第4話:愛の言葉をもう一度
新入生は各教室へ移動し、これから自己紹介や今後の授業についてのオリエンテーションが始まろうとしていた。
俺のクラスは、1年6組だ。これは、以前の時と同じ。もしかしてと思い、周りを見渡すと懐かしい顔ぶれで溢れていた。半分くらいは顔見たら思い出したけど、もう半分は忘れていた。
朝香は俺とは別のクラスのようだ。非常に残念である。すっかり意気消沈してしまった。
結局のところ、朝香がなぜ俺が通っていた高校に新入生代表として入学したのかは分からない。前回と違う事象が起きたことによる混乱もあるが、ポジティブに考えようと思う。
朝香と青春ができるっ!!
こうなったらこの後、早速、朝香に話しかけにいこう! これは決定事項だ!
制服姿でデート。むふふ。考えただけでたまらん!
「相沢くん! 相沢くんってば!」
朝香との青春に妄想を膨らませていると隣から俺の机をトントンと叩き、呼びかけてくるものがいた。誰だ?
横を見ると、そこには入学式でも俺のことを気遣ってくれた美少女がいた。茶髪のショートカットで垂れ目が印象的である。さっきぶりだ。だけど一向に彼女のことは思い出せずにいる。おかしいな、これほどの美少女であれば、俺の脳内データベースに残っていても不思議ではないのだが。
「次、相沢くんの自己紹介だよ?」
よっぽどボケーっとしていたんだろう。俺の前のやつが自己紹介をしているところで、次に俺の番が回ってきたときに恥を掻かずに済むよう教えてくれたみたいだ。
いい子だな。当時の俺であれば惚れていてもおかしくはない。
「ありがとう」
お礼を言うと素敵な笑顔を返してくれた。
ちなみに席は出席番号順ではなかった。何の順番かは分からないが、ランダムのようだ。
「……です。抱負は……バスケ部でレギュラー取るのが目標です。よろしくお願いします!」
そうもしている間に前の男子の自己紹介が終わってしまった。懐かしいな。こいつは確か、
そしてカズさんの拍手が終わり、次は俺の自己紹介となった。
自己紹介と言っても話を全く聞いていなかったので何を紹介すればいいか分からん。とりあえず立とう。
「名前は、相沢光樹です」
「……え?それだけ?」
熊のような体の大きな担任の先生が俺のことを見つめてくる。
「何紹介すればいいんでしたっけ?」
「おいおい、話聞いておけよ。出身中学とか、高校での抱負とかをだな」
抱負か。俺の高校での目標など決まっている。
「嫁……ですかね」
「は?」
「嫁と青春を過ごすことです」
そして俺はそのまま自己紹介を終え、着席した。
一時的にクラス中の空気が冷え、その後、騒ついたが自己紹介は続いていく。
俺は再び、どうやって朝香にアプローチをかけるか脳内でシミュレーションを繰り返していくのであった。
各種オリエンテーションが終わり、今日は学校ですることがない。つまり下校の時間である。
俺は早速、朝香を探しにいこうとした。しかし。
「なぁ。相沢だよな? 三中の」
前の席に座る、ちび助から声をかけられた。なんですかな?カズくん。
「そうだけど、なんか用か? 俺、急いでんだけど?」
「お前、バスケ部入らねえの?」
そう。昔と同じような生活を送るなら俺はバスケ部に入るべきである。というか入らないと高校の時の友人関係が変わってしまうのではないかという恐れもある。
「うーん、まあ、分かんね。じゃ、悪りぃ。俺いかなくちゃいけないところあるから!」
「あ、おい!」
それでも朝香がいる以上、彼女と過ごすための時間を少しでも確保したかった。あんな地獄みたいな練習量があったら、朝香と会う時間も取れん!それはまずいぜ……
俺は、そのままカズくんを置き去りにして、早速他のクラスへ朝香を探しに向かった。
そして三クラスほど回った時、俺はついに彼女を見つけることができたのだ。彼女はちょうど、1年1組の教室から出てきたところで他の女子と一緒に帰ろうとしているところだった。
もう、友達ができたのか。流石、俺の惚れた朝香だ。朝香の隣にいたのは、俺の高校時代の時、とても人気のあった女子だった。その人気さ故、名前は覚えていた。
名前は、
だが、そんなことよりもだ! 俺は朝香の元へ全力で向かう。そして目の前に立った。
突然現れた俺に驚きながらも朝香は俺と目が合った。
「……えっと、何?」
くっ。思ってたよりもダメージが大きかった。もしかしたら朝香は俺のことを覚えていてくれてるんじゃないかと少し期待したが、そんなことはないようだ。俺のことなど全く知らないっぽい。それにしてもJK朝香かわいい。
「……」
「ねぇ、朝香。こいつなんか気持ち悪いよ。いこ?」
いざ彼女を前にすると先ほどまで考えていたことが全て吹き飛んでしまった。頭は真っ白だ。
そんな状態のまま、無言でいたら鈴木に気持ち悪い宣言されてしまった。
朝香からではないとは言え、女子から気持ち悪いと言われれば、結構傷つく。
朝香はそんな俺を横目でさらりと流し見すると鈴木と一緒に俺を無視して、去ろうとした。
「ま、待って!」
まだ、何を話すか俺の中では定まっていない。だけど、何か言わなくちゃいけない。また、朝香と一緒に過ごすためには。
朝香は俺の声に振り向き立ち止まる。
なんだ、何を言えばいい!? くそっ!? 落ち着け。落ち着くんだ。
ここでは彼女とは初対面なんだ。もう一度初めから。彼女と一緒になるためには、そう。段階を踏まなくてはいけない。
言うんだ。友達になってくださいと。言うんだ! 光樹!
──その時、俺の頭の中にこれまでの朝香との思い出が鮮明に蘇る。
朝香と出会った最初の頃のこと。そして一緒に過ごした月日。年月。楽しかったことや悲しかったこと。喧嘩したこと。彼女の笑顔。彼女を幸せにすると誓ったこと。彼女にプロポーズをした時のこと。泣いて喜んでくれたこと。
さぁ、今こそ──
「幸せにするので結婚してください!!!」
「……え!?」
「……ん?」
あれ? 俺? なんて言ったっけ?
「初対面でプロポーズはキモい……」
朝香はそう言うと鈴木と一緒にその場から走り去っていった。頭を下げて、手を差し伸ばした俺だけがその場に取り残されていた。
……間違えた。
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