第10話:トライアングル① 〜朝香視点〜
公開プロポーズ?から一週間が経とうとしていた。プロポーズ?を受けてからこの3日間ほど私は気が休まることはなかった。なぜなら、毎日のように呼び出され、男子から告白を受けていたからだ。中には先輩なども数名おり、断るのにもかなり体力を使った。
そんな私を気遣ってか、杏奈が私に近づく男子を片っ端から威嚇する様になった。初めは、冗談まじりに私を守ると言っていたのだが、数日間告白を受けて疲れ切った私を見るや否や、本格的に実行してくれることになったようだ。
おかげさまでそれから、心休まる毎日を送れるまでに戻った。しかし、その数日私の視界に現れたプロ男こと、相沢も杏奈の攻撃対象に入っていたため、未だ佐熊くんからの「あいつと少し話してやってくれないか」というお願いを聞けないでいた。
......別に私から話したいわけじゃないから。佐熊くんのお願いだから仕方なく......
あれからあいつの夢も見てないし、本当に偶然だったのだろうと思う。
今日は、クラスメイトの女子に誘われて部活の入部体験を行うことになっている。杏奈はもう既にバレー部に入ることを決めている様で、上級生に混じり、練習も本格的に行っていた。
杏奈は、バレーが相当上手な様で、元々彼女の地元でも有名な選手だった様だ。
私はというと、中学の時、バスケをしていた。高校では続けるつもりはあまりなかったのだが、クラスメイトの子がどうしてもと言うので体験入部ならと思って、今日だけ参加することにした。
更衣室で体操着に着替えて、更衣室から出ると誰かとぶつかりそうになった。
「わわっ!」
「あ、ごめんなさい!」
「いえ!大丈夫です!あっ!」
その子はかなりの美少女と呼べるにふさわしい子だった。柔らかな茶髪が揺れる。その子はなにやら私の顔を見て驚いた様子だった。どうしたんだろう?
そしてじっと私の顔を見つめていた。
「えっと、私の顔に何か付いてる?」
「......あっ!いえ、なんでもないです!ごめんなさいっ!」
茶髪の子は、慌てて頭を下げると体育館の方へ小走りで走って行った。
なんだったのだろう?
少し考えた後、結局何もわからなかった私もそのまま体育館へ向かうことにした。
この若宮高校は公立にも関わらず、かなり設備が揃っている。第一体育館もコートが四面もあり、男子、女子のバスケ部、バレー部にそれぞれ一面ずつ与えられていた。
もちろん、他の競技も別の体育館が用意されており、卓球部やバドミントン部などはそちらの体育館を使っている。
今日は体験入部ということで体操着に体育館シューズで練習に参加していた。本格的に入部する子はバッシュ(バスケットシューズ)を持ってきている子がほとんで気合の入れ方から違った。
既に入部している子は先輩たちと一緒に練習に混じっている。私みたいに体験入部で来た子や初心者の子は、コートサイドでパスの練習やドリブルの練習をしていた。
そして練習中、私は何やら視線を感じた。
その方向を見ると、杏奈がこちらを見て手を振っていた。
あ、怒られた。
杏奈は舌を出して、「やっちゃった」というような顔をして練習へ戻って行った。
その様子を見ていた私は、思わず、笑みが溢れた。
しかし、杏奈が練習に戻ったところで視線は止まなかった。
先程から、体育館内にいる、男子の視線はチラチラと感じていたのだが、そうではない。
こちらをチラチラどころではなく、紛う方なく、ガン見をしているやつがいたのだ。
そう、相沢だった。
その視線は男子バスケ部の練習など全く見ておらず、私だけを捉えていた。
こっち見過ぎ......なんなのあれ?あの人なんしにここに来たの!?
体操着に着替えてるし、体験入部に来たんだよね.......?なのに練習そっちのけで私のこと見てていいの!?
なんだかあそこまで見られると恥ずかしくなってきた......体操着だし、汗で透けてたりしないよね?
なんでまともに話もしていない男の視線で恥ずかしがらなければいけないのか、そう思い、気にしないことにした。のだが......
視線が気になって、仕方ない......
そんな視線の元、あまり集中ができなかった。まぁとりあえず、高校に来てまで本気でするつもりはなかったのでそこまでやる気を出す必要もなかったので今はこれくらいで十分だと思った。
しかし。
「ごめん、朝香!代わりの人いないからからこっちのチームには入ってくれない?」
なんと予想外の出来事。新人の子の実力を見るということで上級生の二、三年生対一年生の試合を行っていたのだが、一年生の子が足を捻ってしまったのだ。そこで抜擢されたのが私だった。
他に体験入部に来ていた子は初心者ばかりだったので、唯一の経験者である私に声がかかったというわけだ。
私、体育館シューズなんだけどな......
先輩たちの動きについていけるかな?
それだけが気がかりだった。この時、既に相沢の視線のことは頭から離れていた。
試合は私が出るまでやはり先輩方の方が日々練習を重ねている分、連携も取れており、優勢だった。
私一人が入ったところでどうにかなるとは思えないけど、とりあえず頑張ろう!
そして試合も再開し、私にボールが回ってきた。先輩の一人をドリブルで躱してシュート!だが、私が放ったシュートは放物線を描くも、リングから嫌われてしまう。
あれ?やっぱり、引退してから全然やってなかったからダメだな......
私は負けず嫌いな性格だと思っている。だからこの時、気づかなかった。試合時間が流れていくにつれて、私自身夢中になっているのを。
そして、気づけば私が放ったスリーポイントで同点にまで追いつき、試合は終了した。
「いよっしゃあああああああああああ!!!!朝香!!!ナイッシュー!!!!!!!うおおおおおおおおおおお!!!!」
そんなバカでかい声が、体育館全体に大きく響き渡った。
試合に夢中で完全に忘れていたが、相沢は私のことをずっと見ていたらしい。
本当に何してるのよ......やめて......恥ずかしいから......
自分の顔が熱く火照るのがわかった。これは単に試合をしたことによる火照りではない。
体育館にいるみんなが相沢を、そして私を注目しているのだ。バスケ部もバレー部も男子も女子もだ。
それに気づいた杏奈も手を止めて射殺す様な目で相沢を見ていた。
しかし、そんな相沢を男子バスケ部の先輩はよく思わなかったらしい。何やら相沢に文句を言って揉めている。
ああ、もう!何してるの!?
自業自得とはいえ、微妙に私も絡んでいるので少し気になってしまった。
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