最高の花嫁をもう一度! 〜幸せの絶頂期からなぜか青春時代へと戻った俺は最愛の彼女と再び結ばれるために奮闘します〜
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番外編
SS 一日遅れのクリスマス
※光樹がタイムリープをする前の年のクリスマスらへんのお話です。
「あっ!」
彼女が驚きの声を上げた。なにか珍しいものでも見つけたのだろうか。
「あそこの空き店舗、あのブランドが入ってたんだぁ」
彼女の視線の先には、とあるジュエリーショップがあった。テレビCMでもたまにやっているブランドで見覚えがある。先日まで改装工事が行われていて何が入るかなんて、彼女と予想していたところだ。
「行ってみる?」
「え? えっ?」
ふと、そんな言葉がこぼれた。
2022年11月26日。特に何かがあるという日ではない。なんてことのない普通の休日。俺と朝香はデートをしていた。デートといってもいつものように街をぶらつくだけで、特別何かをするというわけでもない。なんてことない日常。
「いいの? やった!」
子供のようにはしゃぐ彼女。その姿をみるだけでそう言った甲斐があったというものだ。
彼女の手を握りながらも俺は一緒にその店内へと入店する。店内にはショーケースが立ち並んでおり、スーツ姿の女性スタッフ数人がお客さんの対応をしているのが見て取れた。
「いらっしゃいませ」
少し、格式張った挨拶に軽く緊張を覚えながらも、俺は店内をぐるりと見渡す。
店内には三組のカップルがスタッフから何かの説明を聞いていた。そしてその恋人たちは一生懸命に、熱心にスタッフの言葉を聞いている。
「わぁぁぁ」
朝香が俺の隣でショーケースに張り付いて並べられたネックレスなどを見て、目を輝かせた。
「何かお探しですか? ブライダルものでしょうか?」
そんな朝香を見てスタッフがすかさず声をかける。
「はい、ブライダルもので」
「え? えっ!?」
即答した俺に対し、朝香は未だ理解が追いつかず、頭が混乱しているようだ。
「では、こちらへどうぞ」
俺と朝香を捕らえる獲物として捕捉したそのスタッフの動きは早かった。俺たちは流れるようにブライダルコーナーへと誘導されていく。
「みぃ、これって……?」
「ちょっとだけ見て行こうか」
「うん!!」
俺の言葉にパァっと顔が明るくなる。
「では、まずどのようなデザインが──」
それから俺たちはスタッフに希望する指輪のデザインや指輪のサイズ。そしてグレードなどを考慮して説明を受けたり、試着したりを繰り返した。
一般的に婚約指輪の場合、ダイヤのついたものをパートナーへ送る。ダイヤにも様々なグレードが存在し、それによって値段が異なる。カラット、カット、カラー、クラリティの所謂、4Cと言われるものだ。
俺はスタッフの話を聞きながらもその横で一生懸命に話を聞いて夢を膨らませる朝香の横顔を眺めていた。
「ご主人様は奥様のこと相当お好きなようですね」
そんな俺を女性スタッフはからかう。
「ご、ご主人!? えっと、えと。私たちまだそういう関係じゃ……」
「でも時間の問題でしょう?」
「……はいぃ……」
朝香は女性スタッフに詰められながらも、小さく返事した。その姿が愛しいのなんのって。
今日はただ見にきた、というだけで特に何も買うことはしなかった。
帰り際に女性スタッフに声を掛けられる。
「かわいい彼女さんですね。幸せにしてあげてください」
そんな言葉に対し、俺は。
「当然ですよ。一緒に幸せになりますから」
恥ずかしげもなく、そう答えた。
◆
12月24日はクリスマスイブ、そして25日はクリスマス。今年はそれぞれ土、日と丁度休みでカップルには非常にありがたい年となった。
俺はというと世間の空気と逆らって恋人である、朝香と会うことはできなかった。その理由は急遽、仕事が入り、休日出勤させられていたからである。会社の俺が所属している部署が顧客に提供しているWebサービスが障害を引き起こしてしまったのだ。
そのおかげで俺を含めた部署のメンバーが駆り出されたというわけだ。主任なんて血の涙を流しながら障害対応を行なっていた。どうやら、気になっていた女の子とデートを約束していたらしい。気の毒に。
そして今日は、2022年12月26日。
代休を取った、俺は土日会えないことを連絡していた朝香に一日遅れのクリスマスをしないかと誘った。
返事はもちろんYES。
未だ、クリスマスが終わったと言えど、街を彩るイルミレーションはそのままだ。その中には俺と同じく、クリスマスを一緒に過ごせなかった多くのカップルたちがチラホラと見えた。そして嬉しそうに並木道をどこかへ向っていく。
「みぃ、お待たせ! 寒いね、行こっか」
時計台の前、俺が一人で待っていると朝香が犬のようにとことこと近寄ってきてすぐにそう言った。
「えへへ」
彼女は俺の返事も待たずに俺が着ているコートの右ポケットへと冷えた左手を侵入させてくる。冬というのはこの瞬間のためにあるのかもしれない。大袈裟だけど本気でそう思う。
俺たちはポケットの中で指を絡ませ合う。
「ねぇ! どこへ行こっか!」
まだ俺たちのクリスマスは始まったばかりだ。
「ああ〜おいしかった〜! こういうの初めて食べたかも」
「うそ、去年もこういうとこ来たけど?」
「あれ? そうだっけ?」
