそのはにかむ笑顔が素敵な少年を見て俺は驚き、慄いた。


「ま、ま、ま、マーク!! お前っ、若返ったのか!?」


 そこには俺の小さい頃からの幼なじみである、中本将貴なかもとまさたかが学生の時の学ラン姿でいたのである。髭をはやして茶髪にしていたはずなのに……若々しい。ちなみにあだ名はマーク。


「若返った? 何言ってんだ、お前?」


 そこで初めて俺は自分の姿に注目した。懐かしの学生服。机には勉強道具が広がっていた。

 そして、閉じられた教科書を見て戦慄する。


 3−4 相沢光樹


 そう俺の名前だ。そしてその横の数字は。


「クラスの組み……?」


 なんだこれ、なんだこれ?


「ナンダコレエエエエエエエエエエ!!!!!」


「うわっ、びっくりした。急に叫ぶなよ!?」


 俺が急に発した奇声によりクラス中が俺のことを注目していた。


「マークッ!! 今は!? 今は、一体何年!? 何年の何月何日!?」


 俺はマークの肩を掴み詰め寄った。気が狂いそうだ。


「な、なんだよ!! 今は、2012年1月18日だけど……」


 2012年だと……? 2012年……


「過去に戻ってるうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」


 今日一番の大声が学校中へと響き渡った。


 2012年1月。相沢光樹、15歳。中学三年生。俺は、十年の時を超えた。

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