俺が予約したフレンチのレストランでディナーを終えて、食後のコーヒーを楽しんだ。
すると朝香が何やら自分の鞄をゴソゴソと漁っている。
「どうしたの?」
「え? あ、ちょっと待ってね!」
「?」
「はいっ! Merry Christmas!! 一日遅れだけどね!」
「お、おお!!」
そうやって俺にラッピングされた一つの箱を差し出してくる。
俺はそれを受け取り、しばらく眺めていた。
「ねえねえ、開けてみてよ!!」
「ちょっと待ってね」
俺は丁寧にリボンを解いていき、ラッピングを破かないように開ける。
「キーケースだ!」
それは結構なハイブランドのもの。
「どうかな??」
「嬉しいよ、ありがとう!」
頬が緩む。そしたら次は俺の番だ。
俺はごそごそと自分の鞄からとある、紙袋を取り出した。
「はい、どうぞ。Merry Christmas!」
「やったっ! ありがと! ねぇ、開けてみてもいい??」
「どうぞ、開けてみて?」
朝香も丁寧にラッピングを剥がしていく。
「おおお? 化粧ポーチ!」
俺も同じく女性ものでハイブランドのものを選択した。
朝香が最近、「化粧ポーチがボロボロに〜」と言っていたのを思い出し、それにすることに決めたのだ。
「……ありがと! 大切にするね!」
朝香は大切にすると言った。もちろん、そうしてくれるだろう。だが、その様子からどこかいつもと違うような雰囲気が見て取れた。それを指摘してもきっと取り繕うだろう。
そして俺たちは会計を済まし、再び寒空の下へ繰り出した。
先ほど、待ち合わせをしていた時計台へ戻ってきた。そこからイルミネーションが続いている、広場の方へ向かって歩いていく。
「もう直ぐ、お正月だね〜。みぃは実家帰るの?」
「いや、今年は帰らないかな? 朝香はどうするの?」
「えっと……」
「よかったら初詣一緒に行こう?」
「……ずるいなぁ」
朝香は口を尖らせていう。朝香から言おうとしていたのだろう。
「誘ったもん勝ちってことで」
それに俺は笑ってそう答える。
「ねぇ?」
「ん?」
そして広場中央。なぜか、中央は薄暗く、これまで通ってきた道比べて極端にイルミネーションが少ない。そこで朝香が口を開いた。
「好き」
その言葉を聞いて俺は決心をする。
「朝香、目瞑って?」
「え? 何? キスでもするの!?」
「いいから!」
「む……」
ちゃかす朝香を強めに制し、目を瞑らせる。
そして朝香の手を取り、俺は左ポケットからとあるものを取り出し、朝香の細くて白い指にゆっくりとそれを通していく。
「目を開けていいよ」
「……? え!? こ、これって……まさか?」
コクリ。と俺は無言でうなずく。
「うおっ!?」
その瞬間、彼女は少し、目に涙を浮かべながらこちらにダイブしてきた。
「嬉しいっ……!!」
彼女の髪から香る甘い匂いが鼻腔を擽る。どれだけ朝香と一緒にいようといつもこの匂いにドキドキさせられる。
「えっと、本当は言葉にしなきゃいけないんだけど、それはもう少し、待って欲しい」
「え? どうして?」
どうしてって……
キョトンとした顔でこちらを見つめる彼女。不意にもう一度抱きしめたくなる衝動に駆られた。
本当は、プロポーズってサプライズとかがいいのかななんて、調べまくったし、悩みまくった。
こんな俺がサプライズなんてできるか不安だったが、まぁこの際だ。徹底して行うことにした。
「後、ちょっとだけ」
「え、何? 教えて?」
その瞬間に、先ほどまで薄暗かった辺りが一変に光で照らし出される。
赤、青、緑に黄色。
一面がカラフルで覆い尽くされた。
「わぁぁ!」
「朝香」
「へ?」
周りの電飾に気を取られた朝香をこちらの世界へ呼び戻す。
「結婚しよう」
「……!! はいっ!」
少し、目を見開きながら朝香の綺麗な涙が瞳からこぼれ落ちる。きっと嬉し涙。今だけは世界で一番幸せな自信があった。
そして、俺たちはまた、手をつないできた時よりもより強く、手を握り合い、広場の出口へ向かった。
「ふふ」
婚約指輪を見てニヤニヤする朝香が愛おしい。
「でも、今日はなんとなくそんな気がしてたな」
「え”?」
「だって、こないだ指輪見てたでしょ? あの時のみぃ、すごく真剣で何かを決心していたような顔してたもん!」
そんな顔してたかな? 全然覚えてないぞ。
「だから、クリスマスプレゼントって言われて指輪じゃなかったから少し、残念に思っちゃって……あ、もちろん、プレゼントは嬉しかったよ! それにさっきの瞬間、なんかピンときちゃったね! 歩いてる時、そわそわしてたし!」
完全バレバレじゃねぇか。
チキショーやっぱり、サプライズなんて苦手だ。
まぁ、俺らしいっちゃ俺らしいか。
「でもすっごく嬉しかった! ありがとうね? 大好き!」
そう言って、朝香は俺にキスをする。俺はそれに答えようと朝香を抱きしめるが……
「ぬ!?」
「はい、今はここまで!」
朝香に引き剥がされてしまった。
どうしてくれる、この熱いパトスを。迸ってるぞ。
そしてモジモジとしながら朝香は、もう一度近づき、耳元へ。
「続きはお家でね?」
この熱いパトス、持ち堪えて見せる!!
やっぱり、俺ってどこか単純かもしれない。
「メリークリスマス」
彼女はそう呟いた。
